獣とタイマンを張って褒められるのは外の世界じゃ格闘家くらいだぜ?
更新すこし遅くなってしまいました(^~^;)
やっと“タワー”攻略の佳境に入ります。
どうぞお楽しみに……ヽ((◎д◎))ゝ
「つまり……この扉を見てボスにビビったヤツは、ここから逃げろ。但し二度とこのタワーには入れないって書いてるな。しかも……戦闘中でもこっちの部屋に戻って逃げられるみたいだ。ふん……バカにしてんぜ」
これはつまり……『君達はよくやったから、ここで無理しないで他のタワーに行きなよ。途中で逃げても追わないから!!』と言ってるのだ。
「で、どうするのよ滝沢君。相手が恐竜……ティラノサウルスでも対応策はあるの?」
俺は石碑に蹴りを喰らわしそうになっていたが、涼子の言葉に現実に引き戻された。そうだ……こんな煽りに乗ってる場合じゃない。
「ああ、とりあえずはこのタワーの“主”を確認しよう」
―――――――――
【佐渡ヶ島タワー攻略8時間30分前】
―SUN12:15 十階層フロントルーム―
俺は扉に付いた取手に手を掛けて少しずつ力を込めていく。扉はレールに乗っているタイプらしく一人でも充分に動かせた。とりあえず5センチ程トビラを開けて中を確認すると……中の広さはざっくり体育館程度か。構造はココと同じ、石積み作りで照明代わりに発光している岩も同じだ。そしてその空間の中心部には……
「いや……デカくね?」
そこには、扉のレリーフにそっくりな爬虫類が、どでかい檻に囚われていた。形はティラノサウルスに代表される恐竜に近いが……
「博物館で見たティラノの化石はもっと小さかったぞ」
檻の中に囚われているどでかい爬虫類は、身体の各部を動かして落ち着きなく動き回っていた。それにしても……あれだけの巨体が動いているというのに、こちらには足音すら聞こえない。
「あれは厄介ね……本物の事はよく知らないけど、あそこのアレは生粋の捕食動物だわ。音も無く対象に近づいたら、遠慮も躊躇いも無く……ついでに悲鳴すら無く、身体の半分はアレの口の中に消えてるわね」
いつの間にか……俺の下から中を覗いていた涼子が自分の見解を述べた。それは概ね俺も同じ意見だが……これは困ったぞ。俺と涼子が扉から離れると、今度は環奈と莉子ちゃんが同じ様に中を覗き込む。二人も中に居る巨大な爬虫類を見て絶句している。
「……で、どうするんすか? 予定どおり火攻めしてみるっすか?」
莉子ちゃんが言うように、俺はドラゴンを火攻めにする前提で準備をして来たんだが……
「こんな密閉空間に居るとは思って無かったからな……積んで来た燃料と捕獲装備を使ったら……今度は俺達までこんがり焼き上がりそうだ」
俺は最後のドラゴンを、転換増幅したスピードでワイヤートラップに捉えて焼き殺すつもりだったんだが……
「ここ、多分入室したらあの檻が開放される感じですよね。ワイヤーを固定する場所も無さそうだし……このまま燃料を流しこんで火攻めしてみます?」
環奈が檻の中に居るうちに攻撃してはどうかと提案する。燃料を直接ぶつけられるならそれも悪く無い案だが……
「それだと万が一攻撃が開放のトリガーだった場合、火だるまのティラノがこっちに突っ込んでくる可能性がある……それに、もし燃料をかけた途端に攻撃判定されたら……」
懸念はそれだけでは無い。こっちが持ち込んだ燃料(高機動車の燃料と共有可能なディーゼル燃料)の残量で殺しきれなかったら……いや……
俺はもう一度扉の隙間からティラノがいる部屋の中を確認し、それから俺達がいる部屋も、もう一度確認して回った。
俺の行動を不思議そうに見ている三人と少し離れた所に来た俺は、PDに小声で話しかける。
「PD……俺の言う状況を概算でいいから計算してくれ……」
俺は思い付いた策の内容をPDに説明する。
『不確定要素を現状の情報のみを頼りに仮定するのはオススメ出来ませんが……その策ならば8時間前後の時間を掛ければなんとか……』
「分かった」
俺はPDの計算結果を聞いて決心する。多少頼りないデータを元にした作戦だったが……なに、失敗したって死ぬよりはマシだ。
「みんな聞いてくれ」
――――――――――
【佐渡ヶ島タワー攻略30分前】
― SUN20:15 十階層マスタールーム ―
俺達は前室で合計八時間を費やし……ダンジョンマスターであるティラノもどきを攻撃し続けた。
PDの計算では目的を達成出来るかはギリギリだったらしいが……俺達が最後の部屋に入り、巨大な檻が開放されても……床にだらしなく伸びたティラノもどきは全く動かない。
『こんな言い方はしたく無いけど……このティラノもどき君も、まさかこんな目に遭わされるとは思ってなかったんじゃないかしら』
俺のイヤホンからガスマスク越しのくぐもった声が聞こえる。俺はティラノから目を離さずに、
『タワーの中は知らないけどな、クマやらトラやら……獣とタイマンを張って褒められるのは、外の世界じゃ格闘家くらいだぜ? 俺は格闘家でも無ければコイツみたいな獣でも無いよ』
俺の足元には、高機動車の排気ガスを部屋に流し込まれ……一酸化炭素中毒に陥った白亜紀最強の猛獣が横たわっていた……
『じゃあ、あなた自身は自分の事をなんだと思ってるの?』
『そうだな……さしずめ“タワー”を狩る猟師って所か』
八時間前、当初予定していた戦術が使えなくなった俺達は、装備品のテントやガムテープで、もどきが居るマスタールームを僅かな隙間を残して封鎖し、高機動車の排気口を殆ど直結で繋いだ。
そして、俺達はタワーの環境対策で用意していたガスマスクを装備し、空気と重さの変わらない一酸化炭素が、ティラノもどきを蝕む迄、ひたすら待ったのだ。
前室から定期的にマスタールームを確認していた俺達は、時間を追うごとに弱っていくティラノもどきが、とうとう倒れて動かなくなったのを確認し……初めて前室の扉を開け放って、このマスタールームに入室を果たしたのだ。
「前室に換気口らしき物があったのも助かった。流石にガスマスクだけじゃ、こっちに漏れ出してくる一酸化炭素には、対応しきれなかったかもしれないしな」
俺は慎重に足元のティラノもどきを確認する。まず、用心の為に持ってきたハンマーで横たわった巨体を突くが……奴は、口から紫色の舌がはみ出したまま微動だにしない。口の周りから身体を見れば、身体を覆っているのは図鑑で見る様な皮膚ではなく、トカゲなんかと同じ鱗板と呼ばれる鱗の様だ。
俺が口の状態を確認している時、涼子と環奈は少し離れた所から見物し、莉子ちゃんは巨大な爪が並んだ足元を観察していた。涼子はもしかして“ひき”の画面を抑えているのかもしれない。俺が引き続きティラノもどきの事を調べようと奴の目元にしゃがみ込んだ時……
『おかしいですタキザワ、このドラゴンからエネルギーリソースが回収できません』
「なんだと?」
俺がPDから異変を聞き取ったその瞬間……
ピクリともしなかったティラノもどきの瞳が“ギョロ”と俺の方に向いた……
もし続きが気になると思っていただけましたなら……是非この下にある☆☆☆☆☆をクリックお願いいたしますm(_ _)m




