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43.帰邸

 ノシュタット邸へ戻ってきたアランとマデレーネを出迎えたのは、目に涙をたたえたスウェイと、目に涙をたたえたユーリアだった。

 

「旦那様、お役に立てたこと、このスウェイ嬉しく思います」

「奥様!! 奥様~~~~っ!! 無事に戻っていらしてよかったですだよ」

「ユーリアに会えなくて寂しかったわ」

「おらも、奥様はどうしていらっしゃるんかと心配(しんぺえ)で心配で……」

 

 抱きあうマデレーネとユーリアをスウェイが羨ましそうに見ているのを、アランは気づかないふりをした。

 

「みんなにはね、色々と話さなければならないことがあるのだけど……」

 

 言葉を濁すマデレーネに、ユーリアが眉を寄せる。マデレーネが言葉を濁すほど言いづらいことなのだろうと予想がついたからだ。

 

「まず、このたびの披露目の晩餐会は延期となった」

 

 腕組みをしながらアランが告げる。

 

 フォルシウス公爵が密輸の罪で引き立てられたのは三日前のことだ。

 翌日、正式にイエルハルトを王太子から退ける旨の勅命が国王陛下から発された。

 ただし、第一王子の称号は残され、カトリーナもイエルハルトの婚約者に留まる。

 

 新たな王太子には第二王子カイルが指名され、カイルはダルグレン侯爵ハーシェルを宰相に任命した。

 中央貴族たちは、このところ王都を賑わせていた政変がついに終わったことを感じとっただろう。

 

 ノシュタット家の晩餐会に必要な品々をダグマル商会からとりよせることは難しく、また王宮のほうでもカイルの立太子を祝う式典をせねばならないということで、目もまわる忙しさとなることは確実だった。

 

「そんなわけで、中止ではないが延期だ。王都が落ち着いてからまた計画すればいい」

「承知いたしました」

 

 屋敷の使用人を代表して、ロブが応えた。

 屋敷や庭の改装までして準備を進めていただけに残念ではあるが、この数週間で王族や貴族を立て続けに出迎えた経験を得た今は、ほっとする気持ちもある。

 

「それから――これが最後の話になるが」

 

 こほん、とアランは咳払いをした。マデレーネも目を泳がせている。

 これはなにやら重大発表がくるに違いないと使用人たちは身構えた。が、その威力は想像よりもはるかに大きなもので。

 

「披露目の晩餐会が延期となったから、俺たちがここにいる理由はない。ノシュタット領に戻る。――ただし、マデレーネは王宮に残る」

 

「「「ええええええっっっ!?!?」」」

 

 屋敷を揺るがすほどの叫びに、アランは閉口し、マデレーネは眉をさげた。

 

「ど、どどどどうしてですだかっ!?」

「王家の復興のためにはマデレーネが欠かせない。それはわかるな?」

 

 手配しなおした王宮の人員を教育するにしろ、直轄領の経営方針を決めるにしろ、マデレーネ以上の適任者はいない。

 申し訳なさそうにしながらも、カイルがマデレーネを留めおきたいと言いだしたのは当然のことだった。

 

「へえ……でも、それなら旦那様が王都にいらっしゃればええのではねえですか?」

「逆だ。俺はあまり中央に関わらないほうがいい」

 

 今回の件に、アランはマデレーネを通じて関わりすぎている。北部をまとめあげ、中央への進出を狙っているという噂は、図らずも本当のことになってしまった。

 

「面倒なことを言われる前に領地に戻り、中央にはしばらく関わらない」

 

 これが披露目の晩餐会を延期することにした、もうひとつの理由でもあった。

 

「そんなあ……」

 

 がっくりと肩を落とすユーリアの隣で、スウェイもうなだれている。

 スウェイの気落ちっぷりに、アランはめずらしいものを見ている気分になった。

 

(表には出してこなかったが、スウェイもマデレーネを慕っているのだな)

 

 目を細めるアランの隣で、ユーリアだけは執事の真意に気づいていた。

 

(スウェイさん、旦那様が奥様にメロメロなところを見たかったんですだ……!)

 

 せっせとユーリアが手紙に書いて送っていた王都事情は、スウェイが北部領主たちに協力を願うときにも役に立った。しかしそれ以上にスウェイの期待を膨らませていたのだ。

 

「あの、スウェイさん」

 

 執事服の袖を引き、ユーリアはこっそりと耳元で囁いた。

 

「旦那様と奥様は、指輪を受けとる用事があるんですだ。おらの代わりに行きますか?」

「行かせてもらう」

 

 途端、スウェイの首がぐるんとまわってユーリアを向いた。

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