銀狼族との出会い
あれから3年が経った。
俺は街に向かうために歩き続けていた。
周囲には草木しかない代わり映えのない光景だったが、ひたすら町を目指して歩き続けている。
あの日、エンペラーから追放宣言を受けて以来、ずっと1人旅だった。
誰かとパーティを組む気にもならなかった。なるはずが無かった。
今はとある目的で旅を続けている。それはエンペラーの連中を探すことだ。
だが既にエンペラーというパーティは解散してしまったらしい。何故そうなったのかは不明だ。
解散した時にメンバーはそれぞれ別々に散らばってしまったらしい。だから俺はそいつらを探す旅をしているのだ。
この3年間は色々と忙しかった。だから詳しい情報は殆ど知らない。
こうして地道に探すしかないのだ。
「ん~……やっぱ馬車に乗ったほうがよかったかな」
別に好きで歩いているわけじゃない。ここ最近は体を動かしてなかったから体力を付けようかと思っていただけだ。あと馬車代節約。
それに両手に手袋を付けているからな。ちょっぴり暑くなってきた。
だが次の町までまだ距離がありそうだ。せめて日没までに到着できればいいが……
そんなことを考えている時だった。
「……はぁ……はぁ…………」
ん? どっかから声が聞こえる?
それに魔物の気配がするな。何処だろう?
少し待っていると、茂みから1人の女の子が飛び出してきた。
「…………!」
「お?」
「あ……あ……人間……!?」
まだ子供だ。小さな女の子が怯えたような表情でこっちを見た。
「こんな所でどうしたんだい? 迷子かな?」
「あの……私は……その…………あぅ……」
……いや待て。この子は普通の人間じゃない。
よく見たら耳と尻尾が生えている。
あの子は獣人に違いない。
あの毛並みはまさか……
「お前ひょっとして……『銀狼族』か?」
「!!」
ふむ。どうやら図星のようだ。
銀狼族。
それは獣人の一種で、普通の人間と違って耳と尻尾が生えている。
特徴的なのはその毛並みだ。
銀狼族は銀色のような髪をしていて、耳と尻尾も同じような色をしている。
だから銀狼族を呼ばれている。
今まさにその銀狼族の子供と遭遇しているわけだ。
「珍しいな。あまり人前に出ないって聞いたけど……」
「…………あ、あの……」
「ん? どうしたんださっきから?」
「た……たすけ……て……」
「え?」
何かに怯えるような表情だ。
どうして助けを求めているのか聞こうとした時だった。
「ガァァァァ!」
「ひぃっ……」
女の子の背後から魔物の声がした。
……なるほど。状況はだいたい分かった。
「ふーむ。今の声はオークかな? ということは君はオークから逃げている……ってことでいいのかな?」
「う、うん……」
「そういうことなら任せろ」
そう言った瞬間、茂みからオークが飛び出してきた。
「グガァァァァ!」
「……ッ!」
オークは今まさに女の子に襲い掛かろうとしていた。
そうはいくか。
「しばらく眠ってろ――《スリープ》」
「ガァァァ…………」
俺が魔法を発動させると、オークはその場で止まった。そして膝から崩れ落ち地面に倒れた。
「! す、すごい……」
「そいつはまだ死んでないよ。起きる前に早く安全な場所まで逃げるんだ」
「う、うん……」
俺が走り出すと女の子も一緒に付いてきた。
色々聞きたいことはあったがとりあえず後回しだ。
「とりあえずここまで来ればいいだろう」
「…………」
俺は女の子を引き連れ、ある程度距離を稼いだ所で立ち止まることにした。
「少し走ったから疲れたな。あそこの岩場で休憩しよう」
「う、うん……」
離れた所にある岩場まで移動し、そこで荷物を下ろして座ることにした。
女の子も同じように近くに座った。
「さてさて。じゃあ何であんな所に居たのか話してもらえるかな。ここらは魔物が出るから危険なはずだ。もしかして親とはぐれたのか?」
「ううん。違うの……」
「ならどうしてあんな危険な場所に?」
「私はね……村から追い出されたの……」
「へ?」
追い出されたとは穏便じゃないな。
何かあったんだろうか。
「追い出されたって……何かあったの?」
「…………」
「……?」
女の子は黙ったまま顔を背けてしまった。
「いやまぁ……無理に話さなくてもいいよ。聞かれたくない話なら話したくないだろうし」
「…………」
「あ、そうだ。飯食うか? まだ干し肉が余っているはずなんだ。どう?」
「…………」
「…………」
き、気まずい……
さっきからずっとダンマリだ。
もしかして触れてはいけないことを聞いてしまったんだろうか。
しばらく会話も無く時間だけが過ぎいった。
少しでも雰囲気を変えたい思って話しかけようとした時だった。
「…………ねぇ」
「ん? どうした?」
「おじさんは私のこと見ても気持ち悪がったりしない……?」
「おじ……」
俺の心に致命的なダメージ!
