【コミック③巻発売記念】番外編.スウェイとユーリア
マデレーネが戻ってきてから、アランは片時もそばを離れようとしない。もちろん仕事の際には別々になることもあるが、書類の確認などは二人で書斎にいるようにしているし、終わればすぐにマデレーネをエスコートとして食堂やくつろげる居間に向かう。
そうして、腕を組み書斎を出るアランとマデレーネを、廊下の角からひっそりと見守る人影があった。
スウェイと、ユーリアだ。
「旦那様、人が違ったようですね……」
彼女の女主人と同じ疑問を口にし、首をかしげるユーリアに、なんでもないことのようにスウェイは頷き、
「王都で後手にまわっていたのを、旦那様も気にしていらしたからな。ふたりで特訓した」
「特訓?」
「図書室にあった恋愛小説を読み込み、流行りの芝居にも行った」
「……スウェイさんとおふたりで……ですか……?」
「ああ。意外とハマっていらしたぞ」
スウェイが言うには、アランはそういった恋愛を主題とした物語を敬遠していたのだが、一度読み始めてみれば止まらなくなり、休暇の日には図書室にこもることもあったそうだ。
一度食わず嫌いの壁をとっぱらってしまえば話は早く、妻に夢中な主人は自然にマデレーネを甘やかす術を身につけてしまった。
「たしかに、自分の身におきかえればときめくものだな、あれは」
「そうですね。わたしも王都で読んでいましたし、奥様と芝居にも行きました」
真剣な顔で頷くスウェイに、ユーリアもそんなものかと納得しかけ、
「自分の身におきかえれば、ときめく……?」
スウェイの発した台詞が聞き捨てならないものであることに気づき、表情をこわばらせた。
(まさか、スウェイさん……!)
そういった相手ができたのだろうかと焦るユーリアの背が、とんと壁にぶつかった。鼻先がくっついてしまいそうなほど近くにスウェイの顔がある。
一瞬の間をおいてから、意識が現実を認識した。
「!?」
「ときめかないか? これも芝居で人気のシーンだが」
「……はえっ!?」
「ところでその言葉遣いはどうしたんだ」
「えっと……」
かれこれ半年も王都で暮らし、後半の三か月は貴族たちに領地発展のための計画を説明するマデレーネに付き従っていた。気をつければ訛りは出なくなっている。
侍女として成長したことを示せば、スウェイに褒めてもらえるかと思った。……とは言えずに、ユーリアはおそるおそるスウェイを見上げた。
沈黙するユーリアを、スウェイは険しい顔つきになって覗き込む。
「王都のアリナス宝飾店に、レオナード・ジョルジュという男がいただろう」
「レオナードさんを知っていらっしゃるのですか?」
「旦那様と奥様の式をしたあの日、君をじーっと見ていた。……あの男のために、言葉を変えたのか?」
「ん、んえええ?」
話についていけずに、ユーリアはすっとんきょうな声をあげる。
「どうすてレオナードさんが出てくるんですだ?」
動揺のあまり訛りが戻った。それを否定とみなし、スウェイの表情は和らいだ。
けれども、対するユーリアの顔は、どんどん真っ赤になっていく。
「ス、スウェイさん……それって、もすかすて……」
「ユーリア」
壁に背をもたれたままずるずると崩れ落ちていくユーリアの腕を引いて立たせ、スウェイはその耳元に唇を寄せた。
囁いた愛の言葉が主人よりもときめくものであったかどうかは、ユーリアだけが知っている。
2/26(水)にコミカライズ3巻が発売です。
電子のほうは本日2/22より配信開始されておりますので電子派の方はお使いの書店様でぜひご覧ください~!
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本作のコミカライズは3巻にて完結になります。
色々と難しいストーリーをまとめあげてくださった村田モト先生には感謝しかございません…!!
アランとマデレーネの波乱の結婚生活、どうぞ結末を見届けてください♪





