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第十一話 カイン・ギルガメス

 雑貨店を出た俺とサーヤとレイニス。

 目的の場所へと向かいながら、俺はサーヤにここに転生し、身に起きた出来事を話していた。

 ぶっちゃけ言って、俺とレイニスの出会いの経歴みたいなもんだが。


「むぅぅぅぅ……」


 サーヤは不機嫌そうに頬を膨らませてた。


「レイニスさんを追放するなんて、そのパーティー許せないわね! しかもセーちゃんを丸焼きしかけて謝罪もなしだなんてさ!」

「だろっ!? マジあり得ねぇよなぁ!?! しかも全然反省の色無しだしよぉ!!」

「まあまあ二人とも落ち着いて」

「「だって(よ)!」」

「ふふ……」

「「あっ……」」


 つい熱くなって大声を出してしまった。

 俺とサーヤを見て、レイニスがクスリと笑っている。


「ごめん。仲が良いなと思って」

「そ、そんなこと……」

「いやいや、俺達別に……」

「照れなくてもいいよ。似た物幼馴染だけあって、二人はとても良いコンビだと思うよ」

「「うっ」」


 レイニスに褒められ、俺とサーヤは同時に顔を赤面させた。


 そんな感じに会話しながらサーヤに案内され、人混みが多い商店街を通りながら冒険者ギルドへと向かっていた。


 冒険者ギルド。ほぼ全ての異世界物語に存在する冒険者専用の施設。

 ある物語では荒くれ者達の溜まり場である酒場。ある物語では冒険者達にとって重要な情報供給場的な交流施設。

 そう、冒険者ギルドは殆どの異世界物語に置いて重要な役割を持った場所なのだ。


 この世界の冒険者ギルドは、全ての人が人生を安全に冒険する為にサポートする場所。




 …………言ってしまえば俺達の世界の市役所的な場所のようです。


 その冒険者ギルドで俺は住民登録をする為に向かっている。


 この街っていうか、どの街でも仕事する為には住民登録する必要があるようだ。

 就職や住宅の購入など、あらゆる手続きを簡易にできるようにするためだとか。

 犯罪者を捕まえる為にも役立ってるなど、意外と便利なんだとかも言われてる。

 それだけ身分証明が大事にされており、登録してない者は罰せられるって話だ。


 だけどサーヤが言うにはそれは表向きの理由だとか。

 真の目的は、国王が民を差別するために作ったという噂がある。


「なんでもこの世界を治めている王様、ステータス重視主義の人って話らしいよ。この制度の本当の導入理由としては王都に住むのに相応しい人を見極めるためだって」


 サーヤの話に対しふぅーんっと返事しながら首を縦に振った。


 この世界の王様、その話が本当だとしたらそれどうかなって思う。

 だって見た目ならぬ能力だけで人を差別してるって事になるだろ? 誰だって嫌な印象抱いちまうって。


「住む人を選択ねぇ……、っていうかそもそもここって王都?」

「ここは駆け出しの街スターライン。冒険者家業始める人にオススメの街だよ。私も特訓で冒険者仲間と一緒にこの付近のモンスターと戦ったよ。でも意外と一人で簡単に倒せちゃう程弱かったね」


 だよね。確かに立派な街っぽいけど、王都と呼ぶには一歩二歩程貧相っぽい感じだし。


「此処が王都じゃないとしたらさ、王都と他の街々と何が違うんだ? 選ばれし者しか住めないのなら、普通の街より特別な生活を送れるとかか? 例えば交通機関がどの街より快適とかさ」

「ごめん。そこまでは私にも分からなくてさ。なにせこの世界に転生してまだ二年程だし、何より私は愚か、大体の人が王都に入る事すら出来ないから、知ってる人が殆どいないのが現状だしーー」


