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第六話 紅い化け物

「ッ……、どこまで俺の……覚悟を決めた奴らの邪魔をすれば気が済むんだお前はッ!」

「私は唯、こんな間違った戦いを止める為に戦っているのよ。この力は、この世界のモンスターから元いた世界のみんなを守るためのものでーー」

「その戯言は何度も聞いたッ! 貴様の言葉なんかに誰も耳を傾けんわぁ!」


 今も尚激しい戦いを続けているイケメン野郎と金髪お姉さん。


 イケメン野郎はお姉さんの話に聞く耳を持たず、ひたすら剣を振り続けた。

 対するお姉さんは、イケメン野郎の攻撃を、武器であるマスケット銃を使って最も容易く防いでいる。

 まるで、イケメン野郎の攻撃を全て読んでるかのように。


「あ、あの金髪のお姉さん、結構強いんじゃねぇのか?」

「ああ、多分だけど、あの金髪の人、この場にいる人の中でも一番実力が高いと思う。あの人の強さは、単純な戦闘力だけじゃない。戦闘スタイルは遠距離からの狙撃で相手の動きを止めてからの攻撃を得意としてる。それに、あの銃は魔力を込める事で、強力な弾丸を放つことが出来ると見た。つまり、今あの人が使っている銃は、見た目以上にとんでもない代物だと言うことだ。恐らく、あのマスケット銃で放つ銃弾は、一発でも当たれば相当なダメージになる筈なんだが……」


 うぉぉ……、流石剣と魔法の異世界住民のレイニス。ペラペラ解説してくれる。

 にしてもその未だに二人の攻防を見て、何か考え込んでるようだが……、


「えっと……レイニスさん? 深い顔してどしたんだ? 言い方からしてイケメン野郎はそんなに強くないって事なんか?」

「いや、金髪の人が優勢とは言え、あの人の発泡を全て避け切った事を考えれば、彼は少なくとも僕より強いのは確かただ。そんな事より……」


 レイニスは今も余裕綽々な表情をしているマミアの顔に視線を向ける。


「さっきあの人が放った岩石魔法も、モンスターに通用したのが気になって……」


「え? モンスターにって……あっ」


 そう言えば確かに、逃げた蜘蛛だけじゃなくあの使役されてる蝙蝠も、変なバリアでレイニスの攻撃全部弾いてたな。

 多分あの金髪お姉さんも、レイニス達が住む中世魔法世界の住民だと思う。

 だって、この世界から脱出するわとか言ってたし。

 そのお姉さんが魔法で放った岩に対して、蝙蝠のバリアが発動しなかった。

 イケメン野郎の攻撃もモンスターに通用してたし。


 ……二人とレイニスと何が違うってんだ?


 そう思った時だった。


『キィィ!』

『ーーッ!?』


 別方角で決闘していたイケメン野郎の蝙蝠と、お姉さんの岩巨人。

 その蝙蝠が岩巨人の一撃を潜り避け、お姉さん目掛けて襲い掛かろうと突っ込んで行く。


「ッ!? マミアさん! アイツのモンスターがそっちに!」


 サーヤという名のロリっ子の叫び声が響く中、金髪お姉さんは迫り来る蝙蝠に対し、


「大丈夫よ。心配しないで」


 笑顔で返事をすると同時に、


 バァン!


『キィッ!?』


 マスケット銃で撃ち抜いたのだ。


 その瞬間、


「ーーあっ」


 俺の視界に入ったんだ。


 彼女の右腕に装着された、俺と同じ黄金の腕輪を。

 いや、黄色い石が付属されてる時点で俺じゃなく、イケメン野郎のと似てると言うべきか?


「……もしかして、あの腕輪となんらかの関係があるんじゃないのか?」


 同じくお姉さんの腕輪が見え、目を丸くしたレイニスが咄嗟に呟いた。


「えっ、それってどゆこと?」

「分からない。けど……、もしそうなら、僕の攻撃が効かなかった理由が分かるかもしれない。そしてセイサクの攻撃も結界がーー」


 ……うん。駄目だ。さっぱり分からん。


「えっと……それってつまり?」

「今セイサクが持っている腕輪はーー」


 レイニスが言いかけた時、


「ちょっと待って、今、腕輪ってーー」


 サーヤという名のロリっ子が、俺達の会話を聞いていたらしく、声を掛けてきた。

 だがその時ーー


「ぐっ! 何故だ! 何故勝てない!?」


 膝を地につけ、お姉さんにマスケット銃を向けられているイケメン野郎。

 使役している蝙蝠モンスターも、お姉さんの岩巨人が両手で鷲掴みにし、身動きが出来なさそうだった。


「……貴方は心を、冷たい氷の鎧で覆うとしている。けど、貴方自身の心は、それさえも溶かしてしまう程に暖かい。だから非情に徹しきれない」

「……何が言いたいッ!?」

「もう終わりにしましょ。こんな戦い。これ以上続ければ、貴方も私も、きっと後悔する事になるわ」

「…………黙れ」


 お姉さんの説得に耳を傾けず、イケメン野郎は静かに立ち上がり、剣を構える。


「どうして、そこまでして戦おうとするのか。傷だらけになっても何故辞めないの? 一体何を悩んでいるの? 私は今、貴方の本当の気持ちを知りたいの」

「……黙れッ! 貴様ごときに理解出来るものかァァァ!!」


 イケメン野郎が吠えた直後、



 ドォォォォォン!!



