緊急ギルド総会 (改稿版)
実は……二章冒頭の数話のみ改稿が終わっているので、ある程度推敲出来た順に投稿させていただこうと思いますm(_ _)m(と言っても二章の一話は殆ど変わっていませんが……(-_-;))
皆様の応援に少しだけでも恩返しできれば良いのですが……
【アメリカ NY州 マンハッタン島】
― 国連本部 B4 ―
《 side 神山奈緒子 》
「一先ず御手元の資料をご覧下さい。そこには入塔した人間の述べ人数が多い順に、世界各地の“タワー”が記載されています」
正面のプロジェクターを操作しながら司会をしているのは、アメリカの探検者協会《開拓者の方卓》のサブマスターであるナタリア・シンプソン女史だ。
私は現在……“佐渡ヶ島タワー攻略”の余波を受けて身動きが取れない統括支部長に代わり、国連にて行われている《緊急ギルド総会》に出席していた。
この総会自体も本来の開催時期とは異なり、緊急に招集された物だったのだが……当然その原因は、
「この度、日本の“佐渡ヶ島タワー”が世界で初めて全てのフロアが攻略され、その攻略者である“T”氏が公開した情報から、今まで憶測の域を出なかった“タワー”の存在意義が判明しました。詳細については、既に配信された速報にて皆様ご存知かと思います。よってこの会議では、情報から喫緊の課題であると判断された“リソースの貯蔵量が多量だと推定されるタワー”についての報告を優先させていただきます」
標準的なアメリカンイングリッシュで話す彼女の言葉は、世界各地のギルドを預かるマスター達にとっては殆ど通訳の必要が無かった。
その証拠に私の周囲に腰を下ろしていた数人のギルドマスター達はイヤホンを着けていないにも関わらわず、ノータイムでこちらに視線を送ってくる。あからさまに迷惑そうな物から好奇心を抑えきれない物まで……視線に込められた感情は様々だ。
私はそれらの視線に居心地の悪さを感じながら、手元のディスプレイを操り指定された資料を表示させた。そこには世界に散らばる108の“塔”のデータが、今まで塔に侵入した探検者の述べ人数と共に記載されていた。
そして、データのかなり下の方、それこそ……『この下にあるのは“僻地”に存在する塔以外無いのでは?』と思われる位置に、赤い字で記されていたのが『Tower of Sadogasima(佐渡ヶ島タワー)』だった。
佐渡ヶ島タワーについて、探検者の人数データを提供したのは私自身だし、佐渡ヶ島タワーの立地条件から探検者の数が上位とは思っていなかったが……私が予測した位置より佐渡ヶ島タワーは更に下に位置していた。これは地球上の殆どのタワーが“リソース貯蔵量に於いて佐渡ヶ島タワーより危険である”事に他ならない。
「このリストを見ると……上位に位置する塔の幾つかは今までの入塔者の数がかなり曖昧な様だが?」
私が各国のタワーの危険性について危惧していた時、近くに座っていたインド系の男性からシンプソン女史に質問が発せられた。彼の席にあったネームプレートには“インド国際探検者組合”とある。
「ルドラ様の仰る通り、入塔者の多いタワーの一部には厳密な数字が曖昧なタワーがあります。これは、“タワー”が発生した時に現地の建造物、施設、自然環境などを巻き込んで発生したタワーに見られる特徴です。お国の霊廟であるタージ・マハルが“タワー”と化した時は、多数の方が巻き込まれたと聞き及んでおります。なんでも……救助する過程でインド国軍に相当な被害を受けたとか?」
シンプソン女史の率直な答えに気を悪くしたのか……インドギルドのマスターであるルドラ・シン氏はかろうじて平静を保ちながら、
「あのときアメリカが持っていた情報が開示されていたならば……“ドゥルガーの塔”で失われた犠牲はかなりの数が避けられたと思うが?」
ルドラ氏の周囲に……ある種の緊張が走る。……が、
