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死ぬ直前だけ発動する時間停止能力を手に入れた俺、知恵だけで異世界を生き抜く  作者: tsugumi.


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9/17

支配竜調査隊

少し短めです。

朝の空気はまだ冷たかった。


宿の窓から差し込む光は昨日と同じように穏やかだったが、町の雰囲気はどこか違っていた。

外から聞こえてくる声が、少しだけ慌ただしい。

ソウマはベッドの上で目を開ける。


「……」


しばらく天井を見つめる。

目は覚めているのに、体はまだ少しだけ重い。

昨日の出来事を思い出していた。


森から出てきた黒い影。

黒い鱗と赤い目。

あの巨大な竜の姿は、今でもはっきり思い出せる。

圧倒的な存在感。

ただそこにいるだけで空気が変わるような威圧感。


「……あれで子供、か」

ソウマは小さく呟いた。

リリアとギルドマスターの言葉だ。


それと、もう一つ。

俺の属性のことだ。

「光と……叡」

意味が分からない。


光属性は分かる。

レアと聞いて嬉しくは思う。

だが叡属性など聞いたことがない。

強いのかどんな魔法があるのかさえ分からない。

「……なんなんだよ」

腕を枕にして天井を見る。

この世界に来てから、分からないことばかりだった。


だが――

少しだけ思う。

「まぁ……悪くないか」

不思議と嫌ではない。


新しい世界。

未知の力。

冒険者という生き方。


少なくとも前の世界より退屈はしない。

そう考えると、少しだけ笑ってしまった。


その時だった。

コンコン。

扉を叩く音。

もう起こしにくるのが日常のような気すらする。


「ソウマ、起きてる?」

聞き慣れた声がする。

「起きてる」


扉がゆっくり開く。

リリアが顔を出した。

朝の光が銀色の髪を照らす。

「おはよう」

「おはよう」


互いに朝の挨拶を交わしてから、ソウマは体を起こす。

リリアはソウマの顔をじっと見る。


「眠そう」

「まだ起きたばっかだからな」

「顔がぼーっとしてる」

「放っといてくれ」

リリアは少しだけ笑った。

そしてすぐ真面目な顔になる。


「今日は大事な日になるだろうね」

「大事な日?」


ソウマが首を傾げる。

リリアは静かに言った。

「ギルドから呼び出し」

「……は?」

「支配竜の調査隊が出るのは知ってるでしょ?あれに同行しなきゃいけないんだと思う」

ソウマは一瞬黙った。

「リリアはともかく、俺も?」

「ソウマも支配竜に遭遇して、戦っているんだから、不思議なことじゃないわよ」

リリアは腕を組む。

「普通はもっと準備するんだけど、状況が状況だからね」

「あんなに近くにいたんだからな」

「そうね」

ネグラディアは放置しておくには危険すぎる存在だ。

街に攻められたら壊滅する可能性だってある。

森の中にいるとはいえ、いつ動くか分からない。

だからこそ、ギルドも早く動いたのだろう。


「とりあえず」

リリアが言う。

「朝食食べてからギルド行きましょう」

「やっぱそこか」

リリアは少しだけ顔を背けた。

「お腹減ってるんだから仕方ないでしょ」

「はいはい」

ソウマは軽く笑う。

二人は部屋を出て食堂へ向かった。


宿の食堂はすでに賑わっていた。

昨日よりも明らかに人が多い。

ほとんどが冒険者だ。

鎧を着た者。

剣を背負った者。

杖を持つ魔導士。

様々な装備の冒険者が席についていた。

焼きたてのパンの香りが広がる中で、低い声の会話があちこちから聞こえる。


「ネグラディアらしいな」

「街道近くで見たらしいぞ」

「本当か?」

「ギルドが調査隊出すって」


そんな会話が聞こえた。

ソウマとリリアは空いている席に座る。

すぐに料理が運ばれてきた。


焼きたてのパン。

野菜のスープ。

卵料理。


リリアはパンを取った。

「いただきます」

すぐに一口食べる。

ソウマは苦笑する。

「早いな」

「体力つけないと。ソウマもトレーニングとかした方がいいわよ」

今はできる状況じゃないけどね、とリリアは真面目な顔で言った。

ソウマもパンを食べる。

温かい。

穀物の香りが口に広がる。

スープを一口飲むと、体の奥まで温かさが広がった。


「調査隊って誰でも行けるのか?」

ソウマが聞く。

リリアは首を横に振った。

「普通は無理」

「やっぱり」

「上位冒険者が中心になると思う」

「俺も行くんだろ?」

「多分ね」

「説明だけならいいけどな」

戦闘となれば話は別だ。

今の自分では足手まといになるだけだろう。


朝食を終える。

二人は宿を出た。

町の空気は昨日と少し違っていた。


人が多い。

特に冒険者。

鎧を着た者が通りを歩き、武器を背負った者が店の前で話している。

荷車を押す商人の横を、剣を背負った冒険者が通り過ぎる。

