第17話「初々しい(?)二人」
「これって、お金を入れた後は、どうしたらいいんだ?」
「機械がてきとーに指示してくれるから、それに合わせてポーズ決めたらいいんじゃない?」
撮ったことがないと言う割に、ちゃんとその辺の知識はあるようだ。
もしかしたら、桂は前から撮ってみたかったのかもしれない。
ここはとりあえず、遊びに誘ったというのもあり、俺がお金を出した。
そのまま二人して機械に従って、ポーズを撮っていくと――。
「うっ、こういうのもあるんだ……」
二人で手を合わせてハートを作れ、という指示が来てしまい、桂があからさまに嫌そうな顔をした。
「別に、絶対従わないといけないわけじゃないだろ?」
「ここまで従って、やらないほうが癪でしょ? ほら、時間ないから早く手を出して」
桂はほんのりと頬を赤く染めながら、左手をハートが半分に割れた形にした。
嫌そうにしたくせに、指示には従うらしい。
ここで俺がしないと、桂が一人恥ずかしい思いをすることになり、変な溝ができる気がする。
だから俺も恥ずかしいのを我慢して、右手をハートの半分の形にし、桂の手にくっつけた。
「月樹って、手が小さいんだな」
「女の子だし、身長から考えても、小さいのが当然でしょ? 影之君こそ、手大きいね」
桂の身長は154cmで、俺の身長は178cmだ。
身長差でどれだけ手の大きさが変わるのかは知らないが、桂の手は俺の二回りほど小さかった。
口調が男寄りなだけで、見た目も美少女だし、体はやっぱり女の子だ。
「……なんかエロいこと考えてるでしょ?」
「なんでそうなるんだよ……」
撮影が終わったので、落書きスペースに移動していると、桂が白い目を向けてきた。
さすがに、胸などに視線は向けていないはずだが……。
「体は女の子、とか考えてそう」
「反応に困るな」
まさかバレていたとは。
でも、これは別にエロいことではないと思う。
「あ~、はいはい。どうせ僕は、女の子っぽくない貧相な体ですよ~」
何が地雷だったのか、今度は急に桂が唇を尖らせ始めた。
拗ねるようなこと、言ってないだろ……?
「急にどうしたんだ?」
「影之君が頭の中で、『女の子……?』ってハテナマークを浮かべた気がした」
「完全な言いがかりだ」
俺が反応に困ったのは、思っていたことが言い当てられたけど、別にそれが桂の指摘しているようなものじゃない、と思ったからだ。
あと、本人相手にそういった踏み込んだ話はしづらい、というのもある。
「でも、女の子じゃないと思ってるでしょ?」
「いや? どう見ても、桂はかわいい女の子だろ?」
「――っ!」
「あっ……」
反射的に答えて、後悔する。
本人に対して、俺は何を言っているんだ。
完全に口を滑らせてしまった……。
「こ、この……! そういうところが、ハーレム主人公ムーブって言ってるんだ……! どうせいろんな子に、そういうこと言ってるんでしょ……!」
素で返してしまったので、桂にも俺が冗談で言っているわけじゃないことが通じたのだろう。
珍しく、顔を真っ赤にしながら怒ってきた。
意外と、現段階でも意識をされているのかもしれない。
とはいえ――。
「いや、今のは口が滑っただけで、誰にでも言うわけないだろ……!」
桂に勘違いされては困るので、俺は慌てて否定する。
「どうだか……! 言わない人は、口が滑ったってそういうこと言えないんだよ……!」
「それは偏見だろ……!」
結構納得できることではあるけど!
でもそれは、口が滑ってないんだと思う……!
そうやって、二人して軽い言い合いをしていると――。
「――付き合ったばかりなのかな?」
「付き合う手前じゃない?」
「慣れてない感じがあって、かわいいね~」
制服姿の知らない女子たちが、俺たちを見てニコニコしていた。
俺たちの学校とは違う制服だけど、たとえ知らない人でも、こんなところを見られるのは恥ずかしい。
俺と桂は黙り込み、特に落書きもせずにプリントされた写真を持って、プリントシール機のエリアを後にするのだった。