未知の金属
とうとうローファンタジーランキングで日間“5”位、週間で10位になりました(ᗒᗩᗕ)
自作品が『ジャンル別日間ランキングBEST5』のページに掲載されてるのがちょっと信じられない気分です(⊙_◎)
「畜生、どうやったらアレは死ぬ? いや、壊せるんだ?」
俺が見つめる先には、黄金色に輝く巨人が立っていた。その全高は恐らく5Mは下らない、ゴツゴツとしたプロポーションと複雑な造作の関節、西洋