第十三話 モンスター・ファイト
なんでこんな事になってるのだろうか?
冒険者ギルドっぽいこの広場を賭けて、冒険者達が変なゲームを始めやがった。
ホログラムっぽいモンスター同士を闘わせるゲームのようだけど。
乗り込んで来た連中のリーダー格は、額に角を生やしたウサギを使役し、ウィンディと言う、元からここにいた金髪少女は、スライムのホログラムのモンスターを使役してるっぽそうなんだけど。
「あっ! モンスター・デュエル・ファイトやってるじゃない! ここに食べにきた甲斐があったわ!」
「見てこうぜ見てこうぜ! こいつぁ面白くなりそうだぞ!」
後から食事に来た一般人らもこれ見るためだけに自ら野次馬に混ざりやがった。
席に座らず見に行くなんてなぁ。本当に人気なんだなこのゲーム。
「いくわよスライム! 先手必勝!」
ウィンディが箱に念じると、スライムの身体が徐々に透け始め、消えてしまった。
「なっなにぃ!? どこにいった!?」
リーダー格の男は辺りを見回すが、見当たらない。
俺から見ても姿が見えないのは、どういう原理で?
「消えたのではなく、透明になったんだ」
俺の隣にいたレイニスが教えてくれた直後、
「スライム! そこッ!」
ウサギの背後に突如、消えたスライムが姿を現し、背後から体当たりを仕掛けた。
『ピギャッ!』
「なにっ! ぐっうぅ」
ウサギの背中に直撃し、そのまま地面に倒れた。
同時にその場の全員が、驚愕の声を上げる。
………いや、俺だけは無言のまま瞼を大きく見開いてただけだった。
攻撃が決まった際に舞い上がった、火花っぽいエフェクト。
幻影とは思えないリアルな鳴き声。
体だけじゃなく心にまで電流が走ったような感覚を覚えた。異世界でこんなのが見られるだなんて。
「やったわよスライム! さあどんどん行くわよ! 」
「舐めんなッ! 俺の一角ウサギ! さっさとあんなスライムを串刺しにしやがれ!」
リーダー格の男がそう叫ぶと、 ウサギの角が赤く染まり、次第に先端が鋭利に尖っていく。
そして起き上がると同時に、勢いよくスライムの方へと突進していく。
しかし、スライムはウサギの突進を、特徴とも言えるジャンプ力で回避し、
「スライム! 空気刃!」
ウィンディが箱に念じながら声をかけると、スライムは空中で旋回しながら再び、角が赤くなったウサギの頭部に目掛けて真空波を繰り出した。
口から放たれた透明色に近い刃により、ウサギの角は切断されてしまう。
その角がクルクルと宙を舞い、地面へ落ちた……と思っていたらーー、
グサーー
「…………へ? だぁぁぁaaaaaaaaa!? レェェェニス頭ァァァァァァァァ!!!?」
「いや、驚くのも無理ないけど、大丈夫。怪我してないから」
いや、脳天モロにモンスターの角刺さってる時点で大怪我だろーがっ!?
「おおおおいどこも痛くないよな!? 大丈夫なーー」
「初めて見たらそう思うのはわかるけど落ち着いてくれ」
「馬鹿野郎! 人が凄え心配してんのに何呑気な……ってあり?」
確かによく見たら、刺さった箇所から血が出てないな?
っていうかもうレイニスの頭に刺さってすらいないぞ?
「あの魔道具で召喚されたモンスターは、魔力で作られた幻なんだ。その証拠にほら」
「一角ウサギ! ファイアボールだ!」
リーダー格の男が指示を出すと、ウサギは口から火の玉を吐き出す。
その火の玉は、真っ直ぐにスライムへと向かって行く。
「スライム! 避けて!」
ウィンディの指示通りスライムは横へ跳躍し、火の玉を回避した。
そして火の玉はそのまま、この戦いを眺めている野次馬達の方へ命中したが、
「おおっ! ウィンディの嬢ちゃんも兄貴に劣らずだな」
「三日前に行方不明になって心配してるって聞いてたが、大丈夫そうだな」
………うん。ちょっと驚いただけで平然としてやがりますね。
熱くないのかその火の玉? 一体どんな仕組みなんだよ?