 凄まじい轟音と共に、蝙蝠握ってた岩巨人が爆散してしまいました。


「なっ!?」

「ッ!? ロックバレーッッッ!!?」

「ッーー!」

「っ!!?」


 唐突の出来事に、この場の全員が度肝抜かれたような顔して驚く中、


「…………」


 俺だけ脳内処理できず、頭がショートしかけております。


 ……なんであの岩巨人爆発したん?


 えっと……、なんでか分からんが、あんな簡単に破壊されるもんなのか?


 うん。蝙蝠握ってた腕だけ残して木っ端微塵に爆散しちゃいましたね。

 しかも突っ立ってた縮毛草原が、なんか火の海に変わっちゃってるし。


「………ねぇ、レイニスさん。細かいことに関してはさ、バナナの皮でオブラートに包む感じで後に回しますが、なんであっち燃えてんっすか?」


 もうこの世界のモンスターの事やら腕輪やら、どうでも良くなった気がした。

 俺、唖然し過ぎて何も言えません。


 …………


 ヤダ怖いんですけどっ!? 激闘の最中、急に爆発だなんて怖いんですけどっ!?


「マミアさん! マミアさんの契約モンスターがっ!」

「そんな……、ロックバレーを一撃で……ッ!?」


 目の前で起きた出来事に驚愕の表情を浮かべた直後だった。

 お姉さんが今も手に持っているマスケット銃が錆び始め、数秒後に砂と化して朽ち落ちたのだ。


「け、契約がッ!?」


 戸惑いながらも、自身が身につけている腕輪に目を向ける。

 すると、その腕輪に付いてる黄色い石から黒粒の粒子が舞い上がり、


 水の中で溶け切った固形型入浴剤の様に消えてしまったのだった。


「ッ!!」


 その光景を目にしていた金髪お姉さんが、唇を噛み締めた直後だった。

 鮮やかな色のした金色の髪が、欧州人特有のココア色の髪へと変色する。


「まさか、こんな……」


 信じられない出来事を目の当たりにした様な瞳で、再度爆散した岩巨人の方へと顔を向けた途端、


「ッ!?」


 突如愕然とした顔となり、空を見上げながら立ち尽くしたのだ。


「お姉さん?」


 俺は彼女の様子が気になり、声を掛けようとしたら、


「なっ!?」

「!!?」

「ッ! なんて魔力量だ……」


 レイニスやサーヤ、そしてイケメン野郎も、みんな揃ってマミアさんと同じ顔へと変わってしまいました。


 えっ? 何? あっちになんかいるの?


 俺もふと同じ方角へと振り向くとーー、




 岩や氷塊と共に宙を浮いてる、両手の上に火球を浮かした紅い色の何かがそこにいたのだ。


えっと……なんだアレ?


 見た目は人型で、意外とスタイリッシュながらも筋肉質なボディ。例えるなら細マッチョ。

 顔も鬼のように厳つい形相な上に、殺伐とした雰囲気を、燃える炎の如く醸し出している。

 そんな見た目だけでも恐ろしい奴が、大きな炎の玉を、それぞれ片手に一つずつ浮かせている。


 ねぇ、ちょい待て?


 もしかしなくてもさっきの火球はアイツがぁ!?

 しかも爆散した方をよく見ると、モザイク処理とかの言葉で表せるレベルじゃなかったよ!? えらい事になってるって話じゃねえよ!


 だって地形の一部が木っ端微塵に吹っ飛んでるしっ!?

 二メートル程のクレーターが出来ちゃってるし!?

 余裕ぶってた元金髪だったお姉さんも、急に顔が真っ青になった様な表情浮かべてるし!


 なんだよアイツ!? 紅魔の生まれ変わりっ!? 頭のおかしい爆裂モンスターっ!?



『OOOOOOOOO!!!!』



 叫ぶ紅い奴は両手を上げると、浮かせてた火球を一つにした。

 そこら辺に浮かぶ乗用車サイズの岩と、同等の大きさの火球になっちゃったよ!?


 見えた途端、嘘っ!? って言わんばかりの驚異的な瞳になっちゃった。


 ヤバいって! あんなのぶっ放したらクレーター出来る話じゃねえよ!

