間章 エリクシル狂騒曲……②
いつも応援ありがとうございますm(_ _)m
ちょっと遅くなりましたが……
その分、少しだけいつもより多めになっております(笑)
……どうぞごゆっくりお楽しみ下さいm(_ _)m
滝沢君は……特に皮肉を込めて名付けた訳でも無いと思うが……
「彼は悲観主義者とは、ほど遠い性格をしてますよ。でなければタワーの情報を世界に向けて発信するなんて馬鹿げた事はしません」
彼とは短い付き合いだが、それは間違いなく言えると思う。
「……彼のそういう“現実主義者”の部分が、世界の現状に絶望しなければいいんだがね……本題に入ろう。これは日本政府から内々の打診だが……彼に“賢者の石”を手放す気はあると思うかね?」
「それは、本人に聞いてみなければなんとも……これ、もしかしなくても交渉役の打診ですよね?」
マスターだからって無理を言わないで欲しい……
「現状……ギルドと彼の間にある有力なコネクションは君だけなんだよ。結果は別として打診だけでも頼みたい……最悪“貸与”という形でも構わない」
私はカップを手に取って、すっかり冷めてしまったモカを一口啜る。口に広がる液体には、ベッタリとした甘さだけが残り……芳醇な筈の薫りはすっかり消え失せていた。
「政府の目的は、まず第一に情報収集、その次が技術の解明だ。これは私も裏付けを得た情報ではないが……政府は既に公式・非公式を合わせて相当数の諜報員の入国を確認してるらしい。今から言う事は、まったくの老婆心として聞いて貰いたいんだが……彼にとっても、手元に“ブツ”を置いておくのは相当の潜在的危険ではないかな?」
私は……台無しになったモカのカップをそのままソーサーに戻し、改めて鷹山の打診に返答した。
「私に出来る事は、彼へ打診する事だけですよ? 結果の如何に関しては、責任は負えませんから」
返答を聞いた瞬間の鷹山の顔ときたら……“我が意を得たり”とタイトルを付けて額装しても、誰も異議は唱えないだろう。
「よろしく頼む」
表情とは裏腹に短い一言を残して……業務に追われている統括支部長は伝票を持って彼のオフィスへ帰っていった。
「………もっと高い物を頼んでやればよかったわ」
――――――――――
後で聞いた話だが……涼子が御殿場にあるギルドの本部で、統括支部長なる人物から賢者の石に関する交渉役を打診されていたちょうどその頃……
N県の実家で、今後の打ち合わせをしていた俺と莉子ちゃんは……
「……なのよ! 分かって貰えたかしら?」
アポ無しで凸撃してきた“財団法人探検者協会理事 葉山百合江”を名乗るオバチャンに、門前で喋りまくられて辟易していた……
佐渡ヶ島タワーを攻略後……三日目に現地の病院から退院した俺は、莉子ちゃんを伴って佐渡ヶ島を離れていた。俺が職場へ復帰するのは来週からの予定だったが、莉子ちゃんにだって予定はあるし、今後の事も考えねばならない。既に予定は大幅に狂っているが、だからこそ早々に自宅に落ち着くべきだと判断したのだ。
佐渡ヶ島に残してきた環奈の事は多少気がかりだったが、彼女には京田氏が護衛を貼り付けてくれているし……本人も、
「今回の探検の報酬で実家の経営も持ち直すと思いますし、それに……滝沢さんが教えてくれていた様に『暫くしたら佐渡ヶ島タワーが消える』前提で、お父さんの船を買い戻す話を進めていましたから……」
と言っていた。彼女曰く、暫くは父親の事を手伝いながら今後の身の振り方を検討するそうだ。俺は彼女の能力を高く買っていたので、今後も俺達の活動に協力してくれる様に打診はしていたが……
「そう言って貰えたのは嬉しいですけど……まだ私自身“どう生きていくのか?”っていう意思が定まってないんです。なにしろ今迄は、実家の事で右往左往してましたから。今回、滝沢さんのおかげで心配事が一つ片付いたので、今後の事を含めてじっくり考えてみるつもりです。私の気持ちが定まって……もしその時にまだ滝沢さんが私の事を必要としてくれるなら、その時こそ……」
環奈はそう言って佐渡ヶ島から離れる俺たちを見送ってくれた。濃密な経験を共にした俺達は、若干の寂しさを感じながら……フェリーから小さくなっていく環奈に手を振って家路についた。
「ちょっと……アナタ私の言った事、ちゃんと聞いているのかしら?」
目の前のオバチャンは、俺が少しだけ物思いに耽っていたのを見逃さなかったらしい……しかし……このオバチャンの言い分にはホトホト呆れてしまう。
何を勘違いしているのか……二言目には“ギルドに対して恩を返せ!”だの“政府の意向に逆らうのか?”だの“日本国民としての範を示すべきだ!”だの……このオバチャンの一族には、言葉尻に疑問符か感嘆符をつけないと喋ってはいけない掟でもあるのか?