今の俺って絶対に口開けてポカンと呆然とした顔になってると思う。
「あの魔道具で生み出されたモンスターの攻撃は、人やものに当たっても危害は無い様に出来てるんだ。そういう訳でリアルと安全面の組み合わせで結果的に大ヒット。今じゃゲームに勝ち続けた冒険者はみんなからチヤホヤされるほどなんだ」
「そ、そなのね……」
ふぇええ、怪我しない間近で迫力あるバトルが見れる娯楽ねぇ。
まあ確かにここまで凄くて誰もが安全に見ることができるならブームにもなるわな。
慣れるまでには時間かかるとは思うが。
………でもなんでそんなゲーム如きを冒険者のトラブル問題の解決策に?
穏やかに済ませたいなら方法なんて他に幾らでもある筈だろ?
この国の王様の考える事ってホント分からねえわい。
っと、呑気に思い込んでいた時だった。
「これで終わりよっ! スライーーうっ!!」
「うっ、ウィンディ!!?」
突如ウィンディは、頭を抱えて苦しそうにしゃがみ込んでしまった。
なんだ?急にどうしたというんだ?
「ウィンディ!? おい、しっかりしろ!」
「ウィンディ! ウィンディ!」
「うっ、ぐぅ」
サーヤや一部の仲間達が駆け寄った時、ウィンディは額から大量の汗を流しながら、必死に痛みに耐えていた。
「だからやめろって言ったんだ。キューブの不具合による頭痛にお前は耐えられないから。今すぐ棄権をーー」
「ダメ。そんな事したら……ここ……みんなの場所が……なくな……ちゃ……」
ウィンディの手に握られてるキューブが、スルリと滑り落ちるかのように地面へ落とした直後、
ドサ
「ウィンディ!! しっかりしろウィンディ!!」
「う、ウィンディちゃんが倒れたぁ!!」
「ま、マジかよ!? 嘘だろぉ!?」
倒れたウィンディを見て悲鳴や戸惑いの声をあげる仲間達や観衆達。
「………え? 倒れたって……嘘ォォォォォォ!!?」
俺も思わず叫んじまったよ。かりしろウィンディ!!」
「う、ウィンディちゃんが倒れたぁ!!」
「ま、マジかよ!? 嘘だろぉ!?」
倒れたウィンディを見て悲鳴や戸惑いの声をあげる仲間達や観衆達。
「………え? 倒れたって……嘘ォォォォォォ!!?」
俺も思わず叫んじまったよ。
倒れたってどういう事だよっ!? アイツ大丈夫なのかっ!?
もうここにいる全員が揃って予想外な出来事を目の当たりにした的な顔してるし!?
つーかこれもう試合どころじゃないだろっ!?「ウィンディ! ウィンディー!」
「おいっ! 大丈夫かウィンディ!?」
ウィンディの仲間達は全員、倒れて意識を失っているウィンディの元へ集まっていた。
しかし、
「今だ一角ウサギ! スライムにファイアボール!」
これを好機と見たリーダー格の男が放った火球は、スライムの胴体を見事に捉えた。
パァンッ!!
火の玉を受けたスライムは、砂に似た光の粒となって弾け飛び散り消滅した。
「俺の勝ちだ!」
リーダー格の男が高らかにそう宣言したのだった。
…………終わったん………だよな?
そう思いながら茫然としていると、ウィンディ側の仲間の一人が剣幕な表情を浮かべ、
「てめぇ! ウィンディが倒れたのに何が俺の勝ちだ卑怯者!」
リーダー格の男に向かって怒鳴りつけた。
「卑怯だと? 俺様はただ、弱っている敵を攻撃しただけだぜ? それのどこが卑怯だって言うんだ?」
「何ぃ!?」
「それに、こんなのは勝負の世界では日常茶飯事なんだよ。俺に文句を言う暇があるならさっさと棄権すればよかったんだよ」
「ふざけんじゃねぇ!」
剣幕な表情浮かべてるソイツは、怒りのあまり拳を震わせている。
「なんだよ、やる気か?」
「当たり前だ! てめえだけは許さねえ!」
「ちょ、ちょっと待て! 落ち着けって!」
「止めるな!」
ウィンディ側の他の仲間達が慌てて止めに入る。
「離せよ! コイツらだけは絶対許さねえんだよ!」
「気持ちはわかるけど落ち着いてくれ! これ以上やったら法律違反と見做させて、俺達のグループがギルドグループ名簿から消されちまう!」
「そうだよ! そんな事になったら僕達の居場所が無くなっちゃうよ!」
「……っ!!」
仲間達に説得されてようやく冷静になる。
「……すまなかった。ついカッとなってしまった」
「それよりもウィンディを安静な場所で寝かせてあげようよ」
仲間達がそう言って、ウィンディを抱きかかえて木陰に置かれてるベンチに運ぼうとした時、
「ザクロさん、アイツら勝手に俺達の物になった広場で仲間を休ませようとしていますよ」
乗り込んできた側の一人の冒険者が、リーダー格の男、ザクロに話すと、
「待てよお前ら」
ザクロって奴は、ウィンディを休ませようとする彼らに声をかけてきた。
「なっ、なによ? 今私達の仲間が気を失ってるから安静な場所でーー」
「敗者のお前らに貸すスペースなんかねえ! さっさとその負け犬を抱えてここからいなくなっちまえ!」
ウィンディを心配する仲間の言葉を遮るように、ザクロって男はそう言い放った。
「なっ!? そんな言い方ないだろ! ウィンディはお前らのせいで倒れたんだぞ!?」
「どうでもいいんだよ負け犬どもの言い分は! ここはもう俺たちの縄張り。誰をどうしようが俺たちの好き勝手に出来るんだよ。だからとっとと消えちまいな!」
「なっ!? なんだとぉ!!」
ザクロ側の冒険者の発言に思わず俺も、「はぁ!?」って言わんばかりの表情を浮かべてしまった。
人が一人ぶっ倒れたのにそりゃねえだろ!? なんなんだこの国の連中は!?
俺はあまりにも横暴な態度を取るザクロに、怒りを覚えたその時だった。
「………ふざけないでよ」
仲間達を掻い潜り、サーヤがザクロの前に立つと、
「あぁ? なんだこのメスガキは?」
「誰が負け犬ですって? ウィンディはあんたのせいで倒れちゃったのよ!?」
サーヤは、今まで見た事がない程の恐ろし気な瞳で連中を睨みつけていた。
殺意……までとはいかないか、鬼が宿ったかのような、そんな感じだ。
え? ちょっと? アレ、マジでサーヤさん? ヤダ、怖いんですけど。
あんなたサーヤさん、初めて見た。
「あ? なんだぁ? 文句あんのかコラ?」
「手を出したらお前らのグループ、国によってギルドグループ名簿から消されちまうぜぇ?」
「っ!!」
何食わぬ顔で挑発するザクロ側の連中に対し、サーヤはキッと目を細め、
「いい加減にして! 試合は私達の負けでいいよ! だけどその試合でウィンディは倒れたのよ!? それなのにどうしてあなた達は平然としてられるの!? 謝って!」
「はっ、何言ってんだこいつ? 俺らは悪くねえだろ?」
「そ、そうだぜ! 悪いのはそこの負け犬の弱さだろうが!」
「そうだそうだ!」
「………………」
サーヤは顔を俯け拳を強く握る。
「さ、サーヤ……気持ちは分かるけど……」
そして仲間達に宥められながら、なんとか気持ちを抑え、戻っていった。
「みんな………悔しいけど行こう」
茶髪の少年冒険者がみんなに呼びかけ、ウィンディを背負い広場を出た。
彼に続くように、他の冒険者達も顔を俯き一斉に出て行く。
一人一人が歯を食いしばってたり、涙目だったり………、
みんなとても悔しそうだった。
サーヤも同じ顔をしながら出て行った。
「はーっはっはっは! これが負け犬共の末路なんだよ、ザマァねえな!」
「全くだぜ! これでホープガイアもおしまいだなっ」
そんな彼らを見て嘲笑うクズ冒険者達に憤りを感じてならない。
ここにいる一般人らがドン引きしてる目で見られてるのコイツら気づいてるのか?
さっきから無言だったレイニスも、
今にも爆発寸前だ。
だが、今は我慢しろとアイコンタクトを送る。
俺は奴らを睨みつけながらも、レイニスと共に、サーヤ達を追いかけ広場から出ていった。
明日二十一時に投稿いたします。
『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、
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