 先に転移したサーヤでも分からないのか……っと、思いかけた時、


「王都と他の街とじゃ、物の物価が違うんだ」


 突如レイニスが口を開いた。


「「え? 物価?」」


 俺とサーヤは揃ってレイニスの方へ顔を向けると、


「例えばこの街で売られてるリンゴ。なんだけど、一個三百ヴィナスで売られているんだ」

「さ、三百ヴィナス? なにそれ? この世界での通貨か?」

「そんなところだよセーちゃん。ちなみに一ヴィナスが日本円で言うと一円みたいなもんだよ」

「ふぅん……って!? リンゴ一個三百円!!?」


 俺は思わず驚きの声を上げちまった。


「ちょっ、待て待て待て! どういうことだそりゃ!」

「そこに関して私も同じ事思ったよ。だって明らかに高いもん。大体の人が同じ事を思っててさ、色々噂になってたよ。『王都の連中は市民から搾取してる』とか、『王は国民を奴隷のように扱うつもりだ』とか、酷いものだと『王に洗脳されてるか何かで嘘を言わされているんじゃないか?』なんてものもあったかな。真偽は定かではないけどさ」

「…………」


 サーヤの話を聞いて、俺は絶句していた。

 普通に考えても信じられない事実だったからだ。

 だってそうだろ? 日本で考えれば分かることだが、果物一つ買うのにそこまで払うか?


 っと思った途端、レイニスが再度口を開き、


「サーヤの言う事は大体は合ってるよ」

「「えっ?」」


 俺とサーヤは再び声を合わせて反応した直後、レイニスは衝撃的な事を口にする。


「此処、否、王都以外の場所で買えるリンゴは大体三百ヴィナス前後だ。だけど王都で購入する場合は価格は三十ヴィナス程だ」

「「さっ!? 三十ッッ!!?」」

「それに王都に住む事が許された人達は、他の場所で品物を購入する際、通常価格の十分の一の額で購入する事も許されている。これでも王都に住む人達の特権の一部だけどね」

「「十分の一ィィィ!!?」」


 俺達は驚愕の真実を知り、ただひたすらに驚きの声を上げていた。

 そして同時に、そんなバカげた事があっていいのかとも思ってしまう。


 だってそうだろう!? もしそれが本当なら、王都の奴らは庶民から金を搾り取りまくっているようなもんじゃねえかよ!!!

 にしてもなんでそんな暴挙が許されるんだ?

 だって、王都の人間が他の街や村などで買い物する時、値段が半分以上下がってしまうって事だぞ?

 そんなの商売として成り立つわけがない。

 王都の人間だけ特別扱いにしてたら、いずれ暴動が起きてしまうんじゃねえか?

 そう思った時、俺は先程サーヤが言っていた言葉を思い出した。


ーーこの世界を治めている王様、ステータス重視主義の人って話らしいよ。ーー


 ……まさかこの世界の王様、国民を自分のステータスこそが基本としか見てないとかなのか?

 仮にそういう事であれば、王都に住める人以外は全て敵だと思ってるんじゃねえのか?


 ……それにしてもそれらが本当だとしたら、なんでレイニスはそんなに詳しいんだ?

 ふとそっちの方が不思議に思えてきた。


「なぁ、レイニス。お前ーーんぁ!?」


 レイニスに声かけようとした時、俺はとある光景が視界に入り目を大きく開いた。


「どうしたセイサーーあっ!」

「セーちゃん? レイニスさーーあぁ!」


 続くかの様にサーヤとレイニスの視界にも入り、二人とも俺と似た表情を浮かべて声をあげたのだ。

 それは、見てるだけでも気分が悪くなる嫌悪感が胸の奥から溢れてくるものだった。


「やめて……、やめてよぉぉぉ………」


「へへへ、もうそろそろ泣きべそかく頃かぁ?」


 人気がなさそうな建物隅っこに、一人の子供を逃さないように囲む、いかにもいじめっ子そのものと言えるクソガキ共。

 泣きそうな子供を見て、連中揃ってヘラヘラ笑ってやがる。


「それ返してよぉ。お父さんから貰った僕の宝物なんだよぉ」


 泣くのを堪えて返してと叫ぶ子供。


 宝物ってなんだ? アイツらに何か取られたのか?


 そう思った矢先、ちょっと小太り気味のボスっぽい悪ガキが右手を上げた。

 何か持っているようだが、アレは木で出来た剣?

 うん、どう見てもおもちゃだな。


「そうかいそうかい。だったらこうしてオラァ!」


 ボキッ!


