第十四話 グループ制度
商店街の片隅にある、少し薄汚れた酒場の中。
「……これから、どうする?」
「暫くは素材とか売ったりしていれば問題ないけど……」
「ああ。それに此処にいる誰かが指名クエスト受ける可能性もあるし……」
「だけどグループの維持する為には、指名クエスト十件分程の額だから……」
「クソッ! アインさんさえいてくれればアイツらなんかッ!」
アルコールの匂いと共に淀んだ空気が漂い、部屋全体が暗い雰囲気だ。
この酒場にいるのは全員、広場を追い出されたチーム『ホープガイア』の冒険者達。
いや、彼らだけじゃないようだ。
「うぃ………ヒック。マジで明日からどう生きれひゃいいんばふぉ………」
「こんな俺を雇ってくれるところ、今更どこにも……」
酔い潰れ泣きながら愚痴吐く冒険者に、頭抱え明日が見えなさそうな冒険者。
なんなんだこのネガディブ酒場は?
「なぁ、サーヤーー」
俺は思わずサーヤに問いかけようと視線を向けたが、
「……」
サーヤもサーヤで、此処にいる冒険者達と同じ顔して無言だったから聞くのをやめた。
仕方ないよな。無邪気な子供のような満面な笑みを浮かべて案内してくれた広場が、あんな風に奪われて追い出されたんだから。
俺はレイニスの方へと視線を変える。
「レイニス、コイツらなんなん? 夢も希望もない顔してんだけど?」
「あの人達の殆どは、どのグループにも入れてくれず、冒険者という職に付けれなかった一般人だと思う」
「は? 付けれなかったって、なんで? っというかグループってのに入れなかったって、どういう事?」
「持ってきた素材のレア度が低すぎたのが原因だと思う。上納金を支払えず追い出されたって人も混ざってると思うし」
素材のレア度? 上納金? どういうことかさっぱり分からん。
「なぁ、どういう事か説明してくれよ。素材やレア度って何? ひょっとしてモンスターのドロップ品の事か?」
「ああ。正確に言うと倒したモンスターから剥ぎ取った身体の一部だね」
「いや、わざわざ生々しく言い直さなくてもいいわい。ってかなんでそれだけでグループに入れなかったり、追い出されたりされるんだ?」
「うん、それは……」
レイニスの話によると、例のゲームを広める為に国が作った制度による影響だとか。
この世界の国王は、いくつかの条件付きで冒険者家業再開を認めたと言っている。
その内の一つにグループ制度というのが含まれているようだ。
制度の内容はこうだ。
冒険者活動をしたければ、最低五人以上のグループを作らなければ駄目だとか。
このグループはラノベとかでよくあるパーティーグループとは違い、言えば簡易的冒険者ギルドの役割を担っているようだ。
グループの構成は、リーダー、副リーダー、後は構成員? って感じらしい。
理由としては、グループ内のメンバーがクエストで損害を出した時の処理の為だ。
昔はクエストによる損害賠償は、街の領主が立て替えていたようだ。
だけど能力主義の国王はこれを快く思っていなかったらしい。「無能の失態を有能な人間が尻拭いするなど愚かな事だ」とかも言ってたとか。
だから冒険者の失態は冒険者自身で責任取らせる為に、グループ制度を作ったようだ。
「結果としてどのグループもそれなりの実力を持つ冒険者しか入れさせなり、倒したモンスターのランクによって、加入するかどうか判断するようになったんだ。モンスター・ファイト。通称モンファイの素材にも使えるし、それだけ強いモンスターを倒せる力も備わってるって証明にもなるしな」
そう言ってレイニスは、懐のポケットの中から、例のゲームで使用されてた小さな立方体の箱を取り出した。
お前も持ってたんかい。
「これ、こんな感じに開く事が出来るんだ」
レイニスがゲームに使う道具の蓋を開け、中身を見せてくれた。
中には動物の毛皮みたいなモノが見える。
「倒したモンスターの一部を此処に入れる事によって、召喚出来るモンスターが変わってくるんだ。強いモンスターであればある程、それに見合った強いモンスターが出現するから、どのグループも強い人ばかり求めるようになってしまったらしい。結果としてグループに入れず、冒険者活動出来ない人が続出してるのが現状なんだ」
マジか。この世界の冒険者って結構大変なんだな。
全てを賭けて冒険者家業目指したはいいけど、才能が足らず門前払いってか。
ここ初心者冒険者に優しい街じゃなかったっけ?