「痛ましい事です。当時は合衆国にも複数のタワーが出現し、大統領をはじめ国防総省も大混乱に陥っていたらしいですね」
シレっと不可抗力をアピールされたインドギルドのグランドマスターは、自身の嫌味が痛痒を与えなかった事で更に気を悪くした様だが……それ以上は何も言わずムスッとして黙りこんでしまった。彼がそれ以上発言しない事を見て取ったシンプソン女史は、説明を再開する。
「続けます……現在、世界中の塔には膨大な数の探検者達がアタックを続けておりますが……彼等のもたらした情報のうちの一つ、“目下到達階数”の情報を今の入塔者数のデータに合わせて表示しますと……」
シンプソン女史がパワーポイントを操作してプロジェクターに映ったデータに新たなデータを加えると……
「やはり……多少の誤差はありますが入塔者の数が多いタワーほど、その階数も多いと考えて間違い無い様です」
シンプソン女史が説明する様に、『人気のタワー程階数か多い』のはまず間違い無い。これは滝沢氏がリークした“タワーは生物の持つ何らかのエネルギーを集めている”という情報とも整合する。しかし……
「どうしてこの塔が一番上に来るのよ? ここは米軍管轄下で、一般の探検者は今でも入塔禁止じゃない?」
私はリストの一番上に記載されている名前にどうしても納得がいかずつい独言をもらしてしまった。何故ならそこにあった塔の名前が……
1、混乱の塔『バグダッド近郊』
2、王者の塔『ギザの大ピラミッド』
3、墓の塔 『モン・サン・ミッシェル』
4、…………
5、………
と、記されていたからだ。
ここは20xx年から始まったアメリカからイラクへの軍事侵攻中に、突如現れた塔として記録されている。詳細は今も詳らかになっていないが……
軍事侵攻が終わった後も、周辺地域の政情不安から米軍がタワーを封鎖しており、一般の探検者は入塔が禁止されている。確かギルドも設置されていない筈だが?
リストから目を上げると、私と同じ疑問を抱いたらしいギルドマスター達が、自然とシンプソン女史へと困惑の視線を向けていた。多数の視線に晒されたシンプソン女史は、それでもこの会議が始まった当初からのポーカーフェイスを一切崩さず……
「申し訳ありませんが……私には皆様の疑問にお答えする権限が御座いません。リストの一番目……通称“混乱の塔”については……こちらのブリット・ヘンドリックス少将からご説明があります」
やや唐突な彼女の紹介を受けて……議場の一番前に座っていた男がゆっくりと立ち上がった。
――――――――――
【日本 東京都千代田区】
― 帝国ホテル1Fロビー 10:32 ―
《 side 甲斐陽太郎 》
東京の帝国ホテル一階ロビーには、150席以上の規模を誇るランデブーラウンジが存在する。
この煩雑な東京の一角に在りながら閑静で落ち着いた雰囲気のラウンジ内には、通称“光の壁”と呼ばれる7600個余りのガラスブロックで構築されたモザイク模様の大作が存在し、旅人や待ち合わせの人々に開放的な雰囲気を提供している。
「遅いな……」
俺は31階に宿泊しているゲストを待つ間に、サーブされたブレンドコーヒーをチビチビやっていた。
「ああ……旨いな。確かに旨い……これでチャージとコーヒー代で一杯2900円もしなけりゃ常連になってやってもいいんだが……」
「気に入ったなら良かったわムシュ甲斐。お待たせしたお詫びに、そのラディッションは、私のルームにつけて下さって結構よ」
俺は、背後に突然現れた気配に、危うく滅多に味わえないブレンドを吹き出す所だった
……かろうじて惨事を回避した俺は、最大限落ち着いた体を取り繕ってカップをソーサに戻し、ローテーブルを挟んだ正面に座った女性へ改めて挨拶をした。
「脅かさないで下さいよマダム・オルレアン……気に障ったなら謝りますから。コーヒー代も気にしないで下さい。これでも経費はそこそこ貰える部署なんで……」




