前編
古びた二階建てのアパートの前に、三人の作業着姿の男がいた。
彼らは協力して一体の地蔵を運んでいる。
茶髪の男が気味悪そうに言う。
「皆殺し地蔵……雑に扱った人間を押し潰すって本当かな?」
「知らん。だがこうやって俺達が運ばされてるんだ。信憑性は高いだろう」
眼帯を着けた男が渋い顔で述べる。
やり取りを聞いていた野球帽の男はアパートを見上げた。
「致死率300%事故物件って言うんだっけ。馬鹿みたいな名前だけど、部屋を破損させた人間を必ず呪い殺すとか」
「絶対ヤバいよな……俺もう怖いもん」
茶髪の男が泣きそうな顔で呻いた。
ため息を吐いた眼帯の男は二人を励ます。
「皆殺し地蔵を致死率300%事故物件に運び込むだけで、俺達の借金はチャラになる。やり遂げれば人生逆転だろ」
「そ、そうだよな。ごめん、頑張るよ」
「よし! 終わったらみんなで居酒屋行こう!」
元気を取り戻した三人は、地蔵を持ち上げて二階へと移動する。
そのまま奥の部屋の扉を開けた。
薄暗い室内には一通りの家具が揃っている。
ただし人が住んでいる気配はなく、あちこちに埃がたまっていた。
「地蔵……どこに置けばいいかな」
「玄関でいいだろ」
「いや、指示書には和室まで転がせと書いてあった」
「嫌だなぁ……」
三人は玄関に地蔵を置くと、玉ころがしの要領で和室を目指した。
地蔵が回転するたび、フローリングに細かい傷が付いていく。
それに気付いた茶髪の男は思わず顔を顰めていた。
「お、終わりだ……呪いが来る……」
「呪いなんてない。気にするな」
眼帯の男が否定した直後、部屋全体が軋み始めた。
茶髪の男は「ひっ」と声を上げて固まる。
「やっぱり! 家が怒ってる……俺達は呪われたんだっ!」
「怖がる暇があるならさっさと仕事を終わらせるぞ!」
「でもこれは本当に不味そうですよ。仕事なんて放り出して逃げた方が……」
野球帽の男が控えめに提案しかけた時、台所の蛇口から勢いよく水が噴き出した。
さらに電子レンジやテレビが勝手に起動し、天井裏で誰かが走り回る音が鳴り響く。
連続して発生した怪奇現象に、茶髪の男が驚いて転倒する。
その拍子に地蔵を壁にぶつけてしまい、頭部の一部が僅かに欠けていた。
「あっ……」
穏やかだった地蔵の顔が、徐々に般若のように歪んでいく。
一方、テレビのチャンネルが凄まじい勢いで切り替わり、途切れ途切れの音声が意味のある言葉を作った。
『こ……ろ、して……や……る……』




