世界樹の塔 ―ザ・タワー オブ ワールド ツリー― (改稿版)
お世話になっております鰺屋です。m(_ _)m
コミカライズが中止になって一ヶ月と少し
読者の皆様が応援してくれたおかげで──本作のページビューが695万PV、ユニークアクセスも127万人を超えました!!
なんとか気持ちを奮わせながら更新を続けて……本当に良かったと思っておりますm(_ _)m
「ああ……大丈夫よ。セントラルパークの“タワー”は南半分に有るから。こっち側にはアメリカのギルド“開拓者の方卓”の本部と……なんとか呑み込まれずに済んだ、残りのセントラルパークがあるだけよ」
シンプソン女史は肩越しにウインクを一つ……そのままセントラルパークを奔る小径に入って行く。
私達は小径を進む彼女に遅れない様に、5thアヴェニューを注意して渡り切ると、彼女の後を追って小径に入った。足早にパークを進む彼女の後を追いかけると、彼女はパークに入ってすぐの所にある大きな芝生の広場に入って行く。
私達が来ている事を横目で確かめた彼女は、大きめの肩掛けカバンからレジャーシートを取り出して、芝生の上に拡げ……
「ようこそマンハッタンのオアシスへ……と言っても、今じゃ半分しかないんだけど……」
と言ってパンプスを脱ぎ、シートの上に脚を伸ばして座った。私は唐突な彼女の行動見て少し呆気に取られてしまったが……不意にバカバカしくなって、彼女の横に同じく脚を伸ばして座ることにした。
「は〜……まあ、いいっすけど……」
お洒落なカフェを期待してた莉子ちゃんには少々期待ハズレだったかも知れないけど……ここがマンハッタンの中心だと思えば、駅前のス○バよりはよほど上等だわ。
「気持ちいいでしょ? ここはちょうどマウントサイナイの向かい側にあるから……以前は医科大学の学生達や近くの住人の憩いの場だったんだけどね……今は殆ど誰も寄り付かなくなっちゃったわ……アレのせいでね」
シンプソン女史が見つめる先……そこにあるのは、セントラルパークの南半分を埋め尽くす……緑、新緑、深緑、暗緑、黄緑、青緑、灰緑……この世にある全ての緑を混ぜ込んで、乱雑な枝葉を伸ばす巨大な木の姿………
「あれがセントラルパークの半分以上を呑み込んだ『世界樹の塔』っすか……」
そこには巨大な……この世界一の大都会が誇る摩天楼が、足元の積み木に見える程に大きく枝葉を伸ばした巨大で歪な木が聳え立っていた。
「そうよ……まぁ、あんな見た目だから、信心深い人達なんかは複雑な気持ちみたいだけど……芸術業界じゃみ〜んな怒り狂ってるわ。メットが丸ごと飲み込まれちゃったからね」
さすがに、この芝生広場から見える範囲では詳細は分からないが……確かに巨木は根本に向って長方形に広がっている? 自然には有り得ない(そもそも“タワー”自体が不自然極まりないのだが)その姿を訝しく眺める私に……シンプソン女史が知っている事を説明してくれた。
「どんな理屈かは知らないけど……あの、あらゆる種類の樹木が絡みあって出来ている木は、セントラルパークの敷地から全くはみ出さずに突然生えて来たのよ……不思議な事にね。で、公園の南にあった美術館もストロベリーフィールズも、子供達が大好きだった動物園や回転木馬まで……10年前のあの日、突然生えてきたジックと豆の木に化けちゃったってわけ」
そう語るシンプソン女史の表情は、芝生広場に降り注ぐ陽光にそぐわない寂しさを湛えていて……
「それから……あの世界樹の根本にある大きな樹洞の中へ……大切な人を呑み込まれた親が、子が、夫婦や恋人が未だに探検を続けているわ。軍が差し向けた調査隊が何度も全滅してるってのにね。まぁ……かく言う私もその一人なんだけど……」
彼女の年齢なら、セントラルパークにまだ“タワー”が現れる前の事も当然知っているのだろう。彼女が語る一つ一つの言葉は暗いものでは無かったが……
「当然探検者になるのはそんな人達だけじゃなくてね。日差しを遮られて壊滅的に地価の下がった、アッパー.E.エンド御用達の命知らずもごまんと居るわね」
そう教えてくれたシンプソン女史は、紙袋からサンドイッチとラテを取り出し、まだ熱いラテを一口飲んだ……
「その……呑み込まれた人というのは……」
「彼は……マウントサイナイの先輩だったわ。小児科を専攻してて……その日は美術館へ常設展を見に行く約束だったんだけど……私がその前の試験でCマイナス取っちゃって……あっ、試験勉強をサボってたんじゃないわよ! ちょっと体調が悪くてね。で、レポートを仕上げなきゃならなくてデートはご破算。それで……そんな誰にでもある様なちょっとしたすれ違いで……結局私達は一生離れ離れになってしまったわ」
