間章 エリクシル狂騒曲……①
間章の2つ目のエピソードです。
少し毛色が違うお話になってます(─.─||)
お楽しみくださいm(_ _)m
【公益財団法人探検者協会 富士本部】
― 喫茶〈巌窟王〉Fri 13:34 ―
佐渡ヶ島タワーが一人の男によって攻略されてから、今日で五日が過ぎようとしていた。
奇妙な縁で現場に居合わせる事になった私は、彼の依頼を受けて“タワーが攻略された事実”を、ギルドの発表より先に動画投稿サイトにアップロードした。
これはギルドを始め、タワーが攻略される事に“不利益を被る勢力”の介入を防ぐ事が目的なのだが……ちなみにもし自分が居なかったらどうしたのか? と聞いてみたら、返ってきた答えは、
『まぁ……動画をアップするだけなら俺でもなんとかなると思う……便利な時代になってて良かったよ。ただ……鼎さんがアップした事実が無ければ、どれほど信用してもらえたか疑問だけどな』
だった。実際は、最後のフロアボスが攻略される様子は、タワーに居た探検者達に全て中継され……更に、その中継自体がかなりの探検者に撮影され、二次的に配信されたのだが……
そこに至る軌跡や、九階層のオリハルコンゴーレムを破壊した手法、十階層攻略の下準備、更にはフロアボスの遺した【逆鱗】から精製されたエリクシルが、実際に使用されたシーン等など……私がアップした動画は、タワー経由の情報を検証する形で凄まじい回数の視聴数を記録していた。
「まったく、困った事をしてくれた物だな涼子君……君の配信した動画と、リンク先の『タワーの破壊、承り〼』のサイト……とりわけ“塔リークス”のページで発表された『タワーの正体』についての情報……この五日間、ギルド職員はろくに家に帰る事も出来ず、凄まじい残業を強いられているよ……」
目の前に座るギルドの“統括支部長”鷹山さんは、自身の発言を裏付ける様に……オフジャケットにネクタイを緩めた姿で、富士ギルド一階の喫茶室〈巌窟王〉に下りて来ていた。
「あら……彼に帯同しての情報収集を打診してきたのはマスターだったのでは?」
「それにしてもだよ涼子君……今回リークされた情報は、今まで公開されて来た“タワー”関連の情報とは次元が違い過ぎる。今でこそ、まだギルドや日本政府はこの事についての公式見解を発表していないが……下手をすれば、滝沢氏は証人喚問を受けるかもしれないよ」
私は鷹山さんの言葉に若干眉を顰めた。あの滝沢君が素直にそんな場に出ていくとはとても思えない。
「彼が国会答弁に立つとは思えませんが?」
「何を勘違いしている? 喚問を受けるのは国連でだよ」
「……は?」
私は思わず持っていたシュガーポットをコーヒーカップにぶちまけそうになった。国連??
「そんな事例は聞いた事がありません」
「世界中の人間が、彼の公開した情報に同じ事を言っているよ」
どうやら……これは鷹山さんのジョークでは無さそうだ。それにしても……日本政府を飛び越えて国連とは……確かに各国のギルドは国連が主導して作られた組織だが、その成り立ちは『最低限のルール共有を旨とし、タワーが国際間に渡る問題を引き起こした場合を除いて相互不干渉』が原則の筈なのに……
「その事を彼は?」
「いきなりこんな事を言えると思うかね? 彼は探検者である前に一般の日本人だよ? ……まあ、タワーの攻略者を“一般的”と言えるかは別にしてだがね」
私は滝沢君が国連総会の場でマイクに向かっている場面を想像した……駄目だ、仏頂面して押し黙っている姿しか想像出来ない。
「マスター、彼や彼のパーティーの周囲にいち早く手を回して保護してくれた事に付いては彼も感謝していましたが……そんな事態になったら、彼がどんな行動に出るか分かりませんよ? 鷹山さんも彼が事実を知ってから“タワー”を一つ攻略するまでに掛かった時間を知ってるでしょう??」
「勿論知っているさ……まあ、その情報は“彼の自己申告に過ぎない”と、懐疑的に思っている者も多いがね?」
「……葉山理事ですか?」
私は、ギルドに天下って来たオバサンの顔を思い浮かべた。
「滅多な事は口にしないのが吉だよ涼子君」
「あんな原則論と言葉面しか読めない利権政治家に何が分かるんですか? 最悪……彼、日本から飛び出してしまうかも知れませんよ? アメリカあたりならギルドの権力も強いし……」
「それについては、京田君からの渡航自粛要請を受け入れたと聞いているが?」
それは……そもそも海外に行く予定がなかった事と『どうしても行くなら警備部からSPが付きます』という京田に“これ以上付き合うのが面倒になった”からだ。彼がもし日本に嫌気がさした時に、海外の有力ギルドから誘われたりしたら……
「深夜の厚木あたりから飛んだF-18に彼が乗っていても知りませんよ?」
今の所……彼は自宅や職場を大事にしているが、それこそ自分の存在が足かせになると判断したなら、どんな行動に出ることやら……
「怖い事を言わないでくれ……まあ、暫くはその心配も無いとは思うが……」
「……何故です?」
「実は……君の思った通り、葉山君のスジから、彼の事を国会に招致しようとした党派閥があったんだがね……防衛省方面から強力な牽制が入ったんだよ。私も多少そっちに伝手はあるが……相当上からの指示の様だ……今更だが、彼いったい何者なんだね?」
「そんなの私に分かるわけ無いでしょう……強いて言うなら世界に唯一人しかいない“塔の攻略者”です」
「君達がね」
鷹山が素早く訂正してくる。
「よして下さい……私はたまたまその場に居ただけですよ」
「実はね……今回呼び出したのもそれが絡んでるんだ」
「エリクシル……いえ……賢者の石ですか?」
鷹山は無言で頷く……
「しかし、アレは蓄えたエネルギーの殆どをエリクシルの精製で消費してしまったと……」
「確かに“塔リークス”にはそう書かれていたね……だが、人というのは自分の信じたい事を信じる生き物なんだよ。しかも“塔リークス”に記載されていた『賢者の石から提示されたメニュー』の一覧……彼にしてみれば世界中の探検者へ攻略を促すエサのつもりなんだろうが……アレを見て火がつくのは何も探検者だけとは限らん。むしろそれ以外の者達の方が、その身を焦がしても求める様な献立が目白押しじゃないかね」
鷹山の言葉を聞いた私は、“塔リークス”のページに記載されていた幾つかのメニューを思い浮かべた。悔しいが鷹山の言うとおりだ……
「それこそ……賢者の石がどんな代物だったとしても所有権は彼にしかありませんよ? 文字通り彼が命懸けで獲得した物ですし、ギルド規約にも“タワー内で獲得した物品はすべからく発見、獲得した者に帰属すべし”と明記されてます」
私の言葉に鷹山が渋い顔をする。
「勿論分かっているとも。私はその規約が策定された場に居たんだからね。ただ……“タワーの攻略”という前代未聞の事態が出来し……しかもその結果、それこそ人類の歴史が丸ごとひっくり返る様な事件を前にした時……どれ程の人間が冷静で居られると思うかね? もしも彼がこの事態を見越してコアに“賢者の石”という言葉を宛てたなら……彼は相当の皮肉屋だと言わざるを得んね」
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蛇足ですが……どうも後書きには、作者の他の作品を宣伝してもいいみたいなので、お目汚しですが乗せておきます! お時間あれば是非……m(_ _)m
トランスファー “空間とか異次元とかってそんなに簡単なんですか?”
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マシニングオラクル “AIが神を『学習』した世界”
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