「ああっ!!!!」


「ギャハハハハッ! 所詮平民風情の玩具。壊れやすいなぁ。みんな笑え笑え!」


 ボスっぽいガキが折り壊した後、いじめっ子共の薄汚い笑い声が響き渡る。

 虐められてる子供は我慢できず泣き出した。


「しゅ、集団虐めか!?」

「ちょっとなんなのよあの子達!? 私ちょっと……ってセーちゃん!?」

「お、おい! セイサク!」



 サーヤとレイニスが動く前に、俺は早歩きして奴らに向かってた。

 ちょっと頭に血が上って他の声を聞ける状態じゃない。


 ふざけんじゃねえぞ! 寄ってたかって弱い物イジメしやがって!


「ゴォウラァァァ!! テメエら何やーーー」

「泣いてるばかりじゃ餌食になり続けるだけだぞ」


 え? 誰だ?


 俺の怒声さえも掻き消す程の力強そうな声。

 いや、怒声だけじゃない。俺の湧き上がっていた怒りさえも吹き飛ぶ、力強い一声だった。

 気づいたら足を止め、声の方へと顔を向けていたよ。


 サーヤやレイニス、場の子供らも、先程の一言が聞こえてきた方へと顔を向けている。

 俺含めたみんなの視線の先には、冒険者のような身なりをした男が立っていた。


 貴族のイメージを思い浮かべさせるような金髪のトサカヘアー。俺の赤白ジャージとは真逆に思わせる赤黒ベースの猛者っぽい服。

 背中には剣のように扱うことも出来そうな槍状の武器をぶら下げている。


 何より印象的なのは魔王じゃないかと思わせる威圧的な紅くて鋭い瞳だ。

 その瞳は見ただけで、一角の人物だと思わせるなどと言う甘い感じのもんじゃない。

 どんな屈強な相手でも黙らせる程の気迫。例えが思いつかない強い何かを感じる。


 彼は歩きながら少年達に近づき、目線を泣いてる子供の方へと向けた。


「いいか坊主。お前には二つの選択肢しかない。戦って奴らを追い払うか、いつまでもそうやって泣いて餌食になり続けるだけか!」


 え? なにこの人? いきなり現れてなに中二病みたいなこと言ってるの? 状況わかってんの?


 悪ガキ共も「へぇ?」って言わんばかりの顔してポカン状態だよ。


 ほら、虐められてるこの子だって………アレ?


「ぼ……僕の……僕の…………」


 虐められてる男の子は泣くのを堪え、震えた声で何か言いたそうに呟き出した。

 男からいじめっ子共に再度視線を向き直し、震える両手も握り拳状態だ。


 ……………まさかぁっ!?


「ぼ、僕の……僕の宝物を折るんじゃなァァァい!!」

「え!? うわぁぁぁ!!」


 男の子はボスっぽい悪ガキに飛びかかって押し倒し、馬乗りになって何度も顔を殴り始めた。


 ちょ!? えっ!? マジかよ!? まさかのいじめられっ子の逆襲!? ミュ◯ツー様もビックリするよっ!?

 なんてこった、あの厨二男の一言が火に油注ぐ結果になっちゃったよ!


「バカバカやめなさい! 怪我して取り返しがつかなくなっちゃったらどうすーーー」

「俺達のダチになにしやがんだこの弱虫!」

「ぶっ!?」


 少年の頬に取り巻きの蹴りが当たり、少年は飛ばされ横に倒れた。

 その後、少年が立とうとした時、別の二人が羽交締めして少年を押さえつける。


「うわぁぁぁぁぁぁっ! 離せっ! 離せぇっ!!」

「イテテ……、お前ぇ……弱いくせにぃ! お前ら! こいつの顔に石をぶつけるぞ!」


 少年が抗い騒ぐ中、残った悪ガキ全員が、掌ほどの大きさの石を拾い構える。


 なんてこった! 余計大変な状況になっちまった!!


