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鷹狩一行

「すいません……」


 鷹に髪をぼさぼさにされた……いや鷹はまだ私の髪を啄んでいるのでされているが正しい……状態のまま私は地べたに座りながら、謝罪した。

 飛び込んだのは私だし、獲物……鶴を逃がしたのは私だ。

 そして相手は刀を持っているし、身なりがそれなりにいい。つまりは侍だ。

 着物をはだけて、着崩しているからラフすぎるけど。


 ともかく、謝っておかないといのちがあぶない。

 無礼討ちにされるかもしれない。


 鷹に突かれながらの謝罪は真摯さよりも滑稽さが勝っていたからかもしれないが

「よい」

 笑いを堪えた声で、まだ随分若く見える男は言った。


「狙った獲物には逃げられたが……くく……随分大きな獲物を捕らえたからな……くくく……ハハハ!」

 全然堪えてない!?そんなに笑わなくてもよくない!?


 ひとしきり笑い終える(その間に農民風の恰好をしたお付きの人が鷹を回収してた)と、男は私に手を差し伸べた。

「それでお転婆姫はこのようなところをなぜ走っていた?」

 お転婆じゃないです……。深窓の令嬢です……などと思いながら手を取った。

 ちょっともじもじしながら私は答える。

「ちょっと物見に」

「「「ちょっと物見に」」」

 鷹狩一行の声がハモった。


 槍を持った背の高い男が、私に鷹をけしかけたリーダー格の男にこそこそ話しかける。

「おい頭、この娘おかしいんじゃないか?」

 聞こえていますが?

 男は鷹騒動の際に散らばったらしい私の『御札』を拾い集め、しげしげと眺めながら言った。

「確かにおかしいが、それは初めからわかっている」

 聞こえてんぞ?

「だからおもしろいのだ」

 その言葉に槍男は大きなため息をついて引き下がった。

 私は差し出された『御札』をひったくりながら主張した。

「おかしくもおもしろくもありませんが?」

 こっちは初めからずっとシリアスだが?


「それで……物見とは剣呑なことだな?」

 スルーか。

 私の不満気な表情に気付いたのか、彼は言葉を足した。

「お前のような立場の人間が物見をせねばならないのか」

 明らかに身体強化を用いた速度で走っていたことから、私が高貴な生まれであることを察したのだろう。

 そう!私は高貴な生まれなのです!(本当にそうかは)知らんけど。


「いややっぱり直に見ないと策も立てられませんから……」

「女でしかもその年で軍師か」

 ふむ、と男は頷いた。

「これも何かの縁だ、手伝ってやろう」

 笑みを浮かべながらそう言った。

 いや要らないんですけど?


 いえいえそのような御手間をおかけしては悪いですからといった遠慮風の御断り文を叩きつけても、この男は、いやちょうど退屈していたのだなどと言い返してくる。

 しょうがないから無視をして歩き出そうとすると足に痛みを覚え、立ち止まってしまった。

 どうやら急停止の際に捻ったらしい。立っただけだと痛みを感じなかったからそこまでではないと思うけど……。

 どうしようか悩んでていたら急に抱き上げられた。私の身体は横向き、太もものあたりを左手で支え、右手で腰のあたりを抱き寄せる……所謂お姫様抱っこの体勢だ。

「!?」

 私は顔が熱くなるのを感じながら抗議した。

「な、なにをし……するんですか……!」

 ……思ったより大きな声が出なかったが抗議したのだ。間違いなく。

 しょうがないでしょ!お姫様抱っこなんて前世でも経験ないんだから!

「なに、痛そうだったのでな」

 とすまし顔で言う鷹男(互いに自己紹介もしていないからこう呼んでおく)。

 それでどこに行くのだ?などと無邪気に聞いてくるのだから、私はもうこの強引な同行者を拒否する言葉を思いつけなかった。



 お付きの方々も困惑……というより諦観に染まり切った顔をしながらぞろぞろついてくる。鷹男の破天荒は常習犯らしい。

 例外は槍男ぐらいで、隣でぐちぐち言っているが、鷹男は完全に無視していた。

 そして驚くべきか、鷹狩のような上流階級の余興(趣味ともいう)をやっているだけあり、鷹狩一行全員が身体強化を使えた。

 特に鷹男は強力な身体強化魔法を使えるようで、私を抱きかかえながらという悪条件でありながら、あっという間に私が指定した場所、琴平・猪俣合戦予定地に着いた。

 結果論だが私一人で来るより早く着いたと思える。


 北側(琴平側)から見ると、左手(つまり東)側に川が流れており、右手(西)側に森林地帯がある。その間にある平原が合戦場となるだろう。ここまでは屋敷にあった地図でもわかる。

