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メイド喫茶の一流シェフ  作者: 月夜ノ歌
2/9

一流はメイドを選ばない。


 『いらっしゃ~………おかえりなさいませ~ごしゅじんさま~』


入って早々、やる気のない挨拶に出迎えられる。


メイド喫茶のキラーワードさえ間違っていなかったか?



目の前にいるのは、気だるげにスマホをいじり こちらを見てもいない


”黒ギャル”であった。


90年代のギャル文化爆誕に負けず劣らずの日焼け具合

メイド服は、近くの激安大量生産大盤振る舞い系列店で買って来たのかという程 安っぽい

くすんだ、鉛色のような金髪、鋭い眼、メイクは現代感があるがマツゲはバッチリ


しかし、”美人”である。



「・・・なるほど、塩対応ギャル風褐色メイドという訳ですか 需要はありそうだ」


「あ?」


おもいっきり睨まれた、おそらく ツンデレの属性は無いのだろう

属性が多過ぎても、それはそれで供給過多である。


「こ、こはるちゃん、こちら話してた一流シェフさん!お話を聞いてくれる事になったのっ!!」


こはる…小春…何とも見た目に合わない、源氏名、メイドネームだ

しかし、そのギャップが良いのかもしれない


それに、”美人”である。


「ちっ…チース」


舌打ちされた、学生時代の自分だったら心が折れていた事だろう



私が訪れたメイド喫茶は、メイド喫茶の聖地 秋葉原にあった。


雑居過ぎる雑居ビル群に囲まれた建物の二階、しかし大通りに面しており

立地はかなり良い


以前あった店を、まともに改装もせず そのままオープンしたのだろう

メイド喫茶感は全く無かったが、定食屋としての体裁は整えていた。



奥の事務所に入り、私はさっそく 本題に入ろうとする



その前に、聡明な読者諸君は私が前回 メイド喫茶など良く知らない感を出しておきながら

メイド萌え、属性にそれなりの見識を示した事に若干引いているのではないだろうか


違うのである、断っておくが私独自の趣味ではない。


私も健康的な日本男児、アニメ、漫画、ゲームにはそれなりに触れて来た

有名どころ、王道、世の中のブームになった作品には明るいし

好きな方である。


詳しくなったのは、むしろフランスに渡ってから

フランスはご存じの方も多いだろうが、日本のアニメが すこぶる人気である。


私が初めて仲良くなったフランス人は、いわゆるアニメオタクで私より、日本文化に詳しかった

私も言語の壁に怯えながら海を渡ったモノだから、アニメを取り入れ それを武器に

コミュニケーションを試みたのである。


この件に関しては、またいつか詳しく話そう…



「お断りします。」


「まだ、何も言ってませんよ!?!?!?」


彼女は驚いている。


「オーナーさん、これはメイド喫茶なるモノに詳しくない私でもわかる

 店として、喫茶として、シェフを迎える場所として不合格です。」


出されたお茶を見つめながら、私は話した 茶柱は虚しく二本立っている。


「わ、わ、私はオーナーではありません、マネージャーというか、雑用というか…」



なんと、オーナーですらなかったのか、この女性は



「では、オーナーさんはどこに?」


「そっ、それが 随分前から連絡が付かなくて…」



終わった…、終わっている 終わった場所なのだ、ここは


店はボロボロ、メイド喫茶としての志は皆無、経営者は行方不明、エトセトラエトセトラ…


私の料理、宇宙の真実を探求する場所では明らかにない


この喫茶の唯一良いところといえば、メイドが美人な事くらいだ

ルッキズム? それがどうした!!!


私は決心を決めた、NOと言える日本人にならなくては_



「ぐひっうっく…スミマセン、無理を言ってるのはわかってるんです…、でも他にどうしようもなくて…」



ぐっ…泣かないでくれ 私の鉄の意思が揺らぐ


私は断りの言葉をさらに滑らかに、毅然にする為に、お茶に手を伸ばし、口に含んだ

湯呑も安っぽい、全くこれだから……




………!



「どうかされました? お茶…熱かったですか??」



「マネージャーさん、このお茶はあなたが…?」



「はっ、はい! 私、お茶を淹れるくらいしかマトモに出来なくて、田舎から送って貰ったお茶っ葉を使ってまして、それで~…」



「やりましょう」


私の決心はきまった。



「へ?」



「私が、このメイド喫茶のシェフ・ド・キュイジーヌとなり再建させましょう!」



これが私の黒歴史でもあり、輝かしい料理人人生の歴史の2ページ目でもあった。




 『 宇宙の創造とは、店の面構え、出す水、出す茶の時点で既に始まっている_』


宗像清之助 著 【宇宙は私の厨房にある。】より抜粋

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