「離せ! 離せよ!! 卑怯だーー」

「「うわぁぁぁ!?」」


「えっ?」


 悪ガキ共が石を投げようとした時だった。

 例の厨二男が少年を押さえつけてた悪ガキ達の襟首を掴み引き剥がした。

 そして二人を持ち上げた後、石持ってる悪ガキ共に視線を向け睨みつける。


「おい、こいつは一人で大将と尺で勝負しに来た。だがお前達はなんだ? 全員で袋叩きして勝たないと気が済まないのか?」


 男の目つきがさらに鋭くなった。

 魔王………いや、大魔王の如く、魂刈り取られるんじゃないかと思っちまう様な瞳だった。


 俺まで刈り取られるかと思って背筋がゾクッと震えたよ。

 気づいたらサーヤもレイニスの背に隠れ、顔青ざめながらブルブル震えてるし。

 そのレイニスは息を呑んだ様な顔して男の顔に釘付け状態だ。


 悪ガキ達も似たような状態だった。

 アイツらもサーヤみたいに顔を青ざめて口も足もガタガタ震えている。

 持ち上げられた子達に至ってはズボンにシミができちゃってるし。


「お前らのような弱者は気に入らん」


 男は悪ガキ掴んでる両手を軽く後ろに下げ反らし………えっ?

 ちょっ、大の大人が? 嘘? まさかっ!!?


「お、おいあんた!! 一体なにする気でーー」

「失せろっ!!」


 両手で掴み持ち上げてる二人を、目の前の悪ガキ共目掛けて投げ飛ばした。


「「わぁぁぁぁ!!!」」


 放られ真っ直ぐ飛んでいった二人と悪ガキ共がぶつかり………


「「「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」」」


 一緒に吹っ飛んでそのまま木箱にドガシャーン。


 えっ………ってええええええええ!!?


「だ、大の大人が子供相手に容赦なくぶん投げやがったァァァァァァァ!!!!」


 ちょっと待てよ!? あの子ら身長からしてまだ小学生くらいの年齢だよね!?

 そんな奴ら相手に本気で……大人気ないどころのレベルじゃねえよ!?


 ぶつかった木箱も粉々になっちゃってるしやり過ぎだって!!

 あ、アイツら大丈夫か!? 死んでないよな!?


「「「うぅ………うわァ〜! 痛いよママァ〜〜!」」」


 あ、全員普通に立ち上がって泣いて逃げていきやがった。痛がってたがあの様子だと怪我はなさそう。


 気づけば安堵の息を吐いてたよ俺。

 よかったよ全く。


「よくやったな坊主。お前は強い」

「ありがとうお兄ちゃん」


 つーか俺の心配をよそに普通に会話してやがるよあの二人。

 あの厨二男もさっきと違って優しそうな顔してるし。


「いいか坊主、これだけは覚えておけ。どんなことになっても最後に頼れるのは、自分の力だけだと」

「うん! わかった。」

「よし、いい子だ」

「お兄ちゃんバイバーイ」


 笑顔になった少年を見送った後、男はその場を離れちまった。


 なんだったんだアイツ?


「まあ、なんか凄いの見ちまったけどみんな無事で良かったよ。サーヤーー」

「ガクガクガクガク諤諤諤諤諤諤」


 あ、駄目だ。怖過ぎたせいか精神壊れかけてる。

 気持ちわかりますよ。うん。


「サーヤ、おい、サーヤ!」

「えっ? あ……さ、サーヤちゃん?」

「愕愕……はっ!?」


 背後のサーヤに気づいたレイニスの声で正気に戻った。


「ご、ごめん。あの人の鋭い目つきが恐ろしくて何も考えれなかった」

「いや、怖かったのは理解できてもあの顔はないよ……。女の子がしていい顔じゃない」


 まぁ、確かにさっきのサーヤ、骸骨の頭を再現した様な表情浮かべてたな。

 レイニスの言う通り、ヒロインがしていい顔じゃない。


「えっと……ギルドまでもうすぐだよ。ほら。あっちいつのまにか野次馬出来てるでしょ? その方角歩いて大体三分くらいで見えてくるから」


 指さした方見ると確かに野次馬出来て………あらまいつのまに。

 まあ、考えてもしょうがないから野次馬の中を通り抜けてギルドに向かおう。


「ちょっと失礼しますよっと」

「ごめんなさい、通ります」

「すみません」


 三人で野次馬を退け通る中。


「おい、またカイン・ギルガメスの仕業か?」

「そうよ。子供相手に本気で。大人気ないわよねぇ」


 妙な会話が耳に入ったけど、俺たちは気にせず野次馬を抜けてギルドへと向かった。

明日二十一時に投稿いたします。

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

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