おすそわけ
「あの……もし良かったら。これ、作りすぎちゃって……」
「えっ! いいんですか? ありがとうございます!」
最近隣の部屋に引っ越してきた佐藤さん。正直、かなりタイプなので仲良くなりたいと思っていたが、まさかあちらから手料理をおすそわけをしてもらえるなんて。
受け取った小さな鍋の中からはほんのりといい香り……いや……なんだか結構生臭い……。ひょっとしてあまり料理が得意ではないのだろうか。でも、苦手な料理を懸命に練習する佐藤さんも素敵だ。本当は僕のためだったり、なんて妄想するのは調子に乗りすぎか。
たとえ失敗作でも、絶対に完食するぞと意気込んで蓋を開けると、先程までとは比べ物にならないくらい強烈な異臭が部屋中に立ち込めた……これは一体なんなんだ?
鍋の中には肉のようなものがぎっしり詰まっている。今、一瞬ピクッと動いた気がした。見間違い……だよな。こんな気味の悪い見た目で、吐き気がするほど臭いのに、何故か不思議と食欲が刺激される。僕が知らないだけで、ドリアンやシュールストレミングのような珍味なのかもしれない。
試しに箸でつついてみると、よく煮こんであるらしくホロホロとほぐれていく。とりあえずほんの少しだけ口に運ぶ。舌先が触れた瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けた。こんな美味いものがこの世にあったのか! すぐに箸が止まらなくなった。噛めば噛むほど溢れ出る肉汁。今まで食べたどんな高級肉より遥かに美味だ。
もう箸なんて使っていられるか。両手で肉を掴みそのままかぶりつく。あああ、うまい。うますぎる。うまいぞ。うまい。うまい。うまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまいうまい
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一時間後。部屋の中には巨大な肉塊が転がっていた。時々ぴくぴくと小刻みに痙攣している。どこからともなく部屋に入ってきた佐藤は、その肉塊を見て満足そうに微笑み、独り言を呟いた。
「また作りすぎちゃった。早く誰かにお裾分けしなきゃ」