第四話 イケメン野郎
巨大な化け物蜘蛛に突っ込み、一気に距離を詰めた謎のイケメン野郎。
蝙蝠モンスターから放出されし羽の大剣で、巨大蜘蛛の顔に向けて一振りしようと構える。
巨大蜘蛛は前足二本の鎌で、斬撃を防ぐ構えを取った時……、
「ふんっ!」
イケメン野郎は気合いを入れて、大剣を上から下へ思い切り振り下ろし、
蜘蛛の右足の鎌を斬り落としたのだ。
『プシュァァァァァァッ!!?』
蜘蛛の苦痛の鳴き声が轟く。
切断面から吹き出る紫色の血飛沫は、まるで噴水の様に勢い良く噴射される。
「こ、攻撃が通用した!?」
レイニスは、目の前で起きてる光景に驚愕の声を上げた。
俺も同じ気持ちで、声の出し方も忘れたかの如く驚いちまった。
だってそうだろ!? あのデッカい虫の攻撃を掻い潜り、しかも一撃で脚一本を切り落とすなんて!
あのイケメン男! 只者じゃないぞ!
その証拠にレイニスだってすんごい顔になってーー
「ど、どうなってるんだ……?」
ーーレイニスは唖然とした表情を浮かべながら呟いてました。
あれ? 驚いてはいるみたいだけど、俺みたいな驚愕した顔じゃないぞ?
どっちかというと、不可能な事を可能にしたような、そんな顔をしている。
「……」
一体どうしたのだろうか? 疑問に思っているその時だった。
『プシュァァァァ!!』
巨大蜘蛛は怒り狂ったかのように、残った左の鎌を振り回して暴れ始めた。
「俺には通用しない」
だがイケメン男は冷静沈着な態度を取り、その暴れる左の鎌を軽々と避けていく。
なんなんだアイツ? あんなデカくて動きの鈍重なモンスター相手に、余裕な様子で全てを避けてやがる。
それにさっきの、腕輪から出した武器といい、明らかに普通の人間とは思えない身のこなし。
ひょっとしてレイニスが驚いた理由って、アイツが人外的動きをしてると思ったからなのか?
いや、確かにそうかもしれないけど、レイニスも似た様な動きしてたぞ。
再度イケメン野郎の方へと視線を向ける。
バシィ!
『プシェ!』
その時丁度アイツが、蜘蛛の腹に蹴りを入れた所だった。
「やっぱりだ。アイツの攻撃に対してあの魔物の結界が発動していない」
え? 結界?
突如その様な事を呟いたレイニス。
「レイニスさん、結界って?」
「えっ? あぁ……うん。見ていただろ。僕の攻撃があの蜘蛛に通用しなかったのを。命中する度に妙な結界が貼られて防がれたのを」
……そういえば確かにそうだった。
レイニスのダガー攻撃も、火の玉魔法も、紫色のバリアで弾かれて効かなかった。
「いやでもそれってさ、アイツの武器や装備の効力で掻き消されてるとかじゃねぇの?」
「僕も最初はそう思ったよ。けど、だとしたら攻撃に触れかけた瞬間に結界が発動され、そのまま結界が斬られたり貫かれたりする瞬間が見えるはずだ。だけど……」
イケメン野郎は大剣を振り下ろし、蜘蛛の腹部に傷を入れる。
そこから血飛沫が飛び出てきた。
「……やっぱり。そんなの全く見えない……いや、結界自体が発動していない」
……レイニスの言ってる事が理解出来た気がした。
要はアイツの武器や防具が、何らかの力を持ってるんじゃなくて、そもそもアイツ自体に、あの巨大蜘蛛の結界が通じないのか。
だとすると、何者だよ? アイツ。
そう思ってた時、アイツが身に付けてる腕輪が目に入った。
アレ……石さえ除けば、俺が今持ってる腕輪とそっくりじゃねーか。
「……」
なんとなく腕輪を右手に嵌めてみたらーー
『ァモッy・ルード ギヂドサヨウソフ』
あ? なんか頭の中から変な言葉が流れ込んできたけど?
そう思った直後ーー、
『サモン・ソード 擬似習得』
アレ? 分かる! 分かるぞ!
どういう理屈か知らんが、この言葉がなんなのかが理解出来た!
コレって、アイツが使ってる様な大剣を召喚出来る魔法だったのか!
マジか! スゲーな! 異世界!
俺は興奮しながらも腕輪を掲げ、念じる様に唱えた。
「サモン・ソード!」
「……えっ?」
呪文を唱え、ふとレイニスがこっちに顔を向いた時、腕輪全体が灯るように光った。
それを確認した次の瞬間ーー
「これで上空からあの大剣が降ってきてーーヴッ!!?」
「セェッ、セイサクッ!!?」
強烈な吐き気が襲ってきた。
堪えようとしたけど、耐えきれず出しちまったよ。
嘘だろ!? 唱えたら凄え気持ち悪くなるデメリット付きかよ!!
「大丈夫か!?」
「あ、ああ……。なんとか……」
レイニスが心配してくれてる。正直かなりキツイが、ここで弱音は吐けない。
そんな状態で前を向き直そうとした時、横側に突き刺さっている一本の剣が目に入った。
あれ? いつの間に?