「冒険者増えたな」

ソウマが言う。

リリアも頷いた。

「近くの町から来てるのかも」

ネグラディアの情報が広まれば、冒険者は集まる。

危険だが報酬も大きい。

それが冒険者という職業だった。


市場の前を通る。

屋台が並び、商人が声を上げていた。


「効き目のいい薬草だよ!」

「朝採れの野菜!」

町はいつも通り賑やかだ。


二人は石畳の通りを歩く。

やがて冒険者ギルドが見えてきた。


石造りの大きな建物。

今日は特に人が多い。

入口の前にも冒険者が集まっている。


扉を開ける。

中はかなり騒がしかった。


「見たか掲示板」

「調査隊募集だ」

「中級以上だってよ」

「ネグラディアだぞ」

様々な声が飛び交っている。


掲示板の前には人だかりが出来ていた。

ソウマとリリアも近づく。

掲示板の中央。

大きな依頼書が貼られている。


リリアが読む。

「ネグラディア調査隊募集」

「そのまんまだな」

ソウマが言う。

リリアは続きを読む。

「参加条件、中級以上。報酬、金貨5枚」

その時だった。

低い声がギルドに響く。


「お前たちは」

振り向く。

一人の男が立っていた。


長いコート。

鋭い目。

細いながらも頼れる背中。

周囲の冒険者たちが自然と道を開ける。

「町長様だ」

誰かが小さく言った。

「嘘だろ」

「初めて見たぞ」

「あの町長様か?」

ギルドがざわつく。


「静まれ」


町長様と言われた男はよく通る声でそれを黙らせる。

男は二人を見る。

「ソウマとリリアだな」

「ええ」

リリアが答える。

男は頷いた。

「少し話がある。奥へ来てくれ」


ソウマとリリアは顔を見合わせた。

そして頷く。

二人は男の後について行った。


ギルドの奥。

重い扉を開く。


そこは静かな部屋だった。

大きな机。

壁には広い森の地図が掛けられている。


男は椅子に座る。

「座ってくれ」

二人も椅子に座った。

男は腕を組む。

「私はこのガルネスの町長だ」

「ガルネス……?」

「この町の名前よ。話を続けて」

「ネグラディアの件、報告は聞いている」

リリアとソウマが頷く。

男はソウマを見る。

「最初に発見したのはお前たちだな」

「そうなるな」

「詳しい状況をもう一度自分で聞きたい」

二人は森での出来事を説明した。


黒い鱗。

赤い目。

巨大な体。

そして魔物を従える能力。

話しているうちに、あの時の空気を思い出す。

森の静けさに響く圧倒的な存在感。


町長は黙って聞いていた。

しばらくして、ゆっくり言う。


「……間違いない。危険度、厄災級だ」

部屋の空気が少し重くなる。

だが、次の言葉でソウマは言葉を失う。

「ーー最悪、この町は捨てる」

「マジかよ」

「いや、捨てさせないわ」

ソウマは聞いた。

「討伐に行くのか?……そもそも、出来るのか……?」

男は首を横に振る。

「今はまだ調査だ。あまりにも戦力が足りん。だから調査隊を出す」

リリアが聞く。

「私たちは?」

男は少し考える。

「本来なら参加資格はない。だが、ネグラディアの発見者だ。こちらから同行を願う」

二人を見る。

「そもそも、同行してくれないと調査に多大な支障が出る。強制的にでも連れて行くつもりだが」

「いーや大丈夫だ。そんなことしなくても俺は行く。つまりリリアも行く」

「なんでそうなるのよ」

「放っておけないんだよな」

もう、と言いながらも、

「私も行くわ」

男が頷く。

「感謝する。ただし」

町長の目が鋭くなる。

「戦闘は上位冒険者に任せろ。最低限の自衛のみやれば良い」

「それすら不安なんだけど……」

「大丈夫よ」

リリアが答えた。

男は頷く。

「出発は明日の朝だ。準備をしておけ」


二人は立ち上がった。

部屋を出る。

ギルドの中はまだ騒がしい。

ソウマは息を吐いた。

「やはり参加することになったか」

リリアは少し誇らしそうに言う。

「私の言った通りだったでしょ」

掲示板を見る。

多くの冒険者が名前を書いている。

強そうな冒険者だけではなく、魔術師たちも名前を書いていた。


ソウマは窓の外を見る。

遠くに森が見える。

ネグラディアがいる森。

風が静かに吹く。

「……また会うかもしれないのか」

リリアはソウマを見る。

「緊張してる?」

「いーや、楽しみにしてるよ」

そうバレないように強がった。


もう一度森を見る。

その瞬間――

わずかに頭の奥がざわつく。

叡属性。

まだ使い方も分からないその力が、

森の奥にある“何か”を感じ取った気がした。

「……気のせいか」

気になるが、考えてていたら神経が擦り切れそうだった。


確かに森にいる。

支配竜ネグラディア。


明日、調査隊は森へ向かう。

その森の奥で――


ネグラディアが目を開いていた。

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