Explorer is speed mania !!
「なるほどな……仕方ねぇ。いっちょカマしてやるか」
俺は自慢の軽トラをスロープのエントリースペースへと進める。俺が車を進めると周囲には次第にザワザワとした喧騒が拡がり始めた。
『……周囲がざわついていますね。そんなにタキザワの車が意外なのでしょうか?』
「まあ……奴らからすればこんなペラペラの車でモンスターのひしめくタワーに入るなんて自殺行為だと思ってるのかもな」
確かにここに入る迄に見たマッドでマックスな車達がここのスタンダードだとしたら俺の愛車は如何にも頼りなく映るかも知れない。だが……
「まあ見てろよ。車に大事なのはパワーだけじゃないって教えてやるよ。こちとらガキの頃から山道が庭だったんだ。それにな……こいつも見てくれはただの軽トラだけど中身はちょっとしたモンなんだぜ」
『まあ、私は普通にセカンドフロアにアプローチ出来れば問題ありませんが……』
そうこうするうちに俺がエントリースペースに入る番が来た。スペースには一応係員が待機しておりこちらを誘導したあとに運転席へやって来る。
「他のエクスプローラーを見ていてればもう分かっているかと思うが、ここからセカンドフロア迄は急勾配が続く。他の奴らの様なトルクとパワーがあれば途中にある数か所のカーブでスピードを落としてもなんとか行けるが……」
係員は言葉の最後を濁しながら俺の愛車を眺める。
「心配無用だ。もう行って良いのか?」
「いや、スロープの入口の所に信号とカウンターが設置してあるのが分かるか?」
「ああ……信号はわかるが……カウンター?」
「この車両用スロープは当然元々あったもんじゃない。内部に進入した車両に何かあった場合、それを判断する為に上で待機してる係員にもスロープへ進入してからのタイムが表示される様になってんのさ」
その話を聞いた俺はなんとも言えない気分になる。事故防止の為に設備を設置するなら他にもやり方があったんじゃないのか?
「おっと言いたい事は分かるけどな……忘れるなよ? ここは半分セイフティゾーンとは言え“タワー”の中なんだぜ? 普通の建材で作った施設なんざ3日もあれば綺麗になくなっちまうんだよ。ああ見えてスロープや設備に使われてんのは特殊な素材の塊なんだ。つまり素材的にこれ以上複雑な機材を設置するのは無理だったんだよ」
係員の話に俺は驚いた。よくそんな素材を用意出来たな。
「驚いたようだな。まぁこのスロープが出来たおかけでその後の資源回収効率が劇的に向上したってのもあるんだが……」
なるほど……そういう側面もあるのか。
「分かった。で、あのシグナルが青になったらスロープに進入してもいいのか?」
「ああそうだ。一応こっちでもカウントは見てるから。もし事故ったら車両は放置してさっさと逃げろよ。側壁に突っ込んだりしたら“タワー”が異物と判断してあっと言う間に処理されちまう事もあり得るからな」
「分かった。それと……こいつは純粋な疑問なんだが……」
そこでちらりとギャラリーどもに視線を向ける。
「奴らは何であんなに騒いでんだ?」
係員のオッサンは一瞬気まずい顔をする。どうもいい話でもなさそうだ。
「ああ……こいつはまったくの余談だが……ここの“登坂タイム”を肴に賭けに興じてる奴らがいるんだよ……」
なるほど……これはどうもオッズが偏ってるようだ。俺は苦笑を漏らしつつ係員に聞いてみる。
「そいつは興味深いな。予想はどうなってんだ?」
係員はなんとも言えない表情で……
「大半の奴らはリタイアだと思ってるみたいだな」
「ちなみに今日の最高タイムは?」
「………4分56秒90だ」
「OK、あんた名前は?」
俺が急に名前を聞いたんで係員のオッサンが目を丸くする。
「俺は堂島ってんだが……」
「よし…堂島さん。とりあえず俺に賭けろよ。小遣いを稼がせてやるから」
堂島と名乗ったオッサン……今度はマジで驚いてんな。
「抜かせ若造が……そんな所で命張るんじゃねぇ……まぁなんだ、その……生きて帰ってこいよ」
「ああ、行ってくるわ」
俺はオッサンが離れたのを見届けてシグナルを確認すると……アクセルをフロアいっぱいまで踏み込んだ。
――――――――――
俺の名は堂島弘明。
37歳のギルド職員だ。何を隠そう俺も3年前まではエクスプローラーだった。活動場所はこの佐渡ヶ島タワーで、全盛期にはその当時最前線だった六階層までコンビで到達し、エクスプローラー・ランクもC級まで上がってた。
その当時の俺は、自分で言うのもなんだが自信に溢れていた。当時でも大規模なパーティを組んで攻略するスタイルが主流のタワーに、たまたま二人共スキルを取得しているとは言え、たった二人で最前線に到達したんだ。勿論幸運もあっただろうが、探検を続けられた理由には間違いなく俺達の実力もあったと思う。
確かに慢心もあったかも知れない。だが朝に挨拶した俺達より格上のエクスプローラーが夕方にはもうこの世に居ないなんて事も珍しくない場所だ。俺達に多少の慢心はあっても油断はしていなかった。そう……あれは油断じゃない……ただ……そう、ただただ不運だったんだ。
俺達はその日も意気揚々とタワーの中を闊歩していた。俺は愛用の大型シールドと鋼鉄製の棍棒、相棒だったヤツはタワーでドロップした弓と矢を担ぎ、今日の目的だった最前線付近に拡がる森を調査する予定だった。
その森に入るのは初めてだった……いや、今ごちゃごちゃと当時の話をしても意味はないな……結果として、俺は大切な相棒と最前線を張ってるエクスプローラーとしてのプライドをたった一匹のモンスターに粉砕されて探検者を引退するハメになった。
それからの俺は……まあいいか……それからも色々とあったが今更カタギの生活にも戻れずにギルドの世話になってるって訳だよ。
えっ? アイツには何時会ったのかだって? おいおい、それが聞きたいなら最初から言ってくれよ。
俺がアイツとあったのはギルドの職員になって暫くしてからのこったよ。その頃の俺はセーフティゾーンのアプローチでエクスプローラーの入場整理をしつつ……もしその中にタワーの中で生き残れないかもしれない様な奴が居たら引き返す様にそれとなく説得するのが俺の裏の仕事だった。
で、そこで出会ったのがアイツだったんだ。セカンドへのアプローチがスロープになってから、どいつもこいつも装甲車みたいな車を持ち込んでな……モンスターを轢き殺して仕留めようなんてバカが大量に発生してた頃に、アイツはなんと幌付きの軽トラでタワーに現れたんだ。
そりゃあ最初は「こいつ何考えてんだ?」って思ったさ。とりあえず俺は運転席に座ってる優男に軽い感じで話掛けたよ。で、まぁなんだ……色々と話してみたらまぁなんと言うか……そう、なんて説明したらいいか分からねぇんだが……こう見てるとワクワクしてくるっつうか……不思議な雰囲気を纏ってる奴だったよ。
で、その後の事は知ってるんだろ?
アイツはその日どころかスロープが設置されてから記録されてた最速のタイムをぶっちぎりで更新してフロアを駆け上がって行ったのさ。
ああそうだ。勿論ぶっちぎったのはセカンドへのタイムだけじゃなかったんだがな。
もし続きが気になるようでしたら☆☆☆☆☆とか貰えたら嬉しいですm(_ _)m