第二話 二つの黄金の輪
「はい。とりあえずコレに着替えて。麻で作られた安物の服だけど」
レイニスから手渡されたこの世界の衣服に着替えながら、俺はちょっと前の事を思い出していた。
確か俺は……
ーー
「泣いてるだけじゃ何も解決しねーぞー」
そうだ。期末テスト期間で部活が休みで、通常より早く下校になったんだっけ。
住処である児童保護施設に帰ってる最中、人混み多い商店街を通ってる最中だった。
とある店の前で泣いてる、一人の子供を見かけたんだ。
声掛けて話を聞いたら、母親と逸れて迷子になってたとかだったな。
「泣く事なんて誰にだって出来る。けど、それじゃあ見つけたい人を見つけられねえし、今しなきゃいけない事も出来はしない。お前が今したい事って?」
「……ママにあいたい」
「おっしゃ! だったら一緒に探そっか!」
って感じに笑み浮かべて安心させて、一緒に商店街内を歩き回ったっけ?
「ミチルちゃん!」
「あっ! ママ!」
そして公道通る商店街の中間地点辺りで母親を見つけてーー、
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「おう! 見つかって良かったな」
笑み浮かべて見送って、子供が横断歩道を渡った瞬間ーー
ブロロローー
「ッ!!? 危ないッ!!」
暴走級の速さで迫るトラックを見た途端ダッシュして、子供を投げ離した瞬間、
目の前が真っ黒になったっけ?
ーー
気づけばこの世界に居たって事か。
いや、確かに異世界系の話ってトラック引かれて転生パターンは王道だよ。
でもそれってラノベとか漫画とかでの話じゃん? つーかその展開自体もう古いじゃん? ベタじゃん?
やべー、どうしよ。急に転移したって感じだから金なし知識なし一文なしだよ。
俺、この後どうしたら良いんだ?
「あ……あのさ、助けてくれてありがとう」
っと、俺ヤベーっぽい事ばっか考えてる最中、レイニスの声で正気に戻った。
「い、いや、結局荷物取られちゃったし、俺瞬殺されたし。あっ、お前、俺を火傷から助けてくれたっけ? ありがとな」
「いや、こっちこそごめん。仲間だった奴らが君に対して酷い事を。僕はレイニス。レイニス・フラット。ちょっと前にフリーの冒険者になってしまった者……でいいのかな?」
「ああ、こりゃご丁寧にどうも。俺はセイサク。田中 星作です」
「そうか。よろしくな。セイサク。そういえばコレ、君のだよね?」
「あっ、俺の鞄」
「やっぱりか。それにしても見たことのない鞄を持ってるんだな」
自己紹介を終えたレイニスは、転移前に持っていた俺の鞄を拾い返してくれた。
さっきの炎の所為でかけ紐だけは燃え尽き無くなってたが、それ以外は何処も損傷が見当たらない。
感謝の言葉を述べた後、俺は鞄を受け取った。
「いやぁマジですんませんねぇ。服燃えちまったって知った時、一緒に燃えて中身ごと灰になったと思っててさ」
「君が悶え苦しんでる最中に紐が切れて、その際に落ちて無事だったんだよ。だけど落ちた衝撃で中身が散らばったから、回収しておいたけど一応確認した方がいいと思う」
マジでか。俺、鞄の中身ぶち撒けちゃったのか。
まぁ確かに。全身燃えてすっげえ熱かったし、死ぬかと思ってたし。
俺は鞄を開け、取り出した物を石床に置いて中身をチェックし始める。
先ずは千円札が五枚と少しの小銭、学生証とポイントカードが数枚入ってる財布。
教科書ノート数冊に友達が貸してくれたエロ冊子。後はスマホっと。
……我ながら少ない所持品だなって思いましたよ。こんな事になるならもっと色々持ってこりゃ良かった。
そう思った時、
「持ち物、大丈夫そう?」
「あぁ。問題ナッシング。持ってた物は全部無事っぽそう……あ?」
奥底にキラッと光る、金属の塊の様な物を見かけた。
いや、こんなデッカい金属類持ってきた覚えないんですけど?? つかナニコレ??
ちょいと掴んで取り出してみると、それは純金で出来てそうな感じの腕輪でした。
「す、凄い豪華そうな物を持ち歩いてるね……」
丸くなった目をしながらそう呟いたレイニス。
いや、あの、知らないんですけど。こんな物入れた覚えないんですけど?
ぶち撒けた中身を回収したレイニスが間違えて入れたとも考えづらい。だって見た途端ちょっとびっくりしてそうな顔してる。
第一それだったら拾ってる最中に聞いてくるはずだ。
とは言え、下校時は愚か、こんなの学校に持って来た覚えはないしーー、
『田中星作であるっな?』
何処からか聞き覚えのない甲高い男の声が聞こえて来た。
「えっ? どちら様??」
「せ、セイサク? どうしたんだ? 此処には僕ら以外誰もいないぞ?」
いや、確かに第三者の声が聞こえたって、レイニスに伝えようとしたら、
『おぉっ、先に言おうと思っておったがこの声は汝にしか聞こえぬっぞ! まぁ、今はテレパシーかなんかと思うがっいい!』
は? テレパシー?