俺と莉子ちゃんは、この時既に相当うんざりしていたが……ギルドの“偉いさん”が黒服を大量に引き連れて、わざわざこんな片田舎までやって来た事を考え、一通り言いたい事を言うまでは我慢して拝聴していた。
そんな俺達の態度に業を煮やしたのか……彼女は急にネコ撫で声で、
「私だって……あなた達が取ってきた物をタダで寄越せとか言ってる訳じゃないのよ? 相応の報酬は用意してるわ。梶原!」
「はっ……こちらに」
彼女の後ろに控えていた梶原と呼ばれた若い男は……懐から茶封筒を取り出し、オバチャンに手渡した。
「さあ、中を確認して? ここだけの話だけど……あなたが望むなら、それには領収書も税金も要らないから……」
などと言ってきた。俺は彼女が無理やり押し付けてきた封筒を仕方なく覗き込む。中には帯で留められた諭吉のピン札が一束。これが彼女が考える賢者の石の“相応の報酬”か……随分他人の命懸けを安く見積もってくれたものだ。
俺は元々“賢者の石”を誰かに売り飛ばすつもりなど無かった。勿論、手元にある“プリトーレ”はエネルギーを殆ど使ってしまった出涸らしだという事もあるが……
そもそも、マスターコアの売買をしたら……少しでも資金に余裕がある奴等なら『他人が攻略して得たコアを札束で買い叩けばいい』と考えるのは自明だった。
今後……コアの売買や、多額の報酬で攻略を請け負うパーティーの出現などは間違いなく起こり得る事態だ。俺は別にそれが悪い事だとは思わないが……
だが、少なくとも今は……コア自体がもう少し市場に出回らなければ相場すら設定できない。そして、そんな言い値でしか価格設定出来ない代物につけた値段が諭吉一束とは……
「……なるほど……これが理事の考えるコアの……実に優れた見識だ」
俺は彼女が本当にギルド関係者か若干疑いながら、頭では別の事を考えていた。そもそも……今までの無礼の数々を抜きにしても、眼前のオバチャンに大切な“賢者の石”を預ける気にはなれない。
正直……こんなオバチャンに手渡したら、エネルギーリソースの問題を抜きにしても碌な事にならないのは明白だし……
俺は、どうすれば彼女が機嫌を損ねずに帰ってくれるかを思案しながら……表面上はのらりくらりと適当な相槌をうっていた。だが……
彼女の言葉は次第に熱を帯び、今度は俺の地元や家族たちを貶し始めた。曰く田舎の人間は意思決定が鈍いだの……旧家なんて未だに残った封建主義の遺物で百害あって一利なしだの……
俺はこのオバチャンが何を言っても……丁重にお帰り頂ければそれで良かったのだ。こんな事を言い出すまでは……俺は理事を名乗るバ○ァに向かって、
「そうですか……お話、大変勉強になります。そうですね、今後の事も含めて相談させていただきたいので……何のお構いも出来ませんが、どうぞ拙宅へお入り下さい」
と、職場の受付レベルの演出で彼女達一行を敷地内に招き入れた。彼女は、突然変わった俺の態度に若干驚いたが……すぐに郎党を引き連れて、俺と莉子ちゃんの少し後ろをゾロゾロとついて来た。
「……兄さん? どうするつもりっすか?」
莉子ちゃんが、後ろに聞こえない程度の小声で俺に尋ねる……当然だが彼女は俺の性格を子供の頃から熟知している。
「……何もしないよ。俺はね。PD?」
俺は同じく小声で莉子ちゃんに返事をする。そして……
『はい』
『新しく構築したセキュリティシステムの実地モニタを欲しがってたな?』
『ええ、やはりシミュレーションだけでは……サンプルが豊富なほど実際のアクシデントに……』
『その実地検証に、俺の後ろの奴等が協力してくれるそうだせっかくだからじっくり試して差し上げろ』
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蛇足ですが……どうも後書きには、作者の他の作品を宣伝してもいいみたいなので、お目汚しですが乗せておきます! お時間あれば是非……m(_ _)m
トランスファー “空間とか異次元とかってそんなに簡単なんですか?”
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マシニングオラクル “AIが神を『学習』した世界”
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