最終試験の舞踏会
1週間後夫の案により2人のさくらは鹿鳴館で行われる舞踏会に宮家の遠縁の娘として出席することになりました。
舞踏会にはヨーロッパ諸国からいらした貴族や外交官も出席されます。そこで夫は2人に接待役をお願いしたのです。イギリスの修道院の中の女学校で学んでたなら英語は勿論ダンスや紅茶の入れ方もできるはずです。
リボンの少女は濃いピンクに白いフリルがついたドレスで出席することにしました。
「さあこれで支度ができましたよ。桃子お嬢様」
リボンの少女はメイドに着付けてもらい、桃子という偽名をもらいます。
一方簪の少女は髪は簪ではなくティアラで一纏めにして青いドレスに着替えさせてもらいました。彼女は鏡の前で口紅を塗ります。
「いつもより一段と大人っぽいですね。雪子お嬢様」
簪の少女には雪子という偽名を渡しました。
鹿鳴館にはすでに多数のお客様がいらしてました。日本からは勿論海外はヨーロッパ諸国アメリカから政治家や宮家と縁のある公爵家、日本と貿易を考えている外資系の企業の上役の方もいらしてました。
ヨーロッパでは表立った場所には女性を同伴するのが常です。わたくしも夫と共に来客へ挨拶をしながら娘達の様子をうかがっていました。
桃子も雪子も他の令嬢と同じく紳士とダンスを楽しんでいました。
「Miss, may I ask you to dance with me?」
彼はアメリカの企業のご子息でした。
「My pleasure, sir.」
雪子は子息の手を取り踊り出します。
ダンスはなかなかの物ですがどこか表情が強張っています。
桃子の方はというとイギリスから来た外交官の方と躍りながらお話をしています。
「How is your stay in Japan?」
「I arrived 2 days ago. I'm impressed with everything I see.」
「Really? have you visited Imperial theater yet? You'll hear a wonderful song of ''Miura Tamaki''.」
英語も流暢だし今話題の歌手三浦環を勧めるなんて流行にも敏感なのね。
ふと会場を見渡すが雪子の姿がありません。先ほどまで踊っていたのに。
「奥様、雪子お嬢様なら先ほどお庭の方へ行かれましたよ。」
執事に教えられわたくしは庭園へと足を運びました。
「Here is a Japanese style garden. Please enjoy yourself.」
「Thankyou.」
隣にいたのは先ほど雪子と踊っていたのはアメリカからのご子息でした。
「雪子」
「お母様」
「こちらにいたのね。」
雪子は先ほどのご子息が日本庭園を見たいというので案内したそうです。
「Mr.Wingle, this is my mother.」
「Nice to meet you.」
「Nice to meet you, too.」
ウィングル氏はわたくしの手を取り甲に口付けます。これが西洋の挨拶なのです。
「Yukiko, thankyou for guiding me. We hope to meet again later.」
ウィングル氏はお礼を言うと会場へ戻っていきました。
わたくしは雪子と2人きりになりました。
雪子は疲れていたようなのでテラスの椅子に座らせました。
「お母様、ごめんなさい。私まだ殿方に馴れていなくて。」
馴れない場所で緊張していたのでしょう。それも無理はありません。修道院で女性ばかりで過ごし突然見知らぬ土地に来て男性と接したのですから。
雪子と2人で過ごすのは初めてでした。
わたくしは再び雪子を見ます。白い肌赤い唇そして
わたくしは肝心なことを見落としていました。
「さくら、」
「お母様私は」
「いいえ、貴女がわたくしの娘さくらよ。」
次回最終回です。