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プロローグ ~少し先の未来~

 雨が降っている。


 街灯もないこの時代の夜は、本当に真っ暗闇だ。

 その闇は雨でますます強固になっているようだった。

 揺れる私の視界には数m前を進む近習がぶら下げている、覆いを被せられた燭台から漏れるちらちらとした心細い灯だけが見えた。


 私の視界を揺らしているのは、一歩踏み出すたびに上下する馬の背だった。

 女で、まだ15にもなっていない私には乗馬の経験なんてもちろんなかった。


 正直、怖かった。

 暗いのも怖いし、揺れているのも怖いし、なにより落ちたら一人置いて行かれるのではないかということが怖かった。

 だから前で手綱を操る、いけすかない男にしがみついた。


 男が身に着けている胴鎧の冷たく硬質な感触が、ますます恐怖を煽る。

 正直私は全てを後悔しかけていた。

 いや、後悔していた。

 屋敷でごろごろしていればよかったのだ。

 私は何かを叫びたくなった。

 まったく恥ずかしいことだが、この時私の心は、夜がもたらす闇と、これから起きることに対する心理的圧迫(ストレス)から限界を迎えつつあったのだ。

 そんな私の内心に気付いたのか、男は振り返った。


 まだ少年と呼んでいい幼さが残った顔に、意志の強さを感じさせる細く長い眉、知性を感じさせる怜悧な目。

 普段は意味もなく不機嫌そうにへの字型になっている口は雨が入るのも構わず大きく開いていた。普段は実年齢以上の印象を与える顔面には、喜色と興奮でいっぱいだった。


「お前の言った通りの雨だなこれは!これでは見つかりようがない!」


 腕にますます力を込めながら私は叫んだ。

「ついてくるんじゃありませんでした!」

「何を言う!お前が言ったのだろう!私の発案だから見届ける責任があると」

「そうですけど!」

「なに、すぐ慣れる。お前はそういう女だ!」


 勝手に決めつけないで!と叫ぶ前に周りの視線に気付いた。


 全身甲冑と、刀や槍で装備した鎧武者たち……前後にいる近習や馬廻数十名が好奇と、そして好意を含んだ目で私たちを見ていた。

 私は抱き着いている背中に顔を押し付けて、赤くなっただろう顔を見られないようにした。

 その様についに堪えなくなったのか、皆笑い出した。

 目の前の(なにせ視界は彼の背中だけだ)ノンデリ男も大爆笑していた。


 皆の笑いはどこか必要以上に大きかった。

 誰もが笑いのもたらす高揚という麻薬を求めていたのかもしれない。



 それはそうだろう。

 私たちは、大大名である古土家、その本陣……推定1500名への夜襲を仕掛けようとしていたのだ。


 たった500名で。

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