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エピローグ.新婚生活が幸せです(前編)

 冷たい北風に首をすくめて、ユーリアは馬車に駆けよると開いた窓を閉めようと手をのばした。けれども馬車の窓からひょこりと覗いた顔がユーリアの手を止める。

 リボンでまとめた金髪を揺らし、窓から身を乗りだすように景色を眺めているのは、彼女の女主人。

 

「寒くはねえですか、マデレーネ奥様」

「ええ。それよりも楽しみで、じっとしていられないの」

 

 子どものようなことを言って、マデレーネは目を輝かせる。

 マデレーネを王都へ残し、アランが領地に戻ってから、もう三か月にもなる。そのあいだに冬がやってきた。

 

 マデレーネ付きの侍女頭がそばを離れるわけにはいかないと、ユーリアだけは王都に残った。

 王都の冬は暖かかったのだとユーリアはしみじみ思った。

 北へ行くに連れて寒さが肌に染みる。顔を引っ込めようとしないマデレーネの鼻の先も赤らんで冷たそうだ。

 

「山が見えたわ。もうすぐサン=シュトランド城よ」

 

 ノシュタット領の地理にすっかり詳しくなったマデレーネは、ユーリアが案内をする前から言い当ててしまう。

 そしてマデレーネの言うとおり、いかめしい山城の尖塔が見えてきた。

 

「……!」

 

 マデレーネか息を呑む気配がした。どうしたのかと尋ねる前に、ユーリアの目にも、毛織りの襟巻をした馬上の人物がはっきりと見える。

 手綱を持つ手は真新しい革の手袋をつけている。

 

「アラン!」

 

 馬車の速度がゆるむやいなや、マデレーネは扉を開けて飛びだした。

 

「奥様!?」

 

 お転婆な姫だった、というのは第二王子カイルがいつぞやの夜にユーリアへ話してくれたことだけれど、王宮で暮らしたマデレーネはそのころの快活さをとり戻したらしい。

 驚きの行動に、アランも慌てて馬からおりた――と、見る間にふたりは抱きあって、アランは自分のコートの中にマデレーネを閉じ込めた。

 

「上着もなしに飛びだしてきて」

「だってアランが見えたんだもの」

 

 悪びれないマデレーネにアランは苦笑した。

 まだ到着の連絡も受けていないのにいてもたってもいられなくなって城を飛びだしてきてしまった自分も似たようなものなのだ。

 

「――おかえり、マデレーネ」

「ただいま、アラン」

「さあ、新婚生活の続きを」

 

 背を屈めると、ふんわりと笑うマデレーネの唇に、アランは約束どおりのキスを落とした。

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