『単刀直入に言おうっ。田中星作っよ! 汝をこの世界に召喚したのは我でアール! そして汝がこの世界で成し遂げる事はただ一つっだ!』
は!? 俺を召喚したのは張本人!?
やっぱ俺って死んで、異世界に転移させられたって事なのか!?
って言うかいきなり成し遂げる事って何!? 此処は普通、召喚した理由を話した後俺に頼み事をーー
『汝が所持してる腕輪。それを所持してる者達全てを倒せ。成し遂げれば汝に、自身が望む世界を創る力を授けっよう!』
あっ、ちょっ、まだ俺の心理内一人称シーンの途中なんですけどーー
『力を授けてくれる契約源は自らの目で見つけ出すのっだ! さぁ、目の前に開かれし異空間へと飛び込むがっいい!』
「だから俺まだ心の中で喋ってる最中でしょうがぁ!!」
「ッッ!!? ほ、本当にどうしたんだ?」
レイニスがびっくりした直後、謎の声が聞こえなくなった。
なんだったんだ? 今の?
この腕輪の持ち主を全員倒せぇ?
それに契約源は目の前に開かれてる空間とかって一体何?
っとか思いながら顔を上げ、前方に視線を向けた時、
「!!?」
目の前の煉瓦の壁から、金色の輝きを放つ光の輪が出現した。
「せ、セイサク? 丸くなった目をした、猫の様な顔になってるんだけど………」
「……あの……アレ……見えない?」
心配そうに俺を見つめるレイニス。
目の前に起きた光景に対しどう答えればいいか分からず、出現した光輪に指差しした。
「あ、アレって? 唯の壁で何もないんだけど……」
それに契約源は目の前に開かれてる空間とかって一体何?
っとか思いながら顔を上げ、前方に視線を向けた時、
「!!?」
目の前の煉瓦の壁から、金色の輝きを放つ光の輪が出現した。
え!? なんですかコレ!?
まるで夢の中にいる様な感覚に襲われた俺は、その光景に思わず息を飲んじまった。
「せ、セイサク? 丸くなった目をした、猫の様な顔になってるんだけど………」
「……あの……アレ……見えない?」
「ん?」
俺の指差す方向を見て、首を傾げたレイニス。
そしてレイニスは、俺が指差してる方向に顔を向け、
「……何もないじゃないか」
そう言って不思議そうに振り返った。
……あれ? え? 俺だけしか見えてないの?
「なぁ、レイニス。マジで何も見えませんか?」
「え? いや、僕は何も見てないけど……どうかしたのか?」
「いや、そのぉ……」
やっぱりレイニスには見えないんだ。
っていうかさっきの声、契約なんとかはこの輪の先にあるって言ってた様な……、
いやでも、なーんかあの声の主、胡散臭かったって言うか。
いやだって、自身の素性を何一つ……いや、俺を召喚した本人とか言ってたっけ?
それでもたったそれだけで、何より俺の話を全く聞かないどころか、一切合切喋らせてくれなかったし。
「…………」
「ね、ねぇ……、さっきから一体どうしーーってセイサクッッッ!!?」
ひとまず潜ってみて、輪の向こう側がどうなってるか確認するとーー、
「……は?」
目に映る光景を見て、俺は言葉を失っちゃいました。
心臓の鼓動も止まった気がしたし、驚きのあまり、辺りを何度も見渡しちゃったよ。
そこはさっきまでの路地裏や、パンツ一丁で飛び出しちゃった異国間溢れる街中ではない。
いや、もう街や村など、人が作り上げた居場所そのものですらなかった。
地平線の彼方まで広がってる様な緑の草原? 何処から突如モンスターが出現するか分からない、木々が茂る森の中? いや、そんな生易しそうな場所じゃなかった。
確かに人の手が加えられたない自然環境である事は間違いない。
だけど、此処がどんな場所か一言で表せと問われたら、出てくる回答が思いつかない様な場所だった。
雲一つない快晴の灰色の空。
その空の上を当たり前の様に浮遊している、無数の家一つ分の大きさの岩や氷塊、それらと同等の大きさを誇る草木の塊。
足元は煉瓦でできた道ではなく、人の毛の様な、極細い黒い糸が生え茂る草原。
すぐ近くには綺麗な水……の代わりに熱々の溶岩液が広がってる湖。
木々の枝には、雲丹や蛤などの海鮮物が、採れ時期の果実の如く実っている。
「……なんじゃこの世界?」
この混沌とした場の大地を踏み締めた後、俺の脳内はこの一言に包まれた。
10分後、三話目を投稿いたします。