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魔術に関する考察  作者: 筆を折った人間
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ある世界の魔術に関する考察

 この世界では幾つかの系統の魔術がある。呪文による魔術、儀式を行う魔術、神々の力を借りる奇跡である。

 呪文による魔術は以下のような背景を持つと思われる。


1. 呪文による魔術は呪文を唱えることによって発生する

1.1 呪文は文章からなる。

1.2 文章とは文法に従って、言葉を並べたものである。

1.3 文法とは言葉の規則であり、一種の形式である。

1.4 言葉とは存在や概念を表すものである。

1.4.1 言葉はしかし、存在や概念とイコール関係では結ばれない。完全にイコールであるならば、類語や一つの対象に対して、それを指す複数の言葉は存在する事態はあり得ない。

1.4.2 言葉はそれ故、存在や概念の一部を切り取ったものである。

1.5 言葉は時代や状況、それから発する人間の認識によって意味合いが異なる。


2. 時代は言葉を規定する。

2.1 まだ、王がいない時代において、王という言葉はない。

2.2 時代が進むにつれ、言葉は新たに生まれる。

2.3 文法は時代によって規定される。

2.4 したがって、文章は時代によって形式が変化する。

2.5 呪文は1.1で示したように文章の一形式である以上、時代によって形式が変化する。

2.6 時代による文章の変化が呪文の変化をもたらし、その変遷の蓄積が魔術を体系づける。


3. 状況も言葉を規定する。

3.1 例えば、疲れた際に発する「ああ」という言葉と、絶叫した際の「ああ」という言葉は文字では同じだが、同じ意味ではありえない。

3.2 状況が言葉を規定する以上、それから構成される文章も状況によって規定される。

3.3 呪文も1.1で示したように文章の一形式である以上、状況によって意味が変化する。

3.4 呪文が魔術として効果を成すかどうかは状況による拘束が大きい。


4. 人間の認識も言葉を規定する。

4.1 例えば、火の熱さに重点を置く人間と明るさに重点を置く人間の間では「火」という言葉に対する意味合いが変わってくる。

4.2 認識はその人の経験からなる。

4.3 経験の完全な一致はあり得ない。

4.4 したがって、認識の完全な一致はあり得ない。

4.5 それ故、認識される言葉の意味合いも一致することはない。

4.6 言葉の意味の一致がない以上、文章の意味の一致もあり得ない。

4.7 呪文も1.1で示したように文章の一形式である以上、人間の認識によって意味が変化する。


5. それ故、呪文は時代によって体系づけられ、状況によって発動するかどうかなどが決められ、人間の認識によって意味が変化する。


6. しかし、言葉は存在や概念の一部を切り取り、それを特定の文字の並びによって一つの形式に押し込めたものである。つまり、言葉は形式という観点において、意味の無限な解釈を押しとどめる。

6.1 文章は1.3で示したように言葉を文法で規則づけたものである。規則は一形式であり、文法も規則に含まれる以上、その一形式である。

6.1.1 したがって、文章は存在や概念の意味を言葉と文法という二重の形式によって意味の無限な解釈を押しとどめている。

6.2 呪文は文章の一形式である以上、6.1.1が適用される。


7. 5と6.2を総合すると、呪文は時代によって体系づけられ、状況により発動するかどうか決められ、人間の認識によって意味が変化するが、一方で文章という形式に押し込められた故、一定の範囲内での意味を持つ。

7.1 呪文は文章の形式の範囲内で自由な意味合いを持つ。

7.2 この意味合いは4. で示したように人間の認識にその源泉を持つ。

7.3 呪文による魔術が発動する際の威力や効果の微妙な差異はそれ故、人間の認識に由来する。


8. 仮に本来呪文による魔術が、その形式を外して発動するならば、それは文法、言葉の意味を通さない、人間の認識の純粋な顕現になる。

8.1 しかし、認識は経験からなる以上、存在、概念の純粋な顕現ではない。あくまで、その人間の認識の顕現である。


 

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