内乱への支度
葬儀での狼藉の影響は、色濃く残った。
清継の本意はどうであれ、彼を詳しく知らないものから見たらただのうつけにしか見えないのは当然だった。
常識的で良識的な家臣ほど清継をうつけだと考え距離を置いた。
そして正行君の傍に集まり、彼を支えようとした。
彼らが謀反を……清継廃嫡と正行君擁立に動いていないのは、当の正行君が乗り気でないからでしかない。
尤も清継自身は、信用できない連中が離れただけだと評価していたけど。
このあたりは何とも言えない。
味方を減らしただけのように思えたけど、清継の言うように彼らは本当の意味で信頼できる相手かと言えるかと問われれば微妙だったからだ。
つまり……正行君が彼らにとって不都合な主君となれば?
同時に、兼清様という明確な敵がいる状態で、味方を減らしてまで将来の部下の選別まで行った清継は先見の明があるのか、単なるうつけなのか。
世間が彼をどう評価するか、それはこれからの展開次第だろう。
というわけで評定というか、これからの方針決めの会議の真っ最中なんだけど……。
「とにかく銭だ。金を得るぞ」
何言ってんのコイツ。
私たちの胡乱な視線に気が付いたのだろう。
清継は珍しく咳払いをしてから話し始めた。
「今の俺たちに足りないものはなんだお転婆」
私は指折り数えていく。
「有力者の支持、兵力、土地、収入、政治力、あと信頼とデリカシー」
「さすがにぼろくそ言いすぎじゃないですか……?」
与一殿のぼやきを私は無視した。
「概ね正しい」
ついにノンデリなことを認めたわねこいつ。
「それらを解決するには、まず収入だ」
頭から?を生やしている連中を代表して吉家が声をあげた。
「つまりどういうことだよ殿?」
「銭があれば、有力者を懐柔できる。兵を集めることもできる。兵が集まれば戦に勝てる。戦に勝てば土地が手に入る。その過程で信頼は得られる」
なるほど……?という顔をする郎党たちに清継は纏めた。
「よってまずは銭を集める。豪商共を懐柔するぞ」
とは言われたものの豪商たちを説得して資金を出してもらうのは簡単ではなかった。
なにせ、彼らに投資させるに足るなにかを納得させなければならない。
結局は、清継本人と平井様を中心とした老臣たちがその役目を担った。
私も何度か同席したけれど、清継は昔から権益を持っている豪商ではなく、最近移り住んできたリ、商いを広げようとしている相手を商談の対象としているようだった。
例えば……
「では座の取り決めのない市を開いていただけるので?」
材木問屋『渡辺屋』を商っている木本玉造は、痩身の体躯からは想像つかない低い声で確認した。
清継は鷹揚に答えた。
「そう言っている。城を築くのにも町を広げるにも木材は必要だからな」
木本さんは頷くと言った。
「守護代様がお求めになった量をお望みの時に必ず納めましょう」
「俺の評判は聞いているだろう?いいのか?」
「貴方は、もう町の縄張りなどもお考えのようでした」
木本さんは小さく笑みを浮かべると
「貴方は大望を抱かれている方とお見受けしました」
清継は頷いただけだった。
「ああ、この前献上させていただいた物はお気に召しましたか?」
「鉄砲か」
どうやらこの木本さんが、清継に鉄砲を持ち込んだ商人さんだったらしい。
「あれはおもしろい。が、使うなら数がいるな」
「如何ほど?」
ちらりと清継は私を見た。
え?私に聞くの?と思いながら片手を開いて見せた。
とりあえず50丁あれば最低限の横隊は組めると思う。たぶん、
「まずは100だな」
清継はそう言った。
倍になってるんですけど?
「では用意させていただきます。玉薬(火薬)も、玉も」
「使えそうならもっと用意してもらう。そのつもりでいろ」
こんな感じで清継は新興の商家からの支持を取り付けて行った。
もちろんすべてがうまくいったわけではなかったけど。
ともかく資金の目途がついた清継は、まず自分の親衛隊とは別に、城仕え、要は常備兵の拡充を始めた。
動員兵より常備兵のほうがいいというよりは、一部の豪族たちが態度を決めかねているせいで、戦のたびに雑兵を招集することが難しくなっていたから、苦肉の策だったのかもしれない。
そんな中、私は鉄砲隊の運用研究を押し付けられた。
渡辺屋から100丁の鉄砲が納品されたとはいえ、故障や消耗を考えたら全部を使うわけにはいかない。
とりあえず足軽を適当に50人ほど集めた。
指揮官役に琴平家から才蔵に来てもらっておいた。
私は清継の傍にいることの方が多いから、実際の指揮役は別に用意しておいたほうがいいだろう。
そうして編成した鉄砲隊で色々試してみた。
たとえば装填速度の向上のために前世の記憶からなんとか早合(玉と必要な火薬を1セットにしたもの)を再現したり、斉射の度に射撃横隊を交代させる所謂三段撃ちを再現しようとしてなんかうまくいかないなぁと首をひねったりしていた。
練度の問題なのかなぁ。
一度だけやった50丁での一斉射撃は、あまりにも音が大きくて馬どころか城にいた人の一部までパニックになるという大騒動になって怒られたりもした。
「どうだお転婆」
そうしたある日、清継に進捗を聞かれた私は頬を描きながら答えた。
「うーん、とりあえず立ち止まって撃ち合うまでなら出来るようになったと思う」
横隊を組んで、とりあえず射撃を続けるだけならできそうといったレベルまでは来た、と思う。
矢が飛んできたリとか敵の槍足軽の横隊が近づいてきても継続できるかはわかんないけど……。
「なら実戦で試せ」
「え?」
「叔父家が動いた。こちらの城が攻撃されている」
燈鷲の内乱は、政治的な対立から遂に実際に槍を交えるものへと段階を上げたのだった。




