第八話 転移の再会
「…………………ん、んん……んあ?」
瞼を開き目覚めると、木製の天井が視界に入る。
これ、エ(逃げちゃダメだッ!)ァであった『知らない天井』ってやつ?
背あたりも妙にフカフカしてるし、体の上も暖かい毛布で覆い被されてるし。
……俺、ベットで寝かされてたの? っていうかここ、誰の部屋?
起き上がって閉じてるカーテンを開くと、外からの光が薄暗かった室内を照らした。
シンプルなベット、普通すぎる机、服や荷物を入れてそうなタンス。
うん、普通の部屋だね。
でも、テレビやエアコンとかの機械が置かれてないし、内装も年代物っぽい感じだ。
窓を開けて外界を覗き見ると、昔のヨーロッパ風の異世界だった。
木材煉瓦だらけの住宅、ハロウィン衣装の住民たち、馬車を引っ張るフィロ(ですぞ)ル様擬き。
俺……またこの世界に戻って来たんだ。
「にしてもここ、誰の家だ? いや、誰かの家っつーより宿屋って事も……」
部屋中を歩きながら考えてると、ベットの側でうつ伏せで寝てる少女に目が入った。
あのサーヤと言う名の少女だった。
百六十五センチ程の俺と比較すると、大体百五十五センチくらいの身長。
小さな円型の肩パットに、臍を出す造りになっている白色ミニスカートに青い胸当て。
テレビとかで出てる魔法少女のような服装そのものだ。
「…………」
やっぱり、この子とは何処かで会った様な気がしてならない。
だけど俺、この世界に……訳が分からない理由で転生されたばかりだ。
だから知り合いなんて、今日会ったばかりのレイニス以外に誰もいない。
ならこの子も転生者なのか? そんで俺とどこかで会った事があるのか?
だとしたら誰だ?
小学校入学時に仲良くなったの頃のアイツ……いや、性別男だったな。
じゃあ、転校して行ったあの女子……いや、いつもバーサークしてて、全然マッチしてない。
……それ以前にそいつらよりもっと深く関わりがあった様な気がしてならない。
……まさかと思った直後。
「あら、気がついた様ね」
「あ、あんたは……」
ドアを開ける音共に聞こえて来た女性の声。
振り向くとそこには、金髪からココアカラーの髪色となった、ビッグバストの碧眼お姉さんがいた。
名前は確か……マミアさんだっけ?
「えっと、あの訳分からない世界では、本当にありがとうございます。えーっと、因みにここはどこですか? レイニスは……」
「彼は街で買い出ししてくれてるの。助けてくれたせめてものお礼がしたいからって」
「そう……なんですね」
まぁ、確かに。命の恩人だし、何かしらの礼はしないとな。
それにしても、あの時とは雰囲気が違うな。
なんだろう……この、包容力のある優しい笑顔は。
いや、元々こんな感じだったのかもしれないけど……。
「それとセイサク君、あなたが私に感謝してくれてる様に、私も貴方に感謝してるの」
「……は?」
唐突なありがとう宣言に呆気に取られてしまいました。俺。
「この世界に戻って再度危機的状況に陥った瞬間、貴方は迷わず叫んで、街の人達を集めてくれたじゃない。そのおかげで腕輪は奪われずに済んだわ。貴方には本当に感謝してるの」
あ、あ~! 思い出した!
そうだよ! 俺はあの時、この世界の方々に助けを求めようと大声出したんだっけ。
「いや、俺は別にそんな……ただ思いついた打開策を実行したっと言うかーー」
「例えそれが無意識の行動であっても、私達を助けたのは事実よ。本当に感謝してる」
「は、はあ」
なんか照れ臭いんですが。この人に言われると尚更。
「それはそれとして貴方には色々話しておかなきゃいけない事もあるの」
え? 話さなきゃいけない事?
なんか急に一変、真剣な表情になったような気が、
俺、何か悪いことでもしたのか?
「だけどひとまずはまだ休みなさい。不慣れな場所と環境だったから疲れてるのは当然だし、レイニス君から聞いた話から考えると、貴方、この世界に転移したばかり?」
「!!?」
転移したばかりって……なんで転生者だって分かったんだこの人!?
「ちょ、ちょっと待ってください! 俺が異世界から来たってどうして分かッバブのーー」
「お、落ち着いて……」
驚愕しすぎてパニックになった俺を宥めようとするマミアさん。
いきなり正体見抜かれて驚き噛みまくっちゃったよ。取り乱してしまい申し訳ございませんでした……。
「えっと、大丈夫? 落ち着いたかしら?」
「は、はい……改めて聞きますが、なんで俺が他の世界からの転生者だって気づいたんっすか?」
「気づいた理由は幾つもあるけど、まず最初はコレね」
お姉さんは机に置かれてる例の黄金の腕輪を指差した。
えっ? あの腕輪が?
「詳しい事は後で話すけど、私もこの世界に転生した際持ってたのよ。だから貴方も私と同じ立場の人かと思ってね」
あ、なるほど。そう言う事ねぇ……でぇッ!!?
