間章 エリクシル狂騒曲……④
実は……間章“エリクシル狂騒曲”が思いの外長くなってしまい……(・–・;)
申し訳ありませんがもう少しだけ続きます。
m(_ _)m
あと少しだけお付き合いのほどを……
よろしくお願いいたしますm(_ _)m
『その実地検証に、俺の後ろの奴等が協力してくれるそうだせっかくだからじっくり試して差し上げろ』
『了解♪』
こいつ……どんどん人間臭くなっていくな。俺はほんの少しだけ許可した事に不安を覚えたが……
『まぁいいか……死人は出すなよ?』
『心得てますよ』
『……ならいい。お手並み拝見といこうか』
――――――――――
あれは……確実に怒っている。表情にも物腰にもそんな気配は微塵も無いというのに、私には直感的に理解出来てしまった。
それは、産まれたての小鹿が肉食獣を本能的に危険だと感じる様に……いや、もしかしたら日々の業務で危機を感じるセンサーが多少発達していたからかも……なんにしろ私の中の何かが、笑顔で大門を開ける若い旧家の当主に全力で警報を鳴らしていた。
私は……今すぐ回れ右をしてクラウチングスタートを切りたい衝動を全力で抑え込み……最後の奉公のつもりで理事に待ったを掛けた。
「理事、御当主の申し出は大変有り難いのですが……今すぐお暇しないと、夕刻からの会議に間に合いません」
当然だがそんな会議など無い。だが、そもそもこの女怪が一日のスケジュールなど把握している訳が無いのでここを離れさえすれば問題無いのだ。
「ふん!! ちょうどいい!! その会議とやらにマスターコアラを持って乗り込んでやればいいわ!!」
私は必死になって引き留めようとした……が、当主の後を追って門内を進む理事と護衛達はそんな私の努力を一顧だにせず、敷地の奥に聳える書院造の豪邸に向かってどんどん進んで行く。
(畜生……あれはヤバい! アレの中に入ってしまったら私達はおしまいだ! 護衛共は何をしてる!! 本当にアレがただの旧家に見えてるのか?!)
私は……いや、俺は既にその時パニックになっていたんだろう。事実だけを見れば……敷地には幾つかの野菜を育てる畑があり、その隙間には名古屋コーチンが我が物顔で歩きながらミミズや害虫を啄んでいる。書院造の本宅は豪邸ではあるが相応の旧さも見えて、正に田舎の長閑な風景そのものだ……そのものなのに………
(なんでコイツラには分からないんだ?? あそこに入ったら最後だって……あれは……あれはどう見ても魔王の城だぞ!!)
俺は……とうとうプレッシャーに耐えきれなくなって……無言のまま全力で方向転換し、開いたままになっていた大門目掛けて全力で走り出した。頭には“馘首”の文字がチラついたが……
(知るか!! 本物の首をくれてやる程のサラリーは貰ってねえよ!!)
俺は背後を一切気にせずに全力疾走した。こんな日に限って……足元は就職の祝いに奮発した大塚製靴のストレートチップだ。俺は無惨に型崩れした革靴を想像して泣きそうになりながらも、開いたままの大門まであと数歩に迫り……大阪の恵比寿橋にあるというグ○コ看板もかくやといった姿で門に飛び込んだ……
(やった! やったぞ!! 助かった!!)
そう思った瞬間、門の外の世界に躍り出た筈の俺の視界は暗転し……
『へえ……あなた才能ありますよ』
訳の分からない言葉を最後に……足元の感触が消失、そのまま奈落の底に落ちていく感覚が……俺が気絶する前に覚えていた最後の記憶だった。
――――――――――
「ぴぃゃあーーー!!」
わたくしの後ろに付いて歩いていた梶原が何を思ったのか……突然おかしな声をあげて、今来たばかりの道を全力で引き返していく?