 洞窟並みの深さの大穴が出来ちゃわないかコレぇ!? それともここ爆散か!?

 どっちにしろこのままじゃ最速デッドエンドパターンじゃねーのかっ!!? 『おお、勇者よ、ここで死んでしまうとは情けない』ってセリフが可愛く思えるよ!


「皆! 逃げてェェェェッ!!」


 慌てた様子のお姉さんが、俺達の方を振り向いて叫んだ直後、


『………』


 紅いのはお姉さんとイケメン野郎じゃなく、俺達の方に視線を向け……、


 アレ? アイツ、俺の事をじっと見てね?

 なんで? なんで俺の方を見るんだ? 

 しかも俺に狙い定めてるみたいなんですけど? 俺なんかしました?


 あっ、そうか。俺が転生者だからか。

 きっと俺の中に眠る異世界チートパワーを感じてーー嘘ゾォおオオオオオッッッ!!??


『OOOOOOOO!!』


 そんな馬鹿な事思ってた直後だった。

 紅いのは、既に用意できてた劫火の巨玉を、やっぱ俺目掛けてぶん投げやがった!


「ちょっ! マジかーー」

「セイサクッ!」

「セーちゃんッ!!」


 俺の名を叫びながら、必死の形相で手を伸ばすレイニスとサーヤの姿が視界に入った瞬間、


「カオス・アルトラブラスター!」

『キィィィィィィ!』


 落ちた岩巨人の腕からすり抜け自由となったイケメン野郎の蝙蝠が、巨炎玉に目掛け、口から竜巻を放った。


「ッ!」

「ッ!?」


 勢いを増した巨大な渦風は、俺達へと落ちる超巨大火球を貫いた瞬間、


 今まで聞いたことのない、想像を絶する爆音と共に消滅した。


「うわッ!」

「きゃッ!?」

「ぶばぁッ!?」


 その際発せられた、暴風に近い余波に巻き込まれ、俺、サーヤ、レイニスの順に、地面を転がるように吹き飛ばされてしまった。


「痛ォォォォ……、大丈夫二人共?」

「うん。私は平気だよ」

「一応僕も……」


 声を掛け確認すると、二人は怪我もなく無事のようだった。


「貴方……」

「貴様の契約は切れ、無関係な奴が一人紛れ込んでるからひとまず休戦にするだけだ! さっきの爆発で大量に煙が出た。それが目隠しとなって奴は俺達がどうなったか確認することができない! その隙に逃げるぞ!」

「あっ……」


 お姉さんの手を掴んでこっちに向かい走って来たイケメン野郎。


「お前達も早く来いッ!!」

「は、はい……ッ!!」

「あぁ……」

「……ッ!?」


 突然の出来事に驚きつつも、俺達も急いで立ち上がり、追い掛けるように走った。

 向かっている先は、俺とレイニスが潜って来た、あの中世世界とこの世界を繋ぐ光の輪。


 そしてその入り口まで後少しと言うところで、


 ドドンッ! ドドンッ! ドドドンッ!!


「「「ッ!!」」」

「なッ!?」


 背後から数回の轟音と、その直後に発した凄まじい爆風に襲われ、全員揃って再び地面に倒れ込んだ。

 咄嵯に振り返ると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 なんと、俺達が通ってきた道が、火の海となっていた。


 先程よりも広範囲に渡り、火柱や炎の壁が発生しているじゃねーか!

 更によく見ると、所々でまだ火の手が上がっちゃってるし!


 おいぃぃぃ! 何でこんな事になってんだよぉ……。

 もう勘弁してくれよ! あの紅魔の生まれ変わりっ! ただでさえ此処カオスな場所なのにさらに酷くなってくじゃねーか!


『OOOOOOOO!!』


 雄叫びを上げるのと同時に、視界を遮る煙幕を吹き飛ばした紅い魔物。

 そして俺達の方へと目を向けた直後、猛禽類のような鋭い眼光で睨みつけ、


『OOOOOOOO!』


 雄叫び上げながらこっち向かって降下してきやがった!


「バットウィング!」

『キィ!』


 パシンッ!


『xッ!?』


 迫り来る紅いのに、奴の後頭部にイケメン野郎の蝙蝠の不意打ちキックが決まった。

 紅いのは浮遊のバランスを崩したかの様に落下し、そのまま地面へと激突した。


「今の内に早く行くぞ!」

「わ、分かった!」

「ほら、セーちゃんも立って!」

「わっ、分かってーーえっ?」


 サーヤに引っ張られ立ち上がった後、俺達は光輪へと飛び込み、吸い込まれて行った。


 ……サーヤってロリっ子少女、俺の事をセーちゃんって読んでなかったか?


 なんだろう……そう呼ばれた瞬間、どこか懐かしく感じた様な……。

10分後、更に投稿します。

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