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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

(俺が)(あんたが)主人公のこの世界で(私が)(お前が)

勘違いじゃない気持ち

作者: 梅木しぐれ

 好きな人がいた。いや、好きな人がいる。

 その人は高校で知り合って、1年生のときだけ同じクラスだった。2年生と3年生の時は別のクラスになってしまったが、途切れることはなく卒業した後も交流は続いた。


 永遠に続くと思っていた短い高校生活の醍醐味と言えば、放課後の教室でただただ駄弁る。人にもよるだろうが、大人になってから誰かとずっと会話するなんてしなくなった。会社と自宅の往復。話し相手(話し相手ではないか……)と言えば、上司に同僚、取引先に、お客様ってところだろうか。

 くだらない話を、バカみたいなことを二人でずっとした日々が恋しい。


 大切な友達だ。


 誰もいない教室で「実は伝えたいことがあって」と内緒話をするように、ひっそりとした声に耳を澄まし、続きを促せば意を決したように口を開いた。


「——実は好きな人ができたの」


 恥ずかしそうに笑うその人の、見たことがない表情に目を奪われ———呼吸を忘れた。

 辛うじて「誰?」「どんなところが好きになったの」などの質問ができたが、実は詳細は覚えていない。あまりのショックで……と言うと、何様だよ。誰ポジションだよ。と思うが、本当にあまりのショックでこの時の会話は覚えていないのだ。


 この秘密の告白により、その人に恋をしていたことに気づいたと同時に失恋したのだ。


 それからその人の恋愛相談に乗り、その気持ちを応援した。けれどそれと同時に、自分以外の人間に夢中になるその人が面白くなくて、いっちょ前に嫉妬もした。自分の方が幸せにできるし、自分の方が好きだ! と思ったりもしたが、どれだけその人を好きかじゃなくて、その人がそういった意味で好きかどうかの話だから、身勝手な自分の気持ちを口に出さないようにだけ気をつけていた。

 その人の努力は実を結び、好きな人と付き合うことになったと聞いたときは「今すぐ世界が滅ばないかな」とか思ったけど、幸せそうな顔を「見てもうちょっと後で滅ばないかな」なんて考えなおしたりもした。



 そして今日、好きな人の結婚式に参加します。



 白いドレスに身を包んだその人の姿に、昨夜ネットで見たことを思い出す。

 『同性を好きになるのは思春期特有のもの』『思春期の一過的なもの』だと、寝る前はきっと勘違いだったのかもな。なんて思いながら寝たけれど————



 幸せそうなその人の表情に、自然とこちらも笑みが移るが胸の奥でツキツキと何かが痛みを主張する。その痛みの正体はわかっている。


 好きな人のこれからの人生への祝福と、学生の時に大切にできなかった気持ちとお別れをするために、盛大な拍手を送る。



 ——あぁ、手がジンジン痛いなぁ。





お読みいただきありがとうございました。

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