「あの莫迦者……何を騒いでいるのか。まあいいわ、何か忘れ物でもしたんでしょう。ほら行くわよあなた達!」
わたくしは他の護衛達を伴って、当主を名乗る若造の後に続いた。この若造、既におおかたの財産は無くして没落したらしいが……まぁ、若干田舎臭い野暮ったさはあるものの顔の作りは悪くない。タワーの攻略をする程の腕前もあるようだし……事が済んだらわたくしの護衛の一人に雇ってあげてもいいわね。
「どうぞこちらへ……お茶の仕度をして参りますので暫しお待ちを……」
若造はそう言って大きな座卓が備えられた部屋にわたくしを座らせ、そのまま障子を閉めて部屋を出ていった。
「ふん!! 古臭い家ね! わたくしが来るというのに……座椅子の一つも用意してないなんて!!」
わたくしはしぶしぶ座卓の前に用意されていた座布団に座った。同時に背後に二人、入口付近に二人、合計四人の護衛が滑らかに配置つく。(ふん……まあまぁね。この件が終わったら……この子達にはご褒美にわたくしのプライベートルームに呼んであげようかしら?)
『何を邪な事を考えておるか! この痴れ者!』
「えっ……? どうして???」
わたくしが、この件が片づいてからのコトに想いを馳せているうちに……いつの間にか、座卓を挟んだ向かいに人が……そんな?? まさか??
『どうした? よもやワシの顔を忘れた訳ではあるまいな??』
「めっ、滅相も御座いませんわ!! ごっ……御無沙汰しております……おっお祖父様!!」
そんな?? 何で亡くなった筈のお祖父様が???
――――――――――
「で? どんな様子だい?」
俺と莉子ちゃんは奴等を客間に通すと……そのまま屋敷の地下室に降りた。そこは俺達が“佐渡ヶ島タワー”の攻略に出かける前はただの物置だったのだが……
「おかえりなさいませ若。ふん……まったく不愉快な小娘ですな。護衛共は既にPDのプログラムした“人格矯正シミュレーション”に落としてやりましたワイ」
地下室の壁面には大量のモニターが整然と設置され、その前には安楽椅子に座った利平爺さんが湯呑を片手にモニターをチェックしていた。
『大門の外に出ようとした秘書には少し“タワー”に適性があるようです。今から暫くの間、私自らお相手をしますので……接客は利平様にお願いたします』
「おう、心得た。そちらは頼む」
『おまかせ下さい♪』
そ……そうか……楽しそうでよかったよ。
「で……セキュリティとしてはどうなんすか? “賢者の石”に残っていたエネルギーリソースは僅かだったんすよね?」
まだこの部屋に席を作って間もない莉子ちゃんが早速自分のデスクを整理しつつ、ある物が設置された壁面に視線を向けた。
『タキザワが大半のリソースをエリクシルに使っちゃったからね。まあこのくらいの屋敷をタワー化するくらいなら余裕だけどさ』
そう答えたのは……なんらかの装置に組み込まれた“賢者の石”だった。
「それは重畳だ。PDが元々持ってたリソースじゃあ一戸建て程度の面積をタワー化するのが精一杯だったからな」
『まあ……アンタがそれで良いなら私は構わないけどね。でも、私が出来るのはあくまでも“タワーの攻略報酬としてのリソースの供給”だけだからね。アンタがいくら攻略者だったとしても、私に登録されたメインユーザはアンタじゃないんだからさ」
「ああ、分かってるさ。だからこれは正当な取引だろ?」
『ふん。本当なら攻略者だったとしても一つの“メニュー”を消化したら、余りのリソースは開放されちゃうんだから! あんたが“PD”のメインユーザーで……たまたま“私と意思疎通出来る回路”が開いてた幸運に感謝しなさいよ!』
「ああ、心得てるさ。だから報酬として専用ネット回線を一つ引いてやっただろ? その代わり、当面の間は自宅の敷地内を警備する程度のリソースは供給してもらうからな」
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蛇足ですが……どうも後書きには、作者の他の作品を宣伝してもいいみたいなので、お目汚しですが乗せておきます! お時間あれば是非……m(_ _)m
トランスファー “空間とか異次元とかってそんなに簡単なんですか?”
https://ncode.syosetu.com/n6961eu/
マシニングオラクル “AIが神を『学習』した世界”
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