4.新婚以前の問題
アランとマデレーネがゴード領を発つ朝。
やってきたときとはうってかわった様子のふたりに、ゴード男爵は「ふむ……?」とひとりごちた。
アランは少々やつれたようにも見え、領地をあれだけの勢いで発展させている男とは思えない。しかしそれ以上に、マデレーネもまた、晩餐会で堂々たる態度を見せた王女とは思えなかった。
アランがマデレーネをエスコートしようと腕をさしだすのだが、動作は妙にぎこちなく、おまけになんともなかったはずのマデレーネまで頬を赤らめたかと思うと腕をとる手がふるえている。
そして、互いに相手が気になってちらりと盗み見るのだが、その視線が交わったとたんにふいっと顔をそむけてしまう。
(これは――)
はたから見ると問題が生じているようなやりとりも、このふたりに限っていえば真実は逆だろう。
(案外おれは、ナイスアシストを決めたのかもしれんぞ)
ゴード男爵は胸中でうなずいた。そしてそれは当たっていた。
互いの視線を避け合っていたふたりは、ゴードへ向き合うといたって普通の態度になる。
「お招きいただき、楽しくすごさせていただきありがとうございました。ゴード男爵」
「次に会うときは男爵ではなくなっているでしょう。それでも親しくしていただけますかな」
「もちろん」
ゴードとアランは握手をかわした。力強く握られる手にアランの誠心が感じとれる。
「なにからなにまで、ありがとうございました」
マデレーネも深々と頭をさげる。
「いずれ、ノシュタットにもお越しください」
「ええ、またぜひ」
並ぶアランとマデレーネの立ち姿はおだやかで、にこやかで、それでいて堂々としている。
(多少の動揺があったとしても、この夫妻なら大丈夫に違いない)
そうゴードは確信した。
……と、思いきや、どうやら馬車へのエスコートをめぐってあたふたとしているらしい。互いに身を引きあい、慌てて近寄れば距離を詰めすぎ、動けなくなっている。
(……大丈夫だろうか?)
自分のアシストは本当にナイスだったのか、考えこんでしまうゴード男爵であった。





