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縄張り

 反乱という()()()()は難しい。

 齢13の少年、佐登正行はしみじみそう思った。


 馬上、行軍をしながらのことだった。

 傍らには宿老である馬瀬久英が、難しい顔をしながら同道している。


 彼が率いる約2000の軍勢は、北上を続けている。

 行動の目的は、かれの兄様である佐登清継を抹殺することである。


 反乱とは当然だが、ある人物の部下が、彼の主君と敵対する行動を取ることである。

 当然、この行動はただそれだけを行うと上手くいかないことが多い。

 なぜなら、一般的には主君の方が勢力として大きく、動員できる戦力も情報も多いため、そのままだとただ叩きつぶされて終わってしまう。


 それを防ぐには、主君の不意を突くこと、対抗できるだけの味方を用意することの二つが求められる。


 だが、この二つは矛盾する。

 味方を用意するということは、反乱をこれから起こすことを他人に知らせなければならない。

 だが、それは主君にその情報が伝わる確率が上がることを意味する。


 つまりやたらめったら仲間に引き込もうとしてはダメだということだ。

 話す相手はしっかり選ばなければならない。

 このあたりは今回古土家と母が勝手にやりやがった(やってくれた)



 正行が気乗りしない今回の反乱の首謀者を引き受けた理由は二つ。


 一つは、引き受けなかった場合、彼の運命は良くて幽閉、悪くて殺されることだった。

 理由は考えるまでもない。謀反の計画を知った反対者が自由に動けて情報を漏らされては不意を突けない。つまり反乱は失敗する。

 そして彼は人質になって(もしくは死ぬことで)兄の脚を引っ張ることに耐えられなかった。


 二つ目は、反乱を起こすタイミングの主導権を握るためだった。

 常識的には最大の支援者(という名の黒幕)である古土家の侵攻時に裏切るのが最もいい。彼らの戦力を当てにできるからだ。

 だが、それでは確実に兄は敗北するだろうし、自分は古土の一家臣が精々となってしまうだろう。

 それでは意味がない。

 兄が、父がここまでこの国で行ってきた努力がすべて無駄になる。


 だから今を選んだ。

 古土がまだ完全には燈鷲侵攻の体勢を整えていない今を。


 それでも兄が反乱を鎮圧できるかはわからない。

 それはそれでいい、と正行は思った。


 自分に負けるなら、兄も所詮はその程度。

 あの龍に跨って空を登って行った英雄は幻想だったということ。

 もし自分が勝ったら母を排除したうえで、古土には面従腹背でやっていくしかない。

 そしていつか必ず古土を滅ぼしてやる。


 まぁそれに。

 正行はこの状況に高揚していることも自覚していた。


 それに、()()()()なんて初めてだ。

 一度くらいは兄さまと本気で喧嘩してみたかった。

 はは、まるで子供の理屈だ。


 正行は自分には甘い兄を思いうかべながら苦笑した。





 出陣した私たちに、先行した立林勢が収集した情報がもたらされ始めた。

 行軍の大休止の際に、清継は主要なメンバーを集めて極簡単な軍議を行った。

 見た目は木陰で立ち話、といった状態で物語に出てくる重要な会議感はまるでなかったけど。


「敵は北と南から迫ってきているようですね」

 合流した立林守明様はそう言った。

 南が足軽二千と武士300、北が足軽千と武士100。この二つの軍勢は、東で合流しようと動いているようだった。


 それを見ていた吉家がしかめっ面をしながら要約した。

「合流されたら勝ち目がねぇな」


 こちらは足軽1500と武士500。

 南から迫る敵主力となんとか戦える、といった戦力だった。


 兼清勢との戦でやったように一部を分けて北の戦力を足止めして……と言うのは難しそうだった。

 南側の敵は『全戦力をぶつけて対抗できる』戦力なのだ。

 あの時のように、戦力をいくらか分けてもまず勝てる、といった相手ではない。


 なら全力で各個撃破を……というのも難しい。

 こちらが通常の行軍をしていてはどちらとも接触する前に合流されてしまうし、強行軍で片方と戦ってもその間に後ろから襲われかねない。

 ナポレオン並の天才なら可能かもしれないけど。


 ともかく、このままだと確実に負ける。


 清継が口を開いた。

「奴らが合流するのを邪魔しない。陣を敷き、耐える」

 ざわめきかけた一同を清継は手を挙げて制止した。

 地図を広げ、私たちに構想を説明し始めた。




「余程覚悟が必要な策ですな」

 聞き終えた私たちの気持ちを代表するように立林様が唸るように言った。

 吉家はにかっと笑うと快活に言った。

「俺は好きだぜ、こういうやつ」

 そりゃアンタはそうでしょうけど。


「それで、どうやって踏ん張るんですか?」

 衆の一つを任されている梶川信次が疑問の声を上げた。

 確かにその部分に関しては清継は何も言っていなかった。


 清継は私を見た。

「お転婆」

(またこいつは無茶ぶりを……)

 うつけと目が合う。

 清継の目は早く言え、と言っていた。

 ため息を吐くのを堪えながら、野戦防御に関しての近代以降の常識案を提案する。


「柵と堀を築きましょう」


 即ち、野戦築城だ。

 塹壕を掘り、有刺鉄線を張り巡らせ、掩体を作り、敵を待ち受けるアレだ。

 もちろん有刺鉄線はないし、隠れるための塹壕や掩体は現状ではあまり意味がない。

 身を隠すことに意味がないのではなく、身を隠した軍勢が互いの状態を把握できなくなるからだ。

 そうなると、孤立した時と同じ心理状態になってしまう。

 つまりすぐに崩れて逃げ出してしまうのだ。


 話がそれたけど、この世界にも野戦築城の発想が全くないわけではない。

 付城と呼ばれる城を攻略するときに敵の反撃から耐えるための陣地を築くことがある。


 だから発想自体は突飛ではなかったのだろう。

 清継は頷くと皆に木を切り出すように命じた。


 慌てて皆が散っていく中、おもちゃをせがむ子供のような表情でうつけは私にいった。


「早く縄張りを考えろよ、お転婆」

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