こんな街にまで能力差別主義が影響してるって事なのだろうか?
「じゃ、じゃあさ、なんでグループ同士で広場の奪い合いを? 別にみんなで共有したり新しい広場作っても良くね?」
「それも国の法律によってーー」
レイニスが再度説明しようと口を開いたその時、
奥の部屋の扉が開き、そこで寝かされてた例の土木作業風の服着てる金髪美少女が出てきた。
確か名前は……ウィンディって言ったか?
「あっ、ウィンディ」
最初に今まで無言だったサーヤが気づき、顔を俯けてるウィンディへと歩み寄った。
「ウィンディ、体の方はもういいの?」
「…………うん。もう平気」
心配しているサーヤに俯き暗い顔のまま返事するウィンディ。
体は問題なくても、心の方がダメージがデカいのが丸わかりだ。
「ウィンディ……具合はもう大丈夫か?」
「急に倒れたんだから心配したんだから」
他のグループのメンバー全員も席を立ち、彼女に寄り添い体調はどうかと聞き出した。
みんな揃って彼女の身を心配していたんだろう。
だけどウィンディは………
「……ごめん」
そう呟いた後、仲間達の群れを潜り通り、一人出入り口の戸に向かい歩んでいく。
誰一人ウィンディを追う事はせず、ただ心配そうな顔をしていた。
一人になりたいんだろうな。
理由はどうあれ、大口叩いた結果負けちまったんだ。
それにウィンディって奴、あの広場をなんとしても守ろうと必死そうだったし。
そしてウィンディがドアノブに手を伸ばしたその時、
「みんなッ! やっぱり此処にいたんだ!」
急にドアが開き、ウィンディ達の仲間らしき茶髪青年の冒険者が声を上げて入って来た。
「ら、ラッツ!? どうしたのよ、そんな血相変えて?」
「アインさんの……アインさんの目撃情報を得たんだよ!!」
その言葉に全員が驚きの声を上げる。
「アインさんが!? 一体何処で!?」
「三日前、すぐ近くの商店街にある、肉屋と八百屋の間の路地裏を通ったって目撃した人がいたんだ!」
それを聞いたウィンディは、瞼を大きく開いてラッツの肩を強く握った。
先程までの暗い表情が一瞬で消えたかの様に。
「本当に兄さんがそこを通ったの!? 場所はどこなの!?」
「お、落ち着いてくれ……、えっと確か……」
ラッツと呼ばれた男は、地図を広げて場所を指し示す。
「ここから北東の方角だね。かなり近いよ」
「よし、行こうぜ!! アインさんを見つけに行こう!」
「そうだね、僕も行くよ!」
「私も行きます!」
「アタシも行くわ」
「僕も!」
「あ、あたしも!」
「俺もだ!」
アレ? なんか次々とみんな酒場から出て行っちゃってるんですけど?
なにがどゆこと?? つーかアインって誰??
って感じに困惑してる最中、ホープガイアの仲間達と一緒に酒場を出ようとしてるサーヤが、不意に立ち止まり振り返り俺達に声を掛けてきた。
「セーちゃんごめんッ! 用事が出来たから先にレイニスさんと一緒に帰ってて」
「いや、何が何だかさっぱりだけど、俺らもそのアインって人探すの手伝おうか? 人手は多い方がいいだろ。なぁ、レイニス」
「うん。僕もサーヤちゃんに助けられた様なもんだからね。恩返しのつもりで協力するよ」
そう言った後、俺とレイニスも席を立つ。
「ありがとうセーちゃん。レイニスさんもありがとうございます。 でも、これは私たちの問題なので」
「何言ってんだ。お前、俺はともかく、レイニスを加入させる為にこのグループを紹介したんだろーが。だったらグループ全員で協力して、問題解決するのが筋ってもんだろうが」
「そうだよサーヤちゃん。困っている子を放っては置けないよ」
「セーちゃん……レイニスさん……」
俺達の返答を聞いた後、
「……うん。セーちゃん、レイニスさんも……、ホントにありがとう」
サーヤは俺の顔を見て優しく微笑んだ。
……たく、偶にこんな可愛い顔してくるとやりづらいんだよな。
……また見られるだなんて思ってなかったよ。
「決まりだな。んじゃ、早速探しに行くぞ」
そう言って、俺達もアインって人を探す為に後を追い、見かけたと言われた路地裏へと向かうのだった。
明日二十一時に投稿いたします。
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