「なっ、なんだこれ?」
レイニスも俺と同じ反応をしている。
その最中、俺は恐る恐る近付いて、その剣を手に取った。
「……これは……僕達の世界の武器じゃない……よね?」
レイニスは今俺が手に持ってる剣を見て首を傾げてたが、俺は直ぐに察した。
間違いない。これは俺が腕輪の力を用いて召喚した武器だ。
あのイケメン野郎のと違って、なんの変哲もない普通の細身の長剣なのは謎だが……、
「まあいいや。どんな形でも、これが俺無双できるアイテムだったら、俺も!」
「せ、セイサク? 一体なにを言ってーー」
「いくぞォォォオオオオオオオ!!」
「セェッ、セイサクッ!?」
俺は岩陰から出て、今もイケメン野郎が戦ってる蜘蛛に向かって駆け出した。
「なにやってるんだセイサクッ! 戻れッ! 戻るんだッ!!」
俺が飛び出してきた事に驚いた様子のレイニス。
そんな事より今は目の前の巨大蜘蛛だ。
アイツの謎結界が邪魔でレイニスの攻撃は通用しない。
だが、今の俺の場合は別だ!
この世界に来る前に、いきなり与えられた腕輪の力! それはきっと、レイニスが使うような魔力とかなんやらとかそんな類のものではない!
「なんだかよく分からんが、その力、試させてもらうぜ! デカブツ蜘蛛! 覚悟しろやァァアアッ!!!」
そう叫びながらイケメン野郎の横を通り過ぎて、
「っ!? なにをしてるんだアイツは!?」
「必殺! カン・トウ・メーンッ!!」
ボキッ!
「えっ!? 折レタァ!? ブビャッ!?」
蜘蛛は横足で軽く払い叩き、俺を飛ばされました。
そしてイケメン野郎に向かって「うわぁぁぁ」と声を上げながら吹っ飛んでいってーー、
「フンッ!」
ゴキッ!
「ボォッ!? ブバラァッ!!」
大剣で殴られ地に落とされました。
「せ、セイサク大丈夫かーーうわっ!?」
「お守りしろと言っただろっ!!」
「えとっ……ごめん……」
イケメン野郎は俺に駆け寄ろうとしたレイニスの胸ぐら掴んで怒鳴りつけていた。
「全く……とにかくこの馬鹿連れて離れてろ。今からトドメを刺す」
そう言ってレイニスを乱暴に離すと、今度は俺の方へと向かっていった。
「あ痛タタタ……あの野郎……」
「いいから早く離れるよ」
レイニスに引っ張られるように、俺達は巨大蜘蛛から距離を取った。
「来い! バットウィング!」
離れた事を確認したイケメン野郎は、今も空を舞っている例の巨大蝙蝠に目線を向け叫んだ。
『キィィィィィィ!』
するとその鳴き声と共に巨大蝙蝠が猛禽類の如く急降下してきて、イケメン野郎の胴体を鷲掴みにし再度飛び上がる。
その姿はまるで、イケメン野郎の背に悪魔の翼が生えた様に見えた。
え? なんだよアレ? あの人今度なにする気?
そう思い込んだ直後、ある程度の高度まで上がった後、そのまま蜘蛛に向かって急降下した。
「カオス・ファイナル! 飛襲突!」
真上からそんなイケメン野郎の掛け声が聞こえた直後だった。
イケメン野郎を掴んでいる蝙蝠が、奴を軸にするかの様に両翼を竜巻の様に巻き付き、巨大なドリル状の姿へと変わる。
え? なにアレ? マジかっこいいんですけど!
「これで終わりだ!」
イケメン野郎は更に加速しながら落下していき、巨大蜘蛛の腹部に激突ーー、
『プシュゥッ!!?』
ーー仕掛けた瞬間、危機を察知したかの様な鳴き声を出した蜘蛛が、誰も居なさそうな木々茂みの方へと跳んで行った直後、
ド派手な轟音が、この場全体に響き渡ったのだった。
…………
「……な、なにが起こったんだ? あのイケメン野郎は何を……」
俺達目の前で響き渡った、爆発音のような大きな物音。
立ち込める砂煙が消えた頃、視界が晴れるとーー、
「……えっ!?」
「「う、嘘だろ……魔法でもない一撃で……こんな……」
俺とレイニスは唖然……いや、唖然というか、愕然としてしまった。
何故なら……、
「ま……魔法でも……普通にこんな惨状にする事って出来るんっすか?」
「可能なのは上級魔法超えた、一部の超級魔法だけだ……。だけど……物理技でこんな大穴が出来る事は……」
先程まで蜘蛛が居た箇所は、例のドリル状態になってる蝙蝠を中心に、二メートル程のクレーターが出来てたからだ。
俺もレイニスも開いた口が塞がらなかった。
転生したばかりの俺は当然だが、剣と魔法世界の住民レイニスがこんな状態だ。
レイニスの世界視点から見ても、コレは超常現象的な出来事なのだろう。
ふと未だ中央に突き刺さってるドリル姿の蝙蝠に目を移すと、
シュルル……
蝙蝠は今の姿を解いて、空真上へと飛んでいってしまった。
「……チッ、逃げられたか」
その位置に残っていたのは、蝙蝠に捕まれ一緒に体当たりしに行ったイケメン野郎。
辺りを見渡した後舌打ちし、俺達の方へと歩み寄ってきた。
「喰われる前に命拾いして良かったな」
イケメン野郎がレイニスに顔向け言葉を発した。
「えっと……助けてくれてありがーー」
「来た道を戻って此処の事は忘れろ。知らない方が幸せな事もある。そしてお前」
なんかレイニスのお礼も聞かず一方的に終わらせて、今度は俺の方に顔を向けた。
丁度いいから色々聞いておくべきか?
「いやぁ、助けてくれてありがとうございます。でもさ、お前一体何者? あの蜘蛛や蝙蝠とか一体何? そもそもここってどこなんだよ? ってかなんでお前の剣は斬れ味良くて俺のはベビースターのように脆いーー」
ジャキ
「……えっ?」
「死にたくなければその腕輪を寄越し、この世界の事を全て忘れろ」
イケメン野郎は今も持っている大剣の刀身の先端を俺の喉元に向けたのだった。
10分後、投稿します。