今度ははっきりと悲しみを湛えた表情で……それでもあっけらかんと話すシンプソン女史。
「ごめんなさい……もしかして何か仕事がらみの交渉だと思ってたかも知れないけど……貴女と話したかったのは本当に私の我がままよ。どうしても“タワー攻略”の経緯を詳しく聞いてみたくて……ね」
――――――――――
【日本 N県 N市 郊外】
― 滝沢邸 門前 ―
《 side 滝沢秋人 》
「おい……今お前なんて言った?」
誰とも分からない女性に些か剣呑だったかも知れないが……俺は聞き流す事が出来ない言葉を耳にしてしまった。
「どうやら悪魔の眷属というのは口の利き方も知らない様ね。まあいい……教えてあげるわ! 我が一族にはあんた達“塔の悪魔”の所業が代々口伝されているのよ! 曰く『其の者……神の光を遮る者なり。神は怒りをもって光輝く天の御座より其の者を地に打ち落とさん。天の御業に慄きし光無き者、108の災厄の種を掠めとり、天の光に似せて地に放つ。然して地には恩寵と災厄が眠りにつき、人の心乱れし時、108柱の悪魔が地の底より蘇らん』どう? 私達は代々地にばら撒かれた災厄より人々を守る使命を託されし一族なのよ……オルレアンの地に“声を聞いた乙女”が現れた時からね!!」
そう言って、俺に人差し指を突きつけた女に……
「……うん……そうなのか……」
俺は……今迄ちょっと見たことが無い程のドヤ顔で語る彼女に、返す言葉を失ってしまった。そして、同じく彼女の言葉を聞いた涼子も…羽交い締めしたまま目を真ん丸くしている。
『PD……お前どう思う?』
俺は口元を手で覆って自分の表情を隠しつつ、PDに意見を求めた。
『私には意味不明ですが……彼女の語った言葉には幾つか看過出来ない情報が含まれていると判断します』
『あぁ……やっぱりか……面倒くせぇな』
俺は彼女のセリフにびっくりするくらい面倒事の予感を感じながら、それでも儚い抵抗を試みた。
「あんたがいったい何を根拠に俺を“悪魔の眷属”に認定したか知らんが……人の家の前で騒いだら迷惑だってのはお祖母ちゃんには教わらなかったのか?」
俺の返答を聞いた娘は、我が家の伝統を馬鹿にされて怒ったのか、常識を諭されて恥ずかしかったのか……綺麗な顔を真っ赤にして、
「何を賢しげに!! そんな“タワー”を棲家と宣う者が悪魔以外にあってたまるものか!!」
「なっ……」
今度こそ……俺は本当に驚いてしまった。見た目では分かる筈も無いのに、俺の家が“タワー”になっているなんてどうして分かった?!
「何? それで隠しているつもりなの? あんたの棲家が“タワー”な事くらい私には一目で分かったわよ!! さあ、分かったなら神妙にしなさい。せめて慈悲をもって苦痛を感じない様に神の元に還してあげるわ!!」
「くっ……逃げて滝沢君! もう私の力じゃこの娘を抑えてられない!」
地上の守護者を自称する娘はとうとう痺れを切らしたらしく、強引に涼子の手を振りほどいて彼女を付きとばし……俺に剣を突きつけた。
「鼎さん……ちょっと下がっててくれ。この非常識な娘に、ほんの少しだけ日本式の作法を教えてやるからさ」
「そんな……あなた丸腰じゃない!」
俺は突き飛ばされた涼子を見て少しムッとした。この娘が何処の誰であろうと、俺の知り合いに乱暴な真似をするのは許せん!
『PD、エネルギー転換は最小限にして、その分のリソースを感覚拡張と反射速度に振ってくれ』
『……大丈夫ですか? 今なら彼女を“タワー”の影響範囲に呑み込んで無力化する事もできますが?』
『……みすみす彼女の言葉を肯定してどうすんだよ。いいから俺の言うとおりにやれって』
『……危ないと判断したら介入しますからね』
『おう……そん時は頼むわ』
その瞬間……切り替えられた感覚が周りの状況を精密に俺の脳に送りこんで来た。
「………あぁっ、くそ。やっぱり何時まで経っても慣れねぇ」
つい愚痴が口を突く。目の前の娘は剣道で言う所の青眼に近い構えで俺の数メートル先に立っている。しかし、その靴で、よくそんな重そうな剣を青眼に保持出来るな……
俺がそんな益体もない事を考えていた……その瞬間、
― ドンッ ―
なんの前触れも見せず、彼女の足元が突然……爆ぜた?!
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何卒……
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