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1話

 大学1年生の夏、僕は宝くじに当選した。


 1億円、とてつもない金額だ。


 一方で中途半端な大金であることにも気づいた。


 一生遊んで暮らせるお金ではないけど、使い切ってしまうには大きすぎる金額。


 いろいろ考えた結果、貯蓄に落ち着いたのだが・・・


 1千万円は思い切ってなにかに使ってしまおうとリュックに入れて持ち歩いていた。


 それからしばらくして・・・


 あれやこれやとあって、賢者を名乗る老人に1千万円を渡して、異世界に転移できる指輪を買ったのである。


 そして、初めての異世界転移から1月後、僕は平和騎士団の支部に来ていた。


 平和騎士、人々の平和を守るために設立された組織で、街道の警備や危険な魔物の退治を担う組織だ。


 僕はその支部に求職に来ていた。


 異世界に来て1ヶ月、長いようで短かった。


 さまざまな料理を食べ、いろいろな店を回った。


 しかし、僕は気づいてしまったのだ。


 『働かなければならないことに』


 だって、異世界でお金のことなんて考えないじゃん・・・


 地球から持ち込んだ換金用の金貨などは残っているが、地球の物資を異世界で現金に変えるのには注意が必要だった。


 貴金属の細工ひとつとっても技術水準が違うため、出所を誤魔化すのも大変なのだ。


 まさか異世界に来てまで働くことになるとは・・・


 裁量の大きな仕事、休みが自由に取れる平和騎士は、長期の仕事ができない僕にとって天職に思えた。


 レンガ造の建物の中に入り、受付に並ぶ。


「ご依頼ですか?」


「いえ、入団希望です」


 人好きのする微笑みを絶やさない受付嬢に要件を伝える。


「でしたらあちらでこの書類に記入のうえ、終わりましたらご提出ください」


 鎧姿の美女や腰の左右に剣を佩いた男の脇を抜け、テーブルにたどり着いた僕は、備え付けの羽ペンで書類に必要事項を記す。


 文字は自称賢者の爺さんに習ったから少しは書けるのだ。


 僕は書類を提出し、騎士団の支部を後にすると、宿屋へ向かった。


「明日、入団試験を受けられるようだ」


 宿を取ると、その宿に併設した酒場へ向かう。


 RPGなどでよく見る造りだが、確かに酒場を営業すれば宿泊客への夜間対応もできるし理にかなっている。


 問題は人手だな・・・


「おにーさん、噂の人?」


「ん?」


 物思いに耽っていると声をかけられた。


 栗色の短髪の女の子だ。


 この宿屋の主人の娘のようだ。


「この街の宿屋を転々としている黒髪の男の子がいるって噂だよ」


 気分転換と異世界偵察を兼ねて様々な宿を満喫していただけなのだが・・・


 この世界では仮屋暮らしの人は集合住宅に住むため、一ヶ月も宿に泊まっていると目立つのだろう。


「そうだね。それは僕のことだと思う」


「ただ、男の子はやめてくれないか?」


「だって私と大して変わらないでしょ?」


 子供でしょ、と返す彼女。


 西洋系の青い瞳が楽しげに笑う。


「十八なんだ、大人扱いしてもいいじゃないか・・・」


「うそ、歳上?」


 聞けば彼女、今年で15歳のようだ。


 日本人の年齢もわからないのに、異世界人の年齢なんてわかるわけない。


 そうは言っても予想より若かった。


「ま、まぁ。若いよね。おにーさん、ベルードへは仕事で?」


「あぁ、職探しに来た」


「へぇ、おにーさんツイてるね。伯爵様がワイバーンに壊された小麦橋の復旧に人足を募集してるって!」


 計算の仕事もたくさんあるから事務の仕事もあるみたい、と看板娘。


 今僕の筋肉を見たろ・・・


 この辺りを治る貴族の領都がこの街、ベルードである。


 ちなみに統治者は伯爵で、公的にはベルード伯爵と呼ばれている。

 聞いた話では領都の名前が、領主の名前になるようだ。


「いや、僕は平和騎士になろうと思うんだ」


 僕は腰に差したショートソードを軽く叩く。


「へぇ、変な旅人さんだと思っていたけど立派なのね」


 護身用に販売されているもので、他の刀剣よりも安かったが、それでも痛い出費であった。


 しかし、男の子は剣が好きなのだ。


 ロングソードが良かったが、長剣は慣れてないと抜くのに時間がかかるので、つーかこれで充分だ。


 さて、明日の試験のためにそろそろ寝ようかな。


「僕はそろそろ寝るよ」


「ところでお嬢さん、お名前は?」


「お嬢さんじゃないわ、レディのカルナよ」

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