「せ、せめてお兄さんと呼んでほしいな……。こう見えてもまだ20代なんだよね……」
「え、あ……ご、ごめんなさい!」
「いや別にいいさ。ははは……」
そうだよな。子供からしたら俺もおじさんだよな。
やべぇ……泣きそう……
「そ、それでさっきのはどういう意味だ?」
「あ、うん。私はね。村のみんなとは違うからいつも虐められてたの。そのせいで追い出されちゃったの……」
「違う?」
違うって何が違うんだろうか。
俺は銀狼族のことは詳しく知っているわけじゃないが、目の前の子は普通に獣人の格好をしているようにしか見えない。
耳も尻尾もあるし、銀狼族の特徴である銀色の毛だし。
見た目ではさっぱり分からん。
「どこが違うんだ? どこもおかしくないように見えるが……」
「私のこと見ても……避けたりしない? 叩いたりしない? 殴ったりしない? 蹴ったりしない? 気持ち悪がったりしない……?」
「しないしない。俺にそんな趣味はない」
「じゃあ……見せるね……」
そういって近くまで寄ってきた。
女の子は正面から俺の事を見つめる。
実に可愛らしい顔をしている。髪も長く、ここまで整った顔をしている子はそうはいないだろう。
大人になれば間違いなく美人になるはずだ。
そんなことを考えながら顔を見続ているとあることに気づく。
「……あれ? 目の色が違う……?」
「…………」
よく見ると目の色が左右で違うのだ。
左目が蒼く、右目は薄っすらと紅い。
これはオッドアイと呼ばれるやつだな。
「へぇ珍しいな。オッドアイなんて初めて見たかも」
「…………」
「で。これがどうかしたの?」
「この目のせいで……村のみんなから嫌われていたの……」
「……!」
あーそういうことか。虐められてた理由が分かった気がする。
「他のみんな普通なのに、私だけ違っていたからいつも異物扱いされてた。悪魔の子だとか、魔物みたいだとか、呪われた子だとか……毎日のように言われてた……」
「…………」
体の一部が少し違うってだけで排除されていたわけだ。
こういうのは別に人間や獣人に限った事じゃない。自然界でもよくあることだと聞いた。
例えば昆虫や鳥だって、見た目が少し違うという理由だけで仲間から虐められることがあるという。
こういうのは生き物としては仕方のない反応なのかもしれない。
そういえばさっきからずっと目を合わせようとしてこなかったんだよな。
てっきりシャイな子だと思っていたが……なるほど。こういうことだったんだな。
「そっか。ごめんな辛いこと聞いちゃって」
「いいよ……もう慣れたから……」
「しかし勿体ないよな。そんなカッコいい目をしてるのに追い出すなんて」
「……へ? かっこいい?」
「だって左右で目の色が違うんだぜ? なんかこう……ロマン的な感じなった気がしない?」
「え、えぇ……」
ぶっちゃけこういうのにちょっぴり憧れていたりする。何というか男のロマン的な?
俺もああいう目をしてたらモテたりしないだろうか。
「目の色違うだけで普通に見えるんだろ?」
「う、うん……」
「だったら問題ないじゃないか。こんなにカッコいいのに追い出すなんて勿体ない。銀狼族ってのは見る目がないんだな」
「…………」
「いや女の子にカッコいいは失礼か。この場合は可愛いと言った方がいいのかな? なかなか似合ってると思うぞ」
「…………」
「ん? どうした? 顔が赤いぞ?」
「だ、だって……その……か、かっこいいとか、可愛いとか……い、言われたことがないし……」
女の子は顔を赤くしながら目を反らしてしまった。
こうみると普通の可愛い子供なんだけどな。
「その目は似合ってると思うぞ。他のやつらには真似できない君だけの特徴じゃん。もっと自信持っていいんじゃないか?」
「そ、そうかなぁ……?」
「俺はその目は好きだぞ。カッコいいし可愛いし。最高じゃん」
「も、もぉ……えへへ……お兄さん言い過ぎだってぇ……えへへへ……」
よかった。さっきの暗い雰囲気は無くなったようだ。
やっぱり可愛い子には笑顔でいてほしい。




