漫才「完璧な漫才」
A「はいどーも」
B「見せてあげるよ。完璧な漫才ってやつを」
A「うわ。いきなりなんなの」
B「ついにできたんです。完璧な漫才のネタが」
A「それは何よりなんだけど、俺は何も聞かされてないよ」
B「今さっき思いついたからね」
A「じゃあお客さんには見せられないよね。まったくネタ合わせしてないんだから」
B「大丈夫」
A「何を持ってして大丈夫なのよ」
B「やるのは僕らじゃないから」
A「マジかよ。じゃあ誰がやるの?」
B「概念」
A「え?」
B「概念」
A「ごめん。もう一度いい?」
B「だから、概念」
A「あの概念?」
B「多分その概念」
A「大至急説明してくんない?」
B「五七五でいい?」
A「まあ、それで説明できるならば」
B「流石にそれは無理だよ」
A「じゃあ五七五とか言わないでもらえる?」
B「つい」
A「ついじゃなくて。普通に説明してよ」
B「分かった。Aみたいな髪型の人間にも分かるように説明するね」
A「髪型で何が分かるって言うんだ」
B「全て分かるよ」
A「マジで?」
B「昨日の夜ご飯はカレーだったでしょ?」
A「いいや。焼肉だったけど」
B「ね?」
A「ね?だと」
B「星座はしし座でしょ?」
A「いや、いて座」
B「A型?」
A「O型」
B「右利き?」
A「左利き」
B「ね?」
A「ね?じゃないよ。全部外してんじゃん。血液型からは明らかに当てにいって外してるからね」
B「A、カツラじゃないよね?」
A「俺の頭髪を疑う前におのれの能力を疑え。ていうか、俺のこと何も知らねえのな」
B「まあ髪型なんかどうでもいいじゃん」
A「お前が言い出したんだけどね」
B「で、何だっけ?重力の正体についてだっけ?」
A「あ、そんなアカデミックなテーマで漫才してないから。概念による完璧な漫才についてだよ」
B「ああ、そうだったね」
A「まあ、それはそれでアカデミックな雰囲気あるけども」
B「お、こうなったらアカデミック-1グランプリに出場しちゃう?」
A「うるせえ。ないよそんなの。いいから説明してくんない?」
B「分かったよ。えーと、そもそも笑いのツボなんて人それぞれ違うでしょ?」
A「まあ、それは確かにそうかも」
B「だから、まあ、そういうことだよ」
A「どういうことだよ」
B「まだ分かんないの?」
A「1ミリも分かんないね」
B「やれやれ」
A「え?俺が悪いの?」
B「Aが悪いわけではないよ。悪いのは、ここにいるお客さんたちだよ」
A「なんでだよ。お客さんは関係ないでしょ」
B「お客さんがAを甘やかすからですよ」
A「甘やかされたという覚えはないんだけど」
B「だいたいの末っ子はそう言うんだよ」
A「いや長男なんだけど。さっきから俺のパーソナルな情報、全部外すじゃん」
B「じゃあ、もっと噛み砕いて説明するよ」
A「うん、頼む」
B「人それぞれツボが違うわけだから、要するに、完璧な漫才を目指すなら、1人ひとりに合わせたネタが必要になると思うんだ」
A「なるほどね」
B「もっと言えば、自分が面白いことは自分がいちばん分かってるもんだよね」
A「まあ、そうなのかなぁ」
B「だから、漫才という概念だけを舞台上に置いて」
A「ん?」
B「お客さんにはそれぞれ好きな漫才を想像してもらって、各々がそれを舞台上に勝手に投影するの」
A「んー?」
B「これこそが完璧な漫才」
A「あらまあ、だよ」
B「もちろんリアリティを出すために出囃子はちゃんとかけるよ」
A「何がもちろんなのか」
B「そうじゃないと漫才じゃないからね」
A「もう充分漫才じゃねえよ」
B「心外だな」
A「いやもう、解散したいんだけど」
B「なんでよ」
A「えーと、めちゃくちゃオブラートに包んで言うなら、方向性の違いかな」
B「そんなざっくり」
A「いったん。いったん解散させて。また大丈夫になったら組み直そう。マジでマジで」
B「いやそんな怯えないでよ。目覚めなさい」
A「あ、もう本格的にそういう人にしか見えない」
B「まあ安心して。嘘だから」
A「嘘?」
B「うん」
A「どこが?」
B「髪型で全て分かるっていう」
A「そこかい。え、完璧な漫才がうんぬんっていうのは?」
B「あ、それは本心」
A「やっぱ解散しまーす」