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第二章 朝って何?

「ねぇパパ…朝って何?この本に書いてあるんだ。」


歳は7つか8つくらいだろうか。淡いブロンズの髪をした少年が、夕食を終え暖炉の前でうとうとしていた父親に尋ねた。

「“あ…さ”?…んん〜?パパにはわからないな。明日図書館にでも行って調べてみたらどうだ?」

父親は息子の持っている分厚い本を見て答えた。

少年は父親に聞けば解決すると思っていたのだろう、少し残念そうな顔をして

「そっか…そうしてみるよ。」と答えた。





「行ってきます。」翌日少年は朝一で家を飛び出した。

目的地はこの町で一番大きな図書館、読書が何よりも大好きな少年の一番好きな場所でもあった。


「あ…さ。……あ、あ、あ…さ…。駄目だ。“麻”とかしかでてこないや。」

図書館に駆け込んだ少年が真っ先に向かったのは辞典と事典のコーナー

小さな両腕に抱えれるだけの本を抱えて、少年は目的の言葉を探す。

しかし、少年が望むような答えは見つけることができなかった。


「すみません。朝って何かを調べたいんですけど?」

少年は図書館にいる役員の人に相談することにした。

対応してくれたのは初老の女性。「研究熱心な子だこと。」と言ってくすくす笑いながら手元のキーボードを叩いた。


「あら?その言葉に関する本はうちの図書館には無いみたいね。“麻”じゃないわよね。ごめんなさいね、ぼうや。」

そんなことは滅多に無いのだろう、初老の女性は驚いた顔をして申し訳なさそうに少年に言った。

町で一番の図書館に無いということは、どこにも無いということだ。

少年は図書館に行けば解決すると思ったのだろう、少し残念そうな顔をして

「そうですか…ありがとうございました。」と頭をさげた。





夜、少年はその日あったことを暖炉の前の父親に伝えた。

「…それでね、あの図書館に朝に関する本はなかったんだ。だから調べられなかったよ。どうしようパパ」

父親は残念だったねと少年の頭を撫でながら言った。

「本に書かれてないからって諦めることはないぞ。そういう時は人に聞くのが一番なんだ。」

「人に?」

「そうだ。わからないものほど意外な人が知ってたりするからね。まずは学校の友達とか先生に聞いてごらん。」

「もしそれでも分からなかったらどうするの?」

「次は町だ。知ってる人、知らない人誰だっていい。いろんな人から聞いてごらん。」

父親のアドバイスに視界が突然広くなった少年はうれしそうにお礼を言った。





翌日、学校へ行った少年は隣の席の女の子に尋ねた。

「ねえ…朝ってなにか知らない?」

女の子は少し悩んでから首を横に振った。

「わからないよ。どうして?」

「本に書いてあったんだ。でも何なのかが全然分からなくて…」

少年が残念そうにしていると「図書館では調べてみた?」と女の子が聞いてきたので昨日の事を教えてあげた。





同じようにクラスで一番力持ちのガキ大将のところへ行って少年は尋ねてみた。

「ねえ…朝って何か知らない?」

ガキ大将はもともと少年のことが嫌いでぶっきらぼうに言い放った。

「知らねえよ。こっち来んな!!…大体クラスで一番頭がいいお前が知らないこと知ってるわけ無いだろ。」

そういってガキ大将は仲間を何人か引き連れて行ってしまった。





今度はお金持ちのお坊ちゃまのところへ行って少年は尋ねた。

お坊ちゃまは少年の知らないいろんな物を見せてくれる友達だった。

「ねえ…朝って何か知らない?もし持ってたら見せて欲しいな。」

お坊ちゃまは首を傾げて少し悩んだ後

「いや…僕もそれは持ってないな。初めて聞いたよ。今度探してみるね。」

「そっか…うん、よろしくね。」

「どうしても知りたいなら先生に聞けばどうかな?」

お坊ちゃまのアドバイスで少年は職員室に向かった。





担任の先生は日誌を書いているようだった。

「先生…朝って何か知ってますか?本に書いてあったんです。」

担任の先生は手持ちの辞書などを持ち出して探し始めた。

しかし見つけられず、周りの先生にも聞いたが誰ひとりとして知らなかった。

「ごめんなさい…ちょっと分からないわね。図書館にも無かったんでしょ。本当に専門的な言葉なのかも知れないわね。」

少年は学校に行けば解決すると思ったのだろう、少し残念そうな顔をして

「そうですか…ありがとうございました。」とお礼を言った。





その帰り道、少年は知ってる限りの知り合いを尋ねることにした。


まずは酒屋のおじさん、陽気な人だ。

「ねえ…朝って何?」

「なんだそりゃ?新しい食い物か?がっはははは!!」



次に床屋のおばさん、いつも丁寧に切ってくれる。

「ねえ…朝って何?」

「知らないわねえ…何かの部品かしら」



物知りのトミーじいさん。前にも色々教えてもらった。

「ねえ…朝って何?」

「朝?…分からないのぉ…新しいものじゃないのかい?」





町にいる知らない人にも聞いてみた。


高校生のおねえさん。めがねをかけていた。

「ねえ…朝って何?」

「ごめんね。んん〜、学校では習わないなぁ」



怖そうなおにいさん。髪がギラギラしていた。

「ねえ…朝って何?」

「なんだおめぇ…知らねえよ、そんなもん。」



金髪のお姉さん。ちょっとHな服をきていた。

「ねえ…朝って何?」

「わからないわ…ごめんなさい」






「ねえ…朝って何?」

「君…朝を知りたいのかい?」

そう言ってきたのは黒髪の青年だった。

「知ってるの?」

「ああ…」

「お願いします。教えてください。」

「礼儀正しい子だな。いいだろう。」

青年は微笑んでしゃべり始めた。

「朝って言うものは常に僕ら人間のそばにあったものだったんだ。でも…いやだからこそ、人間はそのありがたみに気づかなかったんだね。

ある時人間は戦争をしたんだ、核を使ってね。…え?…核…ん〜…とても大きくて強力な火のことさ。

でもね、その核でまきあげられた砂やチリや埃が、人間から朝を奪ってしまった。人間は今まで住んでいたところでは生きていけなくなり穴を掘ったんだ。

そしてその穴に町をつくり、法をつくり、道徳をつくり、価値観をつくり、やがてそこには国が生まれたんだ。

それが僕らのご先祖様のお話。だから朝はずっと昔に死んでしまったんだよ。……ははは難しい話だったかな。ごめんごめん。」


少年は少し難しい顔をしていたが、ひとつの答えに行き着き満足したのだろう。

笑顔を作り、青年に会釈して言った。


「ちょっと分からなかったけど、ありがとうございました。朝ってとても大切なモノだったんですね。」

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