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地味すぎる初任務②

私は清継への恨み言を内心で100万回言い募ってから答えた。


「どちらにせよ確定しているのは古土家の侵攻があることです。なら、汐坂との国境を固めてまずそれに備えてはどうでしょう?」


「具体的には?」

「砦を築くのです」


 広げた地図を見ながら少し考える。

「古土家の侵攻ルートは二つ。海沿いか、山沿いかです」

 それ以外は、大規模な……万単位の軍勢が進撃路に使える道はない。


 意外に思われるかもしれないけど古今どんな軍隊でも道以外はほとんど通れない。

 極短期間だけなら無理はできなくもないけど、道、歩きやすく舗装された地面以外を歩くと人はあっと言う間に疲れ切ってしまう。

 疲れてしまった部隊は戦闘能力が下がるだけじゃない。

 いっぱい食べるのだ。ごはん、つまり食糧を。


 兵隊が疲れるルートを選ぶといっぱい疲れるからいっぱい食べ物を必要とする。

 それは食べ物を運ぶ兵站部隊(この世界では小荷駄と呼ばれる)の負担が増えることになる。

 すると小荷駄はいっぱい疲れる。

 ではどうなるかというと小荷駄の交代要員を用意しないといけないし、疲れている彼らにいっぱい食べさせなければならない。

 結果として、必要な食糧の量が雪だるま式に増えてしまう。

 そうなると食糧を調達する能力の限界をいずれ超えてしまう。

 こうして軍を維持することができなくなってしまうのだ。


 もちろん小さな軍勢なら、現地調達……村々から買ったり奪ったり……で維持できるかもしれない。どんな集落でも、もしもに備えた備蓄はあるのだから。

 琴平が猪俣戦に無理やり兵を集めたように。


 だけど万を超えてしまう軍勢を支えることは、それだけでは絶対にできない。

 この時代、大都市以外は急に現れた万単位の人間を支えるだけの余裕はないのだ。


 このあたりの無理をどうにかしてしまえたからこそ、ハンニバルやナポレオンは相手の不意を突けて勝つことができ、天才や英雄と呼ばれる存在になった。

(それでも最終的には負けたんだけど)

 でもそんなことはそうそうできることじゃない。



「おそらく、海沿いが主攻でしょう。こちらのほうが我々の強みの港を攻められますから」

 私は汐坂から燈鷲に伸びる海沿いの道をなぞり、港まで進めたところで止めた。


「ですが、この2ルートは途中で横の道で接続されていますから、こちらだけを固めても迂回されます」


「ですから両方のルート上に城や砦を築いて古土家の侵攻を躊躇わせます。城を落とすには時間がかかりますから、負担がかかります。それをなんとかするために備蓄するにしても、軍勢を増やして短期決戦を狙うにしても時間はかかるでしょう」


「そうして稼いだ時間で、兼清叔父を片付けて川瀬家を抑えてしまえば、か」

 そうすれば燈鷲の経済力と人口をまとめ上げられる。

 そうなれば古土家でも簡単に手が出せなくなるだけの軍勢を用意できる、はず。


「まぁまぁといったところだな。理にはかなっているが虚を突かれるところはない」

 意外性がない常識的な提案だって言いたいらしい。

 大事でしょ、常識……。


 言いながら清行は地図上の川をなぞり、そのうち上流と下流、二つの城を指す。

梶峯(かじみね)小野木瀬おのぎせの城を改築し、付近に支城を建てるのがよかろう」

 支城というのは、本命の城を攻撃されにくいようにするために建造する砦(規模の小さい城)のことだ。

 例えば城の弱点を攻撃しようとすると、砦から軍勢が出陣して後ろを突いてきてしまう、そういった位置に建てる。


「清継。お前、直接見てきて、普請の計画を立てよ。名目は旧猪俣領を含めた領地見回りとでもしておけ」

 清正の言葉に清継は頷き、立ち上がる。

「正行も連れて行きたいが?」

 ……誰?

「弟をよくも可愛がるものだ」

 立ち上がった清継を見上げながら清正は言った。

「一門のものは大切にしないと、親父のような目に合うからな」

 それだけ言うとどたどたと清継は歩き出した。

 私は慌てて立ち上がると清正に会釈をしてからその後を追いかけた。




 そうしてあっという間にこの状況。

 太陽が照り付ける中、とぼとぼと歩いているのであった。

 ゆっくりする間もなく引っ越し先から連れ出さないでほしいんですけど?

 知らない人だらけのところに置いて行かれてもそれはそれで恨んでたけど。


 ちなみに先に山側の梶峯城に向かっている。

 こちらのほうが標高が高く、周辺一帯の地形が見えるからとのことだった。


「義姉様大丈夫ですか?」


 私の疲れ切った様子に清継の弟、正行くんが声をかけてきた。

 ノンデリ兄と違ってやさしくかわいい男の子だ。

 いいよね……。


「大丈夫大丈夫。あと義姉様は止めてね」

「え……?違うのですか!?」

 違います。マジで。

「でも兄さまが女の人を連れてきたことなんてなかったので……」

 ……ふぅ~ん?そうなんだ。どうでもいいけど?


 なんとなく逸らした視界に入ってきたものがあった。

 なかなか大きな山だった。頂上付近に細長い影、龍だろうか。

 先に見える梶峯城がある山(そのまま梶峯山と呼ばれている)より高く見える。


「清継……様」

 彼に山を示す。

 実のところ、未だに彼をなんと呼ぶべきか決めかねている。

 まさか人前ではノンデリ鷹男と呼ぶわけにはいかないし。


「確かに見晴らしがよさそうだな」

 そう言うと他の同行者にあの山に登ることを伝えていく。


 照りつける太陽の中、私は自分で示した山を見ながら思った。


 あの山登るのしんどそうだな……。


 いつの間にか龍は見えなくなっていた。

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