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メイド喫茶の一流シェフ  作者: 月夜ノ歌
3/9

一流のオムライス、それは


   宇宙は火を創造し、火は文明と料理を構築した_。




「まず、やるべき事は…」



それは、この ”なんちゃってメイド喫茶”において無限にあるかのように思えた。


いや、実際に私の満足する厨房、料理店を構成しようと思えば

そこに終わりはなく、無限の作業、探求、努力が求められる。


極めるということは、極め続けるという事


きっとゴールは無いのだ。



元定食屋であったのであろう

厨房には、最低限の道具は揃っている


しかし、それは本当に最低限だった


いや、メイド喫茶なら最低限の道具で良いのだろう


だが、私がシェフを務めるからには それではダメだ。



「一流は道具を選ばない」が、選べるなら選びたい…


のだ。



「とりあえず、これらを買い足してください」


私は、早急に必要となる設備、道具一式をメモした紙を

オーナーではなかった女性に渡した


「えっ、あ、はい・・・でも、お金が・・・・・・」



「幾らくらい残ってるんですか? 金庫とか預金とかあるのかな?」



オーナーが持ち出して、それっきり連絡が・・・



ああ、想像をずっと超えてくる店だ


何でも、ヤバイで表現してしまう現代日本のボキャブラリーミームを危惧していたのだが


今、まさにヤバイで表現するべき事態を目の当たりにしている。



「いいです、お金は私が出しますから それで何とかしましょう」


「いいんですか!?」



良い訳がない!


が、緊急事態だ

シェフを引き受けた以上、私には責任がある


私はさっきの湯飲みを見つめた



事務所を出る、辺りにダンボールが散乱して動きづらい

掃除と整理もしないといけないな




「おい、私は認めるとは言ってないぞ」



黒ギャルメイドの小春ちゃんが、物申したいらしい


キッと睨みつけてくる その顔は怖いが美しかった。



「ただでさえ、オーナーが滅茶苦茶で みんな辞めたのに それで来たのが こんな胡散臭いコックとかさ」


聞けば、彼女以外のメイドさん達 そして厨房担当者たちもバイト含め全員辞めたらしい


薄々、そんな気はしていたが 聞くのも恐ろしかった真実を 小春ちゃんは愚痴をまじえて

流暢に語ってくれた


胃がキリキリ痛む


「コハルちゃん!でも、この人は本当にフランスで一流の…!!」


雑用担当のマネージャー、姉の友人の女性がなだめてくれている。




「一流シェフとか本当かよ? 私と歳も変わんないじゃん…それに!」



「他にメイドがいないなら、君を絶対に失う訳にはいかないというのは わかったよ」



「はっ!?/////」



その黒ギャルメイドは少し動揺した



「僕の料理を食べてくれ、それで判断してくれていい」



私は一流のシェフの自覚はある、だが接客は五流以下の自信があった。


しかも、この店はメイド喫茶だ


メイドを失う事は、そのまま死を意味する。



さっき、冷蔵庫を覗いた


さすがメイド喫茶、”オムライス”を作れる材料は揃っていた



私は目を瞑り

瞑想に入った

呼吸を整える


世界と対話し、宇宙と親和しなくてはならない



…怪しい、宗教とかではない



宇宙を、創造するのだ_。



タマゴを掴み、割る


それだけの行為を あんなにも優雅に行えるのかと


フランスの料理雑誌記者は、語っている。



ジャゥゥゥウウウウ、ジャッジャジャジャ!



米を炒める音がこだまし、鍋を置く音が完成を告げた。



皿に盛られた、まさにオムライスを その一流シェフはメイドの前に並べた



「さあ、魔法を。」



「え?」



褐色メイド娘は、あっけに取られた顔でこちらを見た



「ん? ほら、ケチャップでハートを 魔法の呪文とかあるんでしょ??」



これは、ただのオムライスだが 彼女により特別なオムライスになる。



「あ~! ハイハイ」



彼女は慌てて、ケチャップの容器を掴み魔法の詠唱を始めた


「もえ…もえ…きゅるるん、きゅる…あっ くそ やべっ」



ケチャップで描かれたそれは、明らかにハートではなかった


呪文は呪文でも、呪詛 呪いの秘文字にしか見えない記号


いや、記号の上に大量の血しぶきを浴びたような惨状になっていた…



ブボッ! ブブブブ! ッパ! 



ケチャップの容器からあまり聴きたくない系の音が鳴り響き、私のオムライスは完成した



これが私の、この店でのファースト料理である。


その思い出は急に、切ないモノとなった



咳払いをし、とりあえず食べてもらう事にした


コハルちゃんには、ケチャップの指導が必要だ。



「うわ~~~!!天才料理人の手作りオムライスなんて!感激です!!生きてて良かった!」



マネージャーさんは素直に嬉しそうな反応をしてくれた


一方、ツンツン黒ギャルメイドは不貞腐れている



「アタシは忖度なんてしねーぞ」



「先輩であり、ここのメイド長は君だ 君が認めないなら僕は去るよ」



私は黙って立ち尽くす



「まあまあ、コハルちゃん! 道具も材料も市販の私たちが普段食べてるモノと同じなんだから、そこは考慮しないと!」



フォローが入る


そのフォローが不要だと、私と私の宇宙だけは知っている…。



いただきます、二人はほぼ同時にオムライスを口に運んだ


そして…







私は家に帰って来た


それにしても、疲れた…

しんどい1日だった


「おかえりなさい、どうだった?」



母が出迎えてくれる




「就職先が決まったよ」




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