薄氷の平穏
宴会騒ぎ……ではなく兼清撃破後もまだしばらく古土家は動けそうになかった。
彼らは東の大名たちと勢力争いをしているのだった。
その隙に私たちは燈鷲国内の問題の解決に集中した。
つまり……内政タイムである。
まず一番の問題は、守護が死んでしまった以上誰が舵を取るのか、といったことだったけど佐登清純……清継からすると父親の従兄弟に当たる……をはじめとした有力者と話し合った結果、とりあえず清継が行うことで決まった。
ほぼ独力で敵討ちを成し遂げた清継以上の正当性を持つ人なんていないから、これは当たり前だろうけど。
兼清の所領は清継のものとなり、その大部分は配下たちに褒賞として分け与えられた。
私は土地はもらえなかった代わりに禄、つまりは御給金が増えた。
本来なら領地を貰えなかったことを怒るべきところなんだろうけど、土地を貰っても正直経営がしんどいからね……。
私的にはありがたい処遇だった。
それはともかくとして、清継は8郡ある燈鷲のうちの5郡を支配していることになり、名はともかく実としては燈鷲の支配者として君臨することになったのだった。
(他の3郡のうち2郡は清純様、残りの1郡が正行くんのものとなっている)
名のほう、つまり正式に燈鷲の支配者として認めてもらうには、幕府の将軍からその職に任命されないといけない。
そっちは平井様が交渉に向かいつつ、五十鈴を窓口として龍族からも推薦してもらうようにお願いしている。
もちろん、平井様を通じて献金という名の賄賂をたっぷり送る。
そこまでやっていればおそらく通るだろうということだった。
そして収入の増加は軍事面も強化する余裕を生んだ。
「新しく城仕えにした足軽共はどうだ」
「頑張ってるよ。もちろん前からいる人たちと比べるとまだまだだけど」
清継は城仕えを増やした。
足軽は倍の4000に。そのうちでも特に鉄砲は5倍の500丁(鉄砲衆としては400名なので8倍)に増えた。
清継は私が鉄砲で挙げた戦果を高く評価したみたいだった。
私は清継に提言してこの常備兵を500を一つの単位として編成させた。
内訳は槍足軽300、弓足軽100、鉄砲足軽50、その他小荷駄など50だ。
これを3単位+武士500を清継直率とした。
居城としている江原城とすぐ近くの上牧城に配置してなにかあってもすぐ駆け付けられるようにする。
あとの5単位は1単位ごと他の城に配置した。
これ以外に有事の際は徴集兵を約3000ほど集められる。
これが清継が自由に扱える戦力だった。
他の領主たち、清純様たちにはそれぞれ1郡あたり2000程度の兵を集められる体制を整えるように指示した。
「この500人の単位……なんて呼ぶ?」
さすがにいきなり文化的背景もないのに大隊と呼ぶわけにはいかないし。
「衆でいいだろう」
清継の言葉にわかったと私は頷いた。
この足軽500人の単位は今後足軽衆と呼ぶことになった。
「この衆ごとに競技会みたいなことをしてもいいかも」
「競技?」
「模擬戦とか射撃の腕を競わせるとか、それで勝ったほうには褒美を出すの」
ふむ、と清継は顎に手をやった。
「そうしておけば訓練の手も抜かなくなる、ということか?」
「そういうこと。他にも誰がどういった能力を持っているかもわかりやすいし」
平時の軍隊では当然手柄を立てることはできない。
戦がないからだ。
それをいくらかでもフォローできるのがこういった競技会の成績、と言うわけだ。
と言っても実際に効果が出るのはかなり先だろうけど……。
「考えておこう」
そういうと清継は一枚の紙を差し出した。
なにかの報告書のようだ。
書かれている内容にさっと目を通す。
「古土家の間者がかなり入り込んでいる?」
「ああ。元康が意味もなく増やすとも思えん」
「それを考えろ?」
「ああ。お前ならどうする?」
私は腕を組んでしばらくしてから考えを口に出した。
「離間工作?兼清様との戦の間にするべきだけど」
「兼清伯父がもっと踏ん張ると思っていたのだろう。清純伯父か?」
実際は従弟伯父なんだけど面倒なのか清継は伯父と呼んでいた。
「可能性はあるけど……」
「証拠か」
「というよりあまりにもあからさま過ぎない?」
政権第二位の実力者。
目をつけるにはあまりにも当たり前すぎる。
「ならば誰だ?」
ちょっと不機嫌そうに言う。
なにか理由をつけて清純様を排除したかったとかじゃないでしょうね……?
第三位の正行君はないとして……。
他の有力者、例えば吉家も含めて考えてみるけど、ぱっとしない。
これといった効果が見込めないのだ。
私はあれこれと考えた結果、最終的に首を振った。
「わからない」
「そうか」
清継はあっさりと言った。
それはそれで大丈夫かと思ってしまう。
「東が上手くいっていないから背後を気にしたのかもしれんしな」
「情報収集が目的ってこと?」
「間者は本来そういう役目だ」
それはそうかもしれないけど、ただ放っておくのもまずい気がする。
そう言ってみたけど清継は首を振った。
「こちらの動揺を誘っているのかもしれん。放っておけ」
「でも……」
「泳がせておけば後々裏をかけるかもしれん」
そう言うと清継は手を振って会話を打ち切った。
私たちは根っこでまぁしばらくはこの平穏が続くでしょ、とどこか気楽に考えていたのだった。
そういったやり取りから三日。
特に不審な報告もなく、書類と格闘する退屈だけど忙しない日常を過ごして床についた。
気持ちよくぐっすりと寝ていると清継の小姓に起こされた。
「なに……?」
寝起きで回っていない頭と声で尋ねる。
まだ外は真っ暗だった。
深夜、月すら見えない夜だった。
小姓は控え目な声……いや震えた声で言った。
「御謀反でございます」
……えーーと……マジで……?
私は平穏の二文字が、がらがらと崩れていくのが見えた気がした。




