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メイド喫茶の一流シェフ  作者: 月夜ノ歌
7/9

一流は、二流に甘んじる


卵の扱い方


これは、人間関係に例えられる


世の中の現象、特にスポーツなんかは 人生のあらゆる場面で例えられるが

”料理”も その中の一角であろう。


とても、馴染み深い料理の数々、タマゴは人類にとって欠かせない存在だが

ふとした弾みで、簡単にヒビが入り、壊れてしまう…




「それでは、こちらで如何でしょうか?」


上等な生地のメイド服に身を包んだ、黒ギャルメイドの小春ちゃんが出て来た



うむ…、悪くない


生地には高級感があり、古き善き伝統を感じるデザイン

かといって古過ぎず、動きやすさも計算されている。


何より、”黒”この色が良い…


一口に黒、といっても様々な色がある

布としてみれば、その違いは無限である。


メイド服だから黒でなければならない、という事もないだろうが

やはり、黒 この引き締めこそが私の店には重要だと感じた


「はー…すげーな…なんかちょっと気が引き締まるぜ…」


コハルさんも気に入ってる様子だ


人間とは単純なモノである、彼女が という意味ではない


制服やスーツを着れば、皆ピシッと背筋が伸びる気持ちになる経験をしていることであろう

それくらい、人の意識 心は服で作用される

料理が人生に彩を増やすのと、ここは近いポイントだ。


警察官の制服を身に付ければ、正義感のようなモノが湧き上がり、水着になれば開放的なる


シンプル故に、その職場の制服は働く者の意識さえ向上させる効果がある。

スピリチュアルでもなく、科学的にも証明された話だ


よし、決まりだ、これを基本の制服にしよう



ここは、池袋のとある高級コスプレ専門店

意識が世間より、1ランク高い者達が集まる場所だとネットの説明には書かれていた。


評価も高かったが、なかなか良い店に出逢えたモノだ


「会計をお願いします」


「こちら、一点で30万円になります」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





ん?

聞き間違え……じゃないな

確かに店員さんは30万円だとハッキリ言った

見せられている電卓にもその数字が並んでいる。


「お、おい…大丈夫なのかよ…いくらなんでも…」


小春氏も心配している

支払いで女性に不安な顔をされるとは、日本男児、しかもフランスに滞在していた者として

どうなんだ!?

いや、そこはジェンダー的にも今は関係ないはずだ

支払いがなんだというんだ…!


というような、現実逃避の思考をグルグルさせても

電卓の0は一向に減ってくれたりはしなかった



「ふんふ~ん♪」


こはるさんは、大分上機嫌だ

鼻歌まで歌っているじゃないか


私は、敗北した


簡単にいえば、メイド服のグレードを落としたのである

なんという屈辱…


より良いモノが目の前にあるのに、サイフの力不足で

結局は、3万円代のメイド服にしてしまった

パーティーグッズ大安売りメイドコスよりは、もちろん数段マシだが

ついこの間まで、一流料理店で最高のモノを揃えるのに

予算はいくらかけても良い、というような環境にいた私にとって

この落差、高低差で胃が痛くなった


1ランクの意識の高さ? 2段階くらい上だった


これだから、ネットの情報は困るんだ

情報が溢れすぎてて、確実な情報を掬い取れない!!


「んな、暗い顔すんなよ これで充分だって☆」


「すみません…店が軌道に乗りましたら、いずれあのメイド服を制服にしますから」


一流が二流に甘んじる、この上ない 情けない出来事だ…



「これも、可愛いじゃん しかもこの値段の服だってアタシは普段着ねえよ …ありがとな」


言っとくが、これは貸しだ あたしが稼いで 自分の分は自分で払う


彼女はそう付け加えた


制服の代金なのに、彼女のプライドの高さはなかなかだ

一流のプライド高い同僚達に囲まれていた自分としては、どこか心地よい


バイトでもするか…



「ちょうど昼じゃん、どっかで食べてこーぜ」



「………‥‥‥‥‥‥‥…‥‥…なんだって?」




し、しまったーーーー!?

この問題があったかーーーーーーーーー!!!!!



そもそも冬美さんに、その辺の段取りを任せて良いだろうと考えていた


これだけは、これだけはしたくなかった…


私は、私は…



食事するとこ選びに妥協出来ないッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



「な、なんだよ、怖い顔して…」


駄目だ、自分が料理人として 意識拗らせ人間である以上

食べる場所もこだわりたい…


もちろん、一流のレストランでないといけない

なんて言うつもりはない

私の金銭的戦闘力は

そのラインでは戦えない


しかし、日本は安くて美味いを

世界で最も追及している国だといえる


これは妥協ではない

実際、どんな店であろうと 仮に不味くても

それは私の料理哲学において全てが勉強になる。


”存在している時点で、料理という宇宙には いらないモノなど存在しないのだ。”


宗像先生もきっと そう言って下さるはずだ



「おい、まさか一流シェフのてめぇは 私となんか飯屋に入りたくないとか そういう話か?? だったら、ハッキリと…」


「そんな訳ないだろう!!!!!少し黙っていてくれッ!!!!!!!!!!」



大きい声を出し、周囲も振り返っているが

私はそれも気にする事が出来ない程、頭の中が高速回転していた

彼女には悪いが、後で謝ろう

今の私は、あの厨房で最高の食材を選ぶが如く集中している


「ん、んだよ! ったく…」


小春さんは私から少し距離を取ったところで、携帯をいじりながら立ってくれていた



和食か

洋食か

中華か

イタリアンか

インド料理か

北欧か

アジアか

南米か

欧米かっ


それとも、私の絶対的な領域である フレンチ…?

いや、しかし…


私の熟考は止まらない、これが私一人ならいくらでも悩めるのだが

今はコハル氏がいる

彼女を連れていく以上、あまり冒険も出来ない


「不味い店に連れて行かれた~」

なんて、思われたら最期

メイド服の件といい、私の一流プライドは再起不能になる


プライドはそんなにも大事だろうか? 大事である。

そのプライドが思考を生み、努力を生み、真理追及の原動力になる。


「ブツブツブツブツブツ…」



■ おいおい、目がキマっちゃってるってるよ、ヤバイって…



アイツが自分の世界に入って、まだ2分くらいだが


二人っきりの2分の沈黙、待ち時間ってやばいだろ

仲が良い訳でもないし


天才のこだわりってのを舐めたら如何な…

にしても、何がスイッチなのかも わからん


ふゆっちからも、連絡なし 何やってんだよ~



「おっ、君~ 何してんの~暇~??」


「あ?」



知らない奴、明らかにパリピなふたりが

そこに居た


ったく、サイテーなデートだ…。




『卵を割るのに、強過ぎる力はいらない』



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