【コミカライズ開始!】番外編.あたたかくてふかふかのベッド
穏やかな春の日差しが徐々に強くなり、夏の訪れを感じ始めたころ。
サン=シュトランド城の一室では、めずらしくマデレーネの歓喜の声が響いていた。
「できたわ、アラン!」
王女という出自から、マデレーネの立ち居振る舞いはいつも優雅だ。声を荒らげたり、感情をそのまま表に出したりということは少ない。
それが、今日はキラキラと目を輝かせ、彼女にしては大きな声で、アランのいる部屋に飛び込んできた。
「できた?」
「ええ、羊さんのふかふかのベッドが!」
本を読んでいたアランの手をとり、マデレーネは声を弾ませる。
「ああ、ついに」
それはよろこびもひとしおだろうと、アランも頷いた。
『あたたかくてふかふかの羊さんたちのベッド』はマデレーネの長年の夢であったらしい。
夢を叶えるべく、嫁いできたばかりのマデレーネはユーリアの出身地ノルド村で羊を飼い始めた。その後、アランの計らいで、城の一区画にも羊のための牧草地を作った。
王都から戻り、穏やかな暮らしを手にしたマデレーネは、夢の実現に向けて動き出した。
ただし、マデレーネの夢はすんなりと叶ったわけではない。
以前にアランが忠告したとおり、見た目に反して羊は凶暴だ。村や城の羊はたっぷりと餌をもらったおかげで人間にもよく慣れ、誰彼構わず頭突きを繰り返すというわけではないものの、
「一度、餌をやろうとしたユーリアが、羊さんたちに取り囲まれて……ぎゅうぎゅう押されて背に乗りあげて、そのまま運ばれて行ってしまったの……」
まだ冬の寒さを残す頃、マデレーネが青ざめながらそう語っていた。
思いがけずユーリアはマデレーネの思う『羊ベッド』を体験したわけだが、ユーリア曰く、
「羊にくっついたまんまの毛はゴワゴワで、外は寒いし、奥様のおっしゃるふかふかのベッドにはなんねえと思いますだ……」
……とのことで、マデレーネの野望は計画の変更を余儀なくされた。
冬のふかふかあったかベッドは諦め、春の毛刈りの時期まで待ち、刈った羊毛を選別し、洗いあげて土や脂を落とし、ふっくらと乾かして……と、手順を重ねたのだった。
本を置くと、アランはマデレーネについて部屋を出た。
一階の、玄関ホールからほど近い応接間の一つにマデレーネはアランを案内する。
ドアを開けると、真っ白な羊毛がこんもりと積みあがっていた。
「ほう」
アランも思わず声をあげる。
領主であり交易に長けたアランの目には、それらの羊毛はふかふかのベッドというより上等な毛織物の原材料として映る。
初めての試みにもかかわらず、マデレーネの示した羊毛は、白く、細くしなやかだ。生地に織ったときにも軽くて熱を通しにくい。
常春の国ヴァルデローズでは防寒具はあまり必要ないが、交易の範囲を北の隣国に広げることを考えれば上質なウールは武器になる。
「さあ、アラン」
マデレーネが手をさしだした。
アランがしっかりと握る手を支えに、マデレーネは『ふかふかのベッド』に横たわる。
「柔らかくて、気持ちがいいわ。思っていたとおり。みんなが大切に羊を世話してくれたからね」
うっとりと目を細めるマデレーネは優雅で気品にあふれていて、羊の毛にまみれている状況とのギャップにアランは思わず笑ってしまった。
「どうしたの?」
「いや」
不思議そうにアランを見るマデレーネの隣に自分も身を横たえ、羊毛をひとふさ持ちあげる。最初の印象どおり、数年後にはノシュタット領の新たな産業になるであろう出来栄えだ。
輝くような金髪に羊の毛をくっつけて首をかしげているマデレーネへ、アランはまたほほえみを浮かべた。
マデレーネにまとわりつく白い羊毛は、天使の羽のようにも見える。
なにをするにも一生懸命で、優秀で、なのにときどきとぼけていてかわいらしくて。
「あなたという人はまったく……」
どこまで俺を虜にしたら気が済むのか、という呟きは、ふかふかのベッドに吸い込まれた。
いつか書こうと思っていた羊さんベッドの進捗、本編に入らなかったので番外編で書きました…!
★お知らせ★
『売られた王女なのに新婚生活が幸せです』がコミカライズがアプリ「マンガがうがう」で連載中です。
本日1/4より、ブラウザでも読めるようになりました。
作画は村田モト先生にご担当いただいています。
マデレーネがめちゃめちゃかわいいのでぜひ見てください…!
↓↓ページ下部↓↓のリンクから作品紹介ページに飛べますのでよろしくお願いします!
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また、コミックス1巻が2/24(土)に発売予定だそうです…!早い!?すごい!
(23かと思ってたのですが24のようです!)
こちらも発売間近になりましたら活動報告やTwitterで詳細お知らせできればと思います☆