 他の地形的な特徴として、手前(北)には、標高数m程度だろうちょっとした丘が二つあり、その間を道が通っている。

 丘に登り(お姫様抱っこはされたままなので正確にはそう頼んだ)、南側に視線を移すと、そこにも同じような丘が一つある。

 道は丘より森側に屈曲して南へと伸びていた。


 おそらく両勢力はこの南北の丘に本陣を構えることになるだろう。

 つまり戦闘は南北の丘と丘の間で行われる。が、その間には特になにもない。膝くらいの高さの草が生えているだけだ。

 つまり「策」は純粋な戦術上のものにならざるを得ない。


 まずはフラットな状態での戦闘をイメージしてみよう。

 純悦爺が仕入れた情報では猪俣勢の雑兵493名。装備はほとんどが4m程度の(やり)だろう。

 鑓持ち雑兵100名による横隊が5列。その後方に武士28名と猪俣大膳が控える。

 これがこの時代のオーソドックスな戦闘隊形(左右に展開する弓横隊がいないことを除けば、だが)だ。

 それが平地中央を北上してくる。

 こちらの手勢雑兵202名が左右に回り込まれないように同数の100名横隊を2列作る。

 その後方に同じく武士16名が控える。

 そしてこちらも前進。南下する。


 4m程度の鑓を構えた雑兵横隊がぶつかり合う。

 幾度かの叩き合い(この国では鑓は突くより叩くことが主流だ)。

 叩かれて次第に欠けていく第一列の雑兵。それを後列の兵が前に出て埋め……当然数が少ない琴平勢が損失を埋められなくなっていく。例えるなら猪俣は残機4で琴平は1なのだ。

 結果、隙間が空いていく横隊。味方が減って逃げ腰になる琴平勢雑兵。そこに敵の武士が身体強化全開で突っ込み雑兵たちは散り散りに……こちらが対抗して武士を投入しても数と勢いの差でそのまま突破され……本陣は蹂躙。お味方大敗北。私は捕らえられ薄暗い部屋に軟禁されウスイタカイ……。


 うん。無理では?


 まず数が倍以上の相手に正面から戦うのが無理。なら正面切って戦わなければいいのだ。つまりは素晴らしきかなゲリラ戦。

 だが無理だ。ゲリラ戦は、それを行うだけの戦術・戦略上の縦深が必要だ。

 要は下がりながらいくつもの小勢で何度も嫌がらせをして相手を疲れさせるのがゲリラ戦(そこまで単純ではないが)なのでそれだけ縦の幅がいる。


 さて問題です。琴平領にそのような縦深はありますか?あったとして小勢をうまく率いれる(ちょっとだけ戦って損害は最小限で撤退できる)指揮官はそれだけの人数いますか?

 答:ないし、いるわけないでしょ。

 ハイ無理ー。滅亡です。


 なんやかんやで現代知識チートで何とかなるやろ、と思っていたが、想定より無理筋な状況に顔を青褪めさせながら必死に頭と顔を巡らせていると、

「お転婆軍師姫」「ひゃっ!?」

 耳元(お姫様抱っこのままだから自然とそうなる)で鷹男が声をかけてきた。

「な、なんですか!?」

 急に耳元で話しかけないでほしい。変な声が出てしまった。

 鷹男はにやりと笑うと

「策は思いついたのか?」

 と聞いてきた。

 なにも思いついていなかったがそう答えるのは負けた気がする。


「いい加減降ろしてください」

 鷹男は非常に丁寧な動作で私を丘の上に立たせた。

「脚は痛むか?」

 ほぼ痛みはなくなっていた。

 鷹男は私の身体をさせるようにしてくれていた。

 私は曖昧に頷きながら、草原を見渡した。

 遠くでは商人だろうか、籠を背負った人が道を歩いている。

 川際では、番だろうか、二羽の鳥が追いかけ合っていた。

 森に視線を移す。鬱蒼とした木々の奧は見通せそうになかった。

 地形を見てもアイデアはなにも浮かばない。


 降参。

 そもそも私は転生者とは言え、元はただの令和の女子高生だ。

 こんな状況、解決できるわけがないのだ。

 チートもないし。


 なら、どうするか。

 知識がありそうな人に聞くしかない。

 幸いなことにとんでもなく偶然なことに、すぐそばにいる。

 具体的には体を支えているぐらいの距離に。



 というかまだ体に触れてるの、セクハラじゃない?

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