第9話 飛べ!
「おい!それは本当か!?本当にあのライト兄弟が日本で研究すると言ったのか?」
皇居にある俺の部屋に俺の声が響く。
「えぇ。日本政府が金を出すから日本に来て研究してほしいと言ったら快諾してくださいましたよ」
クッキーがこともなげに話す。
彼女には実際にアメリカまで行って彼らに直接頼みに行ってもらっていたのだ。
「でかした!彼らが来れば我が国の航空機技術は大きく進歩する。世界最高水準になることは間違いないだろう」
俺はクッキーに走りよって抱きしめた。
(ちなみにこのときは犬の姿だった。人間になったときならちょっとまずい。この子一応メスだから)
そして話は急に飛んで3ヶ月後、上海港にライト兄弟は到着した。
「Welcome to Japan! I am glad to see you.」
(日本へようこそ!お会いできてうれしいです)
俺は船を降りてきた二人に英語で話しかけた。
しかし、
「陛下自らのお出迎え、これ以上の喜びはありません。陛下のご期待に添えるよう精一杯努力いたします」
と、日本語で答えた。
せっかく一生懸命英語で喋ったのに、と少しがっかりしたらジョンが耳元でささやいた。
「陛下、外国語は日本語に自動通訳されます」
そういえばそうだった…。
俺は咳払いをして日本語で、
「あなた達に不自由はさせません。研究費等何か足りないものがあったらすぐに言って下さい」
その後一緒に昼食をとり、彼らは研究施設のある上海郊外へと移動していった。
俺はそのまま汽車で西安に戻る予定だったがせっかく上海まで来たので上海市内でぶらりと歩き回り、出店で売ってる小籠包を買って食べたりしながら1日を過ごした。
俺は一般人になりすましていたので、警護の兵達は大変だった。
買い物客でごった返すメインストリートを俺がふらふら歩くため見失わないように必死だったようだ。
まぁ、でも俺は久々の休日というか息抜きが出来てよかった。
ただこの後俺が上海をふらついていたことがある新聞に載せられ、だからやめてくださいと言ったのに!とクッキーに怒られた。
さて、そんなことはどうでもいい。
ライト兄弟を研究者として迎え入れてから半年後、早速試作機第1号が完成した。
驚くべきスピードだがもともと彼らが日本に来る前から製作していたものを完成させて、日本側の研究者二宮忠八らとも共同して若干の改良を加えたものだ。
しかし、俺としては日本で飛行機が初めて飛ぶ姿を見てみたい!ということでまたまた上海まで出かけていった。
到着するとウィルバー・ライト(兄弟のうち兄貴の方)が出迎えてくれた。
「陛下、わざわざのお越しいただきありがとうございます。必ずや実験を成功させます」
冷静で生真面目という性格だと聞いたが本当にその通りだ。
顔がすごい緊張している。
彼は少し話すと実験の準備のため倉庫へ戻っていった。
そして1時間後、飛行機が倉庫の中から現れた。
「ライトフライヤー2号」と名付けられたその機は史実のそれと見た目は同じだった。
手元の写真(インターネットで拾った)と比べても素人の俺では見分けがつかない。
ただ、史実では「ライトフライヤー2号」は1904年9月20日に飛んでいるがこちらではまだ飛んでいない。
自転車屋で生計を立てていたのだが、そっちの業績が悪化しそれどころではなくなっていたという。
だから日本政府の話を渡りに船と受けてくれたのだが。
ちなみに今回の実験には民間人はいないものの多数の軍事関係者や政府官僚が出席している。
中には全く関係ない部署の人間まででているが、やはり空を飛ぶといのは人類共通の夢、仕事がどんなに忙しくても好奇心には勝てなかったようだ。
俺は失敗してもお咎めなんかないからな、と言っておいたがやはり失敗できないという緊張感が研究者達から感じられる。
今倉庫から出てきた機体を(昨日一晩中整備していたらしいが)まだどこかに不備はないかと端から端まで見回していた。
緊張がピークに達している様子のウィルバーが合図するとエンジンが点く。
操縦するのは弟のオーヴィル・ライトだ。
「いつでもいけるよ、兄さん!」
操縦席からオーヴィルが叫ぶ。
研究者たちの中で唯一緊張した様子がないのが彼だ。
パイロットだから一番緊張するはずだが(生死もかかってるし…)、ひょうきん者と知られる彼は緊張するどころかむしろとてもうきうきしている。
「よし、じゃあ始めろ!」
ウィルバーが叫ぶと飛行機はゆっくりと滑走を始めた。
ここの研究所には長さ5キロ、幅50メートルの滑走路が作られている。
やたらとでかいがまだ当時の飛行機はまっすぐしか飛べないし、航続力は無いに等しいのでいつ落ちてもいいようにこうなっている。
兄弟のライトフライヤー2号はしばらく陸を走り、その後ゆっくりと空へ舞い上がった。
周囲から歓声があがる。
実験は成功。
あとはそのまままっすぐ着陸すれば実験は終わる予定だった。
しかし、ライトフライヤー2号は旋回をはじめた。
俺はあわてて手元の資料を見る。
そこには飛行機による世界初の旋回飛行に成功したとあった。
陸にいるウィルバーや他の研究者達の顔を見ると皆満足そうな様子だ。
なるほど、今回の実験はただ飛ぶだけでなく旋回飛行の実験だったんだと今更だが思った。
ライトフライヤー2号は1周ぐるっと旋回するとそのまま着陸した。
かなり離れたところ(2キロくらいむこうかな)に着陸したため俺達は全員走って向かう。
(車があるが俺が走り出したため全員走ってついていかざるを得なくなった)
ウィルバーは飛行機のそばに立っていたオーヴィルにかけよると抱きしめた。
そして2人は俺に向かって、
「陛下、ご満足いただけたでしょうか?」
と聞いてくる。
「うん。想像以上だったよ。まさか旋回飛行までできるとはね。これからも期待してるよ。また新しい飛行機が出来たら教えてくれ。都合がつけば飛んでくるからな」
俺は本当に満足だ。
史実ならまだ飛行機なんて誰も知らないような日本に世界最高水準、というよりトップの飛行機があるのだ。
ライト兄弟の母国アメリカはサミュエル・ラングレーを中心に進めているが、うまくいってないようだ。
他国もまだようやく飛んだという段階。
自分の国が世界のトップにいるというのはやはり気持ちがいい。
ただこれからは本当に日進月歩で技術が進んでいく。
これからも油断せずに努力し続けなければならない。
他の工業水準もまだまだ劣っているしやらないといけないことも多い。
俺は自分を引き締めて西安に戻った。
昨日青春18切符を使って(往復12時間もかけ在来線で)大阪へ行ってきました。第一の感想は人が多い!それに電車も短いときには2,3分間隔!うちのほうでは20分、祖父母の家のほうでは1時間は間隔が空くと言うのに…。その電車も12両編成とかありますし。とにかく田舎者には驚くことばかりでした。
今回の名言↓
「もし、君が平和を望むなら、戦争に備えよ」
ー古代ローマの格言