「あ、あッ、あx、アンタも転生者ァァァァアアアアア!!?」
「ッ!? そ、そうなの……よ……」
「あっ、すんません……」
また驚いてしまったせいで、また驚かせちまった。
それにしても、この人も転生者だったとは予想外すぎる。
「えっと、その……大変失礼しました」
「いや、いいのよ。突然の事で驚いたんでしょ? 話を戻すわ。貴方が転生者だって気づいた理由はあと一つあって、サーヤのお陰なのよ」
「サーヤって……この子がですか?」
俺はベットの上でスヤスヤ寝ているサーヤを見やる。
…………
「気になっているの? どこかで会った事があるんじゃないかって?」
「……えっ!? あ、いや、はい……」
無意識にそのまま数秒間見続けてたよ。声かけられなかったらまだ見てたな。
やはり懐かしさっていうかなんていうか?
やっぱりこの子とは何処かで会った事がある様な気がして……っちょいと待って!?
「あ、アンタッ!!? なんで俺が考えてたことを!? それらしい事言った覚えないんですけどっ!!?」
「サーヤから色々聞いたのよ。彼は私の幼馴染かもしれないってね。貴方の鞄の中を漁って証拠になりそうな物も見せてくれたわ。起きた時に聞こうと思っていたけど、その様子だと必要なさそうね」
そう言ってマミアさんは、懐のポケットから何かを取り出し俺に見せる。
『田中星作 ◯◯高校一年生…………』
それは、俺の学生証だった。
WAON。個人情報ダダ漏れじゃん。
この子目が覚めたら、勝手に人の荷物を漁るんじゃありませんって言ってやろう。
でも、これで確信を持てた。このサーヤって子は、俺の世界から転移して来た人物で、俺と面識がある事を。
しかし、俺はこの子と何処で会ったのだろうか?
顔を見て思い出そうとすると、過去の思い出が次々と蘇るかのように脳裏を駆け巡る。
幼稚園に入園した時だった。
俺は、同じく入園した近所の女の子と仲良くなった。
その子と一緒に遊んで、一緒にお昼を食べたり、家に遊びに行ったり、その子の両親も、俺を息子の様に可愛がってくれて……
親どころか親族もいない天涯孤独の俺にとっては、本当に家族みたいに思って……。
『ーーー……』
「!!?」
突如俺の脳内に響く、例の幼馴染の声。
確かにその子は俺の事をこう呼んでいた。
セーちゃんって……
こいつは……この子は……
「ん………んん……」
「っ!!?」
眠気が残ってるような声を出しながら、ゆっくりと起き上がるサーヤ。
俺はすぐさま彼女に寄り添い問いかける。
「おい、お前ってもしかしてサーヤか!? あの三笠木 彩綾なのか!?」
瞼を開き、潤んだ瞳で俺を見つめる幼馴染かもしれない少女。
俺も何も言わず、ただ彼女をじっと見続けていた。
幼かった頃の思い出が、一気に蘇るかのように再度脳裏を駆け巡った。
幼馴染の少女と一緒に、花火大会ではしゃいだ時の思い出。
小学低学年の頃、一緒に雪だるま作った時の思い出。
あんな事や……こんな事や……
止まる事を知らぬかのように、滝の如く湧き上がるかの様に思い出していく。
気がつけば自分の意思関係なく、目から涙が溢れ出てきた。
少女もそうだった。
俺の問いに少女は、涙でぐしゃぐしゃになった顔でゆっくり頷いた。
「やっぱり……お前……お前………」
気づけば目の前にいる幼馴染と同じように、目から大量の涙が溢れ出てくる。
「…………会いたかったよ……、セーちゃん………会いたかったよぉぉぉぉ!!!」
「サーヤ………サーヤァァァァァァ!!」
俺達はお互い抱き合って大泣きしていた。
やっぱりコイツは、昔死んで離れ離れになった幼馴染の彩綾だったんだ。
ずっと忘れてたわけじゃない。
記憶の奥底に封印されていただけで、心の何処かで覚えていたんだ。
だけど、まさか転生して異世界にいたなんて思いもしなくて……。
嬉しかった。
もう二度と会う事がないと思っていたからだ。
俺達が生まれた世界に、混沌とした自然環境の世界や、この中世ヨーロッパ風の世界。
それ以外にも、数え切れないほどの異世界が存在するのだろう。
そんな多くの異世界の内の一つで、偶然だとしても、あの頃のままで再開出来たんだ。
この奇跡に近い再開に、泣く事を我慢する事が出来るわけがない。
それはサーヤも同じな筈だ。
じゃなければ、今の俺の様に大泣きしているわけがない。
サーヤも、あの時からずっと……。
「……暫く二人っきりにしてあげた方がいいわね」
マミアさんはそう小声で呟き、戸に手を伸ばしーー
ガチャリ
「「!!?」」
ドアが開いた。
俺とサーヤが同時に振り向くと、
「れ、レイニス君……」
「いや、帰って来ました……じゃなく……、気がついたんだセイサク……じゃなく……お邪魔だったかな……」
マミアさんの前に、顔を真っ赤にした買い物から帰って来たレイニスが立っていた。
俺とサーヤは慌てて離れました。
『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、
ブクマや評価をしていただけると、とても励みになります。
よろしくおねがいします!