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天龍と大うつけ

私たちの前に現れた清継は、なぜかわからないけど雨と泥でどろどろのひどい有様だった。


ウソ。

本当はわかっている。

私を探すためにああなったのだ。

申し訳なさと正体不明の感情が私の鼓動を早めた。


清継は刀、緋断を抜き放ち、刀身を赤く輝かせながら、龍、五十鈴との間合いを計っていた。


一触即発。


私のときめきはふっとんだ。

やばいって!龍相手はまずいって!しかも天龍!


「待った!清継待って!」

「俺は滅多に待たん」

なら滅多に待て!と言いそうになるけど言い留まった。

まさか「わかった」など言ってくれるヤツではない。


「天龍だよ!人を襲うわけないでしょ!?」

「龍が人を喰った伝承などいくらでもある」

そっかー。伝承があるならしょうがないかー。

……いやさすがに同じ程度の知性を持つ種族相手に失礼ではないだろうか。


「天龍に勝てるわけないでしょ!」

実のところ天龍の戦闘能力はわかっていないけど多分勝てないでしょ……。人は熊にも勝てないのに……。……肉体強化したら勝てるのかな……?

「人が龍を討った伝承などいくらでもある」


空想(ファンタジー)現実(リアル)を一緒にしたらダメでしょ……。


睨まれていた五十鈴もさすがに厭そうな思惟を発した。

『私たちに好んで人を食べる習慣はありませんよ』

「そうか」

清継は緋断を構え、五十鈴を見据えたまま動かない。


五十鈴は呆れ切った思惟を放った。

「名乗りもしない人の戦士よ。なぜそのように頑ななので……』

そこまで思惟を放ってからちらりと私を見た。


『なるほど』

五十鈴はとても大きなため息を吐いた。

『あなた達は恋仲なのですか?』


「「なんでそうなる」」


『そうとしか見えませんが』

まぁいいです、と五十鈴の思惟がまとめた。

いやこっちはよくないが?


『繰り返しますが、私はあなた方に危害を加えるつもりはありません。むしろその逆です』

清継は目だけで続きを促した。

……圧倒的に不利な立場のくせになんでこんなに偉そうにできるんだろうこいつ。


『由衣を助けに来たのです。私にはその義務があります』

「義務だと?なぜそのようなものがお前にある」

『由衣が滑落する原因となった雨。あれは私が降らせたのです』


その言葉に私たちは息を呑んだ。

天龍が天候を操るっておとぎ話で読んだことがあったけど本当だったんだ……。

どうやってるんだろう?気圧を弄れるとか?


五十鈴は思惟を重ねた。

『この周辺の民から頼まれたのです。最近雨が降らないから作物が心配だと。そこで誰も山や川に近づかないように言い含めて雨を降らしたのですが……』

「余所者の私たちがいつの間にか山にいた」

五十鈴は頷いた。


「ほら敵意がないのはわかったでしょ?清継は刀仕舞って」

「なんでお前が偉そうなんだ」

そう言いながら清継はようやく緋断を鞘に収めた。


「歩けるなら上に戻るぞ。連中も待たせている」

「もう少し労わってくれてもいいんじゃないですかー?ほら擦りむいてるんですけどー?」

「たわけ」


『そういえばなぜ山に入られたのですか?狩りや山菜取りというわけでもないでしょう?』

「あー……」

素直に言っても大丈夫なのだろうか。

龍族がどこかの大名家に肩入れしているという話は聞いたことがないけど。


「景色を見に来たのだ。ここからならこのあたりの風情ある景色を一望できるとな」

私が悩んでいる間に清継はあっさり応えてしまった。

嘘でもなく真実でもないようなそういう返答。

『なるほど』


『ならばお詫びとして、私がお二人を乗せて飛ぶのは如何でしょう?私なら人二人ぐらいならば乗せて飛べます』

さすがにお連れ様までは無理ですが、と五十鈴は思惟を付け加えた。


魅力的な提案だろう。

目的を考えれば、木があまり伐られていない山よりはよっぽど見晴らしがいいはずだ。

それに龍の背中に乗る。ファンタジー体験としては確かに最高だと思う。


でも……安全性は?落ちない?

ちなみに私はジェットコースターとか苦手な人です。


「よいな!龍の背に乗れるとは!」

こちらはウキウキ大うつけです。

マジで?


「ほら、行くぞ由衣」

清継は私の手を引いた。


もー、しょうがないなー……。

私はなぜか断る気持ちになれないまま、五十鈴の背に乗せられる。

五十鈴は何故か微笑ましそうに私たちを見ていた。


『しっかりと掴まってくださいね。ゆっくり飛ぶつもりですが気分が悪くなったらすぐに教えてください』

初めて触れた龍の背中は、鱗が独特の滑らかさを感じる肌ざわりで少しだけひんやりしていた。


五十鈴の身体(胴?)に跨るように乗る。

乗ってから気が付いたけど、考えたら座席のようなものも体を固定するベルトもない。

もし角度が少しでも急になったら?

すごく落ちそうです。コワイ。


「やっぱり私は下で待っていようかな~」

「何を言っているのだお前は」

私が怯えたことを見て取った清継はすぐ後ろに座った。

私を抱えるような恰好だ。

「ちょ」ちかいちかい。息がかかるぐらいには近い。

「これなら落ちまい」

「嫁入り前の女子の身体にそんな気安く……!」

「キャンキャン騒ぐな、耳が痛い」

「だ、だれのせいだと思って!」

『私が力で落ちないようにもしますから安心してくださいね……って聞いてないですね?』


五十鈴はゆっくりと浮上し始めた。

前に進みながら上昇していく飛行とは違ってすーっと上がっていく感じ。

つまり翼に風を受けて揚力を得ているわけではないらしい。

魔法があっても人にできることはファンタジーらしさがないこの世界でも、天龍は本当に規格外の存在だ。


あっという間に木々より高くなる。

ノンデリは興奮からか私を抱えている腕に力がこもりながら、つまり私を強く抱きしめながら、耳元でわいわい言っていた。




雨が上がった山道。

正行たちは由衣を探しに飛び出した清継をどう探すかを話していた。

吉家たちにとっては、清継を探しに行くことで正行を危険にさらすわけにもいかなかったからだ。

もし、仮に、既に清継になにかあった場合、佐登を継ぐのは正行になる。

つまり正行まで喪うわけにはいかないのだ。


「おい、アレ見ろよ!」

その最中、吉家が空を指さした。

「なんかよくわかんねぇがさすが頭だぜ」

その方向を見た正行は、呆気にとられた。

そこには龍に跨った清継と由衣が見えた。



龍に跨った兄が、少女を抱きかかえながら空を昇っていく。



正行にはまるでなにか物語の一場面かのように思えた。

龍族領近辺の村によっては領主より身近な神なのが天龍です。作物の一部を納める代わりにまぁまぁ以上の作付けになるように手伝ってくれます。

天龍としても人と敵対したいわけではないので、民衆が敵にはならないような方針で動いています。

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