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揺れる世界と遠い空

戦は始まりと違い、唐突に終わった。


大膳と突撃した武士団が壊滅するのを見ていた雑兵たちは武器を捨て、散り散りに逃げ出した。それを見た生き残った僅かな武士たちも逃げるか降伏したのだった。

私たちも追撃する余裕はなかったから、そのまま見送ることになった。


そのまま丘の上で首実検(くびあらため)が行われた。

つまりは誰が誰を討ったかを報告してもらって、与える褒賞の材料にするための確認作業だ。

そこで槍男こと吉家が大膳の首を差し出している。


私はその光景に背を向けて丘を降りた。

この儀式で私はすることがないし、近くにいたい気分ではなかったから。


まだ遺体の処理は終わっていないそこはひどい悪臭がした。

私は丘の上から見えた指物旗が倒れたあたりを見つめた。

そこには私の策の犠牲になった若者の死体があるはずだった。


「なにをしている」


背後から呆れたような声がした。

振り返る。

そこには清継がいた。


「なんでもいいでしょう」

清継はふん、と鼻を鳴らして答えた。

「お前は勝利の女神となった。小競り合い程度の戦だが」

「そうですか」

神は神でも疫病神の類じゃないかな。

そもそも大膳が私を狙ったのがことの始まりなのだから。


「だから」

そういうと私の頭に手を乗せると雑に搔きまわした。

「今日のところは嬉しそうな顔をしておけ」

勝手に人の髪を乱さないでほしい。

まぁ……戦のせいでもう乱れに乱れていたからいいけど。


「それで?ここまでしてくれたあなたは私になにをさせたいんですか?」

頭に手を置かれたまま私は聞いた。

「まずは燈鷲(とうしゅう)内を落ち着かせたい」

燈鷲国内は、佐登家の主筋になる大名、川瀬氏が治めている。

といっても佐登家をはじめとした守護代同士の権力争いでうまくまとまっていないのが実情なんだけど。


「つまりあなたが一国を握れるようにしたらいいのですね?」

「うつけめ」

私の明け透けな物言いに置いたままの手で私の頭を揺らす。

ぬわー。


「近いうちに迎えは寄越す」

「歩かないでいいとうれしいですね」

タクシーとかだと、うれしい。

私の考えがわかったはずもないけど、清継はたわけ、と呟くと最後にくしゃっと私の髪を乱してから歩き去った。


女の子の髪をなんだと思ってるのあいつ。






それからはまた慌ただしい日々が続いた。

なんたって世間様にとっては小競り合いでも琴平家にとっては総力戦だ。


戦死者の埋葬、葬儀、功労者への褒賞、千秋家他戦死した家の役目の引継ぎ、人員を出した農村の年貢の減率の通知、あれやこれや。


琴平家にそういった事務方の仕事ができる人間は少ないので、私も毎日の雑務に忙殺されてしまった。


そして大うつけのことがすっかり意識から抜け落ちていたのだ。




「迎えに来たぞ」

屋敷の門前で馬に跨ったまま、私を見下ろしたまま偉そうに言ったそいつを私はぽかんと見上げた。


「うつけめ。なにを間抜け面を晒している」

清継のその言葉に我に返った。そして別れ際に言われていたことを今更ながら思い出した。


「迎えを寄越すって言ってませんでした?」

なんで本人が来てるの?暇なの?

「俺が来た方が早いと気づいた」

ふふん、と大うつけはなぜか自慢げだった。


「さぁ乗れ」

とうつけは後ろに控えていた連中を示す。

そこには駕籠(かご)があった。あの人が乗るところの上に長い棒があって前後から担いで運ぶ時代劇に出てくるアレだ。


「あの、義父に一言別れの言葉とか」

「なぜ済ませていない」

いやいつ来るとか言ってなかったじゃん!


「荷物をまとめ……」

「要らん。お前が必要なものは全て俺が用意してやる」

えぇ……大うつけ全開じゃん……。


「わかったらさっさと乗れ」

まるで攫われるかのように駕籠に押し込められた。

いやまったくわかってないんですけど!?

私の心はお構いなしにそのまま担ぎ上げられた。


あっと言う間に駕籠は移動し始めた。

御簾の向こうの景色が揺れている。

わたしは呆然としたまま、屋敷が、この世界で物心ついてから過ごしてきた場所が遠くなるのを見ていた。


なんだか笑いがこみあげてくる。

屋敷から誰も出てこない所を見ると義父たちには話がついていたのだろう。

あのノンデリ大うつけはそういう手回しはする男、ということだ。

なのに、肝心の本人には通さないのはなんでだろう。


大声で笑いたい衝動を抑えるために空を見上げた。

御簾越しにもわかる快晴。



その雲一つない空を、龍が長い躰をくねらせながら飛んでいくのが見えた。

第一章はこれで終わりとなります。

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