オルレアンは武門の家だ!! (改稿版)
なんの前触れも見せず、彼女の足元が突然……爆ぜた?!
『ッ!!』
彼女は黒い剣を振り上げ、足元の地面が吹き飛ぶ程の踏み込みで俺の前に迫って来る!
俺は……“感覚拡張”を使い限界まで引き伸ばされた一瞬で、『反撃は不可能』と判断した。
飛び込んで来た彼女は青眼に構えた黒い大剣を雑に振り上げて……俺は、そのまま回避に全力を傾け……かろうじてそれに成功する。
― ドゥンッ ―
振り降ろされた黒い大剣は、まるで玩具の剣の様に手元で掻き消え、半瞬前まで俺のいた地面を……抉り取った??
(何だそれ??)
自分の居た場所が剣の形に爆ぜている様を見て俺は背筋に冷たいモノが流れるのを感じた。あの大きさの金属の塊を……まるで玩具のバットの様に振り回し、足元を抉る程の脚力での踏み込み……
俺がかろうじて対応出来たのは、たまたま彼女の足元に注目していたからに過ぎない……
だが………何だこの違和感??
「おいおい……本気で殺す気か? あんた、良いとこのお嬢さんなんだろ? ちょっとはしたないんじゃねぇか?」
「オルレアンは武門の家だ!!」
彼女の返答はにべもない……
「いったいどこの中世からやって来たんだ、この野蛮人!」
「なんだと?」
益々ヒートアップしていく彼女だが……俺の挑発が返答を引き出した事で、僅かながら彼女との間合いを確保する事に成功した。
「ふん! そこそこ動ける様だが……次の一撃を躱せるかな?」
「ご忠告どうも……日本じゃそういうのを“フラグ”って言うんだぜ?」
俺は必死に時間を稼ぎながら、彼女の立ち回りに感じた違和感の理由を考える……
(いくらなんでも斬撃の加速が速すぎる……それにあんなに雑な振り回し方であの威力……ん?)
あの剣、確か涼子が“神剣レーヴァテイン”とか言ってたが……地面を爆ぜさせた威力とは別に、とても切れ味が良いとは思えない。何しろ地面は切れたのでは無く爆ぜたのだから……
一撃目を外された彼女の足元には、高価そうだった靴が残骸になって纏わりついていたが……彼女はその残骸を無造作に脱ぎ捨てて裸足になると、改めて剣を構えなおした。
「ち、これだから既製品は……まあいいわ。えっと……そう、日本語で言う“Maidのミヤゲ”というのを見せてあげるわ」
「そのメイドとは違うぞ?」
「グッ……知ったことか! 覚悟しろ!!」
彼女は剣を持った両手を肩口まで引上げ、鋒を自然に下ろす様に構えなおした。と、同時に……裸足になっていた足元が急に輝き出し……
「本当に“グッ”とか言うヤツを初めて見たわ……って、なんだそれ? ちょっとずるくねぇか?」
彼女の足元に薄い金属製のブーツが現れた?! ソレは……ちょっと見ただけでも、さっき以上の動きを容易に想像させる代物だ。
「滝沢君! それは彼女のスキル“断罪の天使”の一部よ! そのブーツに覆われている所は絶対壊せないって言われてるわ! 気を付けて!!」
「……ありがとう。キヲツケルヨ……」
「ふん……好きにするがいい。私のスキル以前に、この剣をもう一度躱せるかの心配が先だがな!」
俺は下らないやり取りの間にも、必死に彼女の攻撃に感じた違和感に思いを巡らせた。有り得ない加速……あの剣がそれこそプラスチック製の玩具なら、さっきみたいな加速も可能だろうが……それでは地面を抉った威力の説明がつかない。
仮に……彼女がスキル(?)の影響で人外の膂力を持っていたとしても、さっきの攻撃は振り下ろしだ……
物理的に終端速度の釣り合いを超えれば動くのは剣ではなく彼女の身体のはず……逆にあの剣の加速度より彼女の体重が勝っているなら、どう頑張ってもあの威力は出ない……なら……?
「ああ……そうか……なんとなく読めたよ……その剣、マジでオーバーテクノロジーの産物なんだな? 地に打ち落とすとは上手いこと言ったもんだ」
俺のカマかけに彼女の表情が一瞬強張った。
「……減らず口を叩くのはこの剣を躱してからにするがいい!!」
そして彼女は……さっき以上に“爆発的な加速”で足元をクレータに変えて踏み込んで来た。俺は……
「バーカ……種が割れた手品に付き合ってられるか」
そう言って……俺はこっそりと拾っておいた小石を、彼女の顔面に向って……そっとほうり投げた。
「小細工を!! こんなもので……」
彼女は反射的に肩口の神剣で小石を跳ね飛ばし……その動きが彼女の視線を遮った瞬間に勝負はついた。
文字通り爆発的な加速で踏み込んで来た彼女は、顔面に向ってくる小石を躱す動作を取れず、結果として剣で弾くしか選択肢が無かった。そして……その隙は俺にとって値千金……
俺は彼女から半歩身を躱し、利き手側に身を沈めて彼女の軸足をそっと払ってやった。結果……
「なぁっ?!?!」
彼女は盛大につんのめって地面に激突。突き下ろしに構えていた神剣は……勢いのまま地面に突き刺さり……そのまま地面の下まで潜りこんで彼女の手元から消えてしまった……
彼女は剣を手放しても勢いを止める事が出来ず、無様に地面を転がって盛大に砂埃をあげ……
「………えっと……大丈夫か?」
頭を打ったのか、回転に耐えられなかったのか……彼女はふらふらと起き上がったが、これ以上は何も出来ないだろう。例えここから彼女の断罪の天使を全開にしたとしても、とても戦えるコンディションには見えない。
「で? まだやるのか? 俺としてはここらで文明人らしい手段を取りたいんだが?」
「何を今更!! たとえ神剣がなくとも私のスキルは……」
彼女がフラフラのまま継戦の意思を示そうとした時……
「そこまでにして頂きましょう……これ以上の狼藉は看過出来ませんな」
そう言って大門の内側から現れたのは……
「利一さん? どうして家に?」
「久しぶりだな秋人君。なに、さっき裏門側に到着したんだが、まさかこんな事になっているとは……と、マダム.オルレアン、貴女が職務に忠実な事は重々承知しておりますが……“告知天使の福音”の名代でこの地にいらっしゃった以上、かかる狼藉はオルレアン大公婦人の名に傷を付けます。今なら双方傷は浅い……」
「ムシュ.スケマツ……しかし……」
どうも彼女にとって祖母の存在はかなりの物みたいだ。俺が何を言っても止まらなかったイノシシ娘は、祖母の名誉を傷つけると言われてやっと逡巡する様子を見せた。それにしても……
「利一さん。こっちに来る予定だったならもう少し早く来て下さいよ……おかげで玄関前がめちゃくちゃです」
「それが……実は厄介事でな。マダムオルレアンと……そこに居る鼎涼子君にも関係していると言って良いかもしれない」
………??? 俺は利一さんの言ってる事の意味が分からず、フラフラになった人類の守護者に肩を貸している涼子に視線で尋ねたが……彼女は横に首ををふるだけだった。
「それはどういう……」
俺が重ねて事情を聞こうとした。
「マンハッタンで大変な事が起きた……今親父に聞いたが……ホームページにも情報を求めるメールが大量に来ているらしい。一番多いのは開拓者の方卓のグランドマスターからだそうだが……めちゃくちゃな数の“救援要請”が来ているそうだ」
「……はあ? 一体何が起こったんですか?」
俺の質問に……深刻な表情で利一さんが答える。
「今から約14時間前……現地時間で13時10分頃、ニューヨーク、マンハッタン島にある“世界樹の塔”が氾濫を起した。アメリカギルドは総力を上げて対処に当たっているが……状況は芳しく無い様だ。自衛隊にも米軍から協力要請が来ているんだが……その情報の中に」
言い淀む利一さん。こんな利一さんは珍しい……
「どうやら佐渡ヶ島ギルドの神山さん達が……現地で氾濫に巻き込まれたらしい」
達……って事は……??
「まさか?? 莉子ちゃんもですか?」
いつも冷静な利一さんが……この時ばかりは一人の父親の顔で頷く。
「神山女史と共に行動していたはずだが……今の所二人の安否は不明だそうだ」
「なんてこった……莉子ちゃんと神山さんが……」
俺は自分のつぶやきにハッとして涼子の方を見た。確か彼女と神山さんは元パーティメンバーだったはず……彼女は一瞬『何を言われてるのか分からない』様子で……
「……なんですって?」
と呟いた。
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いつも応援していただき誠にありがとうございますm(_ _)m 作者の鰺屋です。
ここまで読み進めて下さった読者の皆様はご存知かと思いますが……
コミカライズが中止になりどうしても執筆のペースを上げる事が出来ず……楽しみにして下さっている皆様には本当に面目次第もありません(٥↼_↼)
もし、ここまで読んでいただいて少しでもつづきが気になると思っていただけたなら……
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