モ○ハンやっててよかったぜ
今回、佐渡ヶ島タワーにやって来た目的の一つであるモンスターとの接触と討伐。元々の予定ではあったが、それはまったく思い掛けないタイミングで果たす事になってしまった。本来なら目撃者は出さずに終わる予定だったんだが……俺がその目撃者の方に向かって歩いているとイヤホンマイクからPDの電子音声が響いた。
『お疲れ様でした。身体の調子は?』
「ああ、やっぱりあちこち痛いな……運動不足を実感してる」
『レベル2まで引き上げたエネルギーの転換増幅率をレベル1へ落とします』
「OK、そのつもりで動くようにする。肝心のモンスターを形成してたエネルギーリソースの回収は?」
『そちらは問題なく終わっています。端末に数値化したエネルギーリソースを表示してますので調律は後ほど……』
「分かった。そろそろ俺からの会話は切るぞ」
『分かりました』
俺は、丘の中腹辺りにヘタリこんで呆然としている娘を改めて見た。女のコの年齢はいまいち分からないがどう見ても成人してる様には見えない。
「よお、災難だったな。立てるか?」
俺が話掛けると、呆然としていた娘はハッとした様子で、
「……助けて下さって……ありがとう……ございます」
まだ息が整っていなかったのか切れ切れの言葉で礼を言って来た。
「気にすんな。見たとこ身体は無事そうだが……立てるか?」
「大丈夫です……けど、少しだけ……休ませて下さい」
「ああ、とりあえずゆっくり休めよ。俺は車を取って来てアレの解体をしてるから歩ける様になったらこっちに来な」
「はい、ありがとう……ございます」
こんな所で、しかも車も無しに死にかけてたなんて“よほどの事情があった”のだろうが……なにしろこちらにも予定という物がある。とりあえずは無事の様なので、俺は自分の予定を優先することにしてそのまま丘の上の愛車へ向かった。十分に離れて、独り言を聞かれない所まで来た俺は小声でイヤホンマイクに向かって声を掛けた。
「一応、予定では丘の上にキャンプを張る事になってたが今からアイツを解体して間に合うか?」
『今回はあくまでも訓練の一環です。協会の指定する証明部位以外は解体出来る範囲で構わないでしょう』
俺は軽トラを慎重に丘の上から下ろして、さっき仕留めたアーマーバッファローの側に駐車した。
改めて目の前に横たわる巨大な生き物を見る。これ……解体も一苦労だな。俺はまず荷台の幌の中からこれまた愛用のチェーンソーとゴーグル付きのマスクを取り出した。
こいつは流行りのバッテリタイプではなくハスクバーナ製のエンジン動力タイプだ。型は多少古いが今でも山林の管理に使っているバリバリの現役で、当然メンテナンスもしっかりして来た。
「さて、こいつでなんとかなりゃぁいいんだが……」
俺はエンジンのスタータグリップを握ると勢いよく引っ張った。弾けるような排気音を唸らせてエンジンが目覚める。軽くスロットルをあおると、今回の為に奮発して新しい刃に交換したソーチェーンが勢いよく回転していく。
俺はキックバックを喰らわない様に慎重にチェーンソーを構えると横たわっているアーマーバッファローのツノの根本に慎重に当てた。
ーギョギョョギギギギギッッッー
なんと……チェーンソーを当てたアーマーバッファローのツノから強烈な擦過音と火花が噴き上がった。俺はキックバックを喰らわない様に慎重に刃を当てていたが一旦チェーンソーを引いてエンジンを止める。今までチェーンソーを当てていたツノの根本を確かめて見ると……
「………凄いな」
確かに刃は当たって削れているが……とんでもなく硬い。これじゃほんの少し削るだけでもソーチェーンの消耗が半端ない。
「改めてとんでも無い生き物だな……モ○ハンやっててよかったぜ」
『それ……関係ありますか?』
「ジョークだよ。まあ、ソーチェーンはいくつか予備も持って来てるし、なんとかツノだけでも持って帰らねぇと……タワーの破壊が目的っても赤字じゃ俺の生活がままならねぇし」
「タワーの破壊が目的??」
迂闊だった……俺は背後に立っている娘を振り返って、何か冗談を言おうとしたが……
俺を見る娘の不審そうな視線が既に何を言っても無駄だと語っていた。
「はぁ……もう大丈夫なのか?」
「ええ……おかげ様で……」
――――――――――
「そいつは結構、俺は滝沢秋人。君の名前は?」
「本間環奈です。助けて頂いてありがとうございます。あの……滝沢さんは高位エクスプローラーなんですか?」
「こうい?? ああ、高位か……エクスプローラーレベルの事か? いや、今日初めてタワーに来たルーキーだ」
娘は目を丸くして驚いた。
「信じられません……」
「と、言われてもなぁ……」
俺はさっきの失言には一切触れず話を流していく。
「まあ、大丈夫なら少し待っててくれよ。とりあえず出来るとこだけでも解体しないとな…日の傾く前にはここを離れてぇしな」
「あ、すいません。ここで待ってます……」
「荷台にキャンピングチェアが入ってるからさ。良かったら使いな」
「重ね重ねすいません」
とりあえず俺はチェーンソーを再始動してアーマーバッファローのツノにあてがった。
それから……耳障りな騒音を撒き散らしながら徐々に削れていくツノをなんとか二本とも切り落とした。既に太陽はかなり傾いており、これからこいつの巨体を解体するのは明らかに無理だった。
「ふう……ここまでだな。待たせてすまねぇ本間さん」
俺が振り返ると、さっきの娘は疲れているだろうに、キャンピングチェアに座ってこちらを伺っていた。
「いえ……これからどうなさるんですか?」
「本当は丘の上にキャンプを張るつもりだったんだが、流石にこれから準備するのは無理だな。とりあえず軽トラに乗りなよ。一旦フロアゲートまで戻ろう」
「私のせいですよね……本当にすいません」
俺も色んな奴にタワー向きじゃないって言われたが、この娘も全く向いてる様には見えない。
「まあ、気にすんなよ。初めてのタワーで全部予定通りに行くなんて思っちゃいないさ」
――――――――――
それから……俺と本間さんは軽トラの車内でお互いに自己紹介をした。俺は隣県の役場の職員で前々からタワーに興味があって今回体験が目的でやって来た事にしてある。
本間さんは高校を卒業したての18歳。実家の家計を助ける目的で依頼を検索していたら、声を掛けられて他のパーティに参加した事。それから接敵した途端そのパーティからはぐれた事などを説明してくれた
「そいつは災難だったな……」
「いえ、タワー内部での安全確保は完全に自己責任だとギルド規約にも明記されてますから……勿論詳細は報告しますが彼等が意図的に私を囮にしたかどうかは証明のしようがありませんし……」
「そうかもしれんが……胸くそ悪い話だ」
タワーに群がるエクスプローラー達には、そういうタチの悪い奴らもいるらしいとネットで拾った情報にもあったが……
「ありがとうございます。でもこうして助けて頂いたおかげでなんとか生きて戻れそうですし……気を取り直してもう一度一からやり直します」
なんとも健気な事を言う。俺が18歳の時なんて今考えても馬鹿なことばっかりしてたのに……
「あの……滝沢さんは今日が初めてのタワーだって言ってましたよね?……こんな事聞いても良いのか分からないんですが……なんでアーマーバッファローの所に一人で居たんですか? それにさっき言ってたタワーの破壊が目的って……」
まずい……やっぱり忘れて無かったか……
もし続きが気になるようでしたら☆☆☆☆☆とか貰えたら嬉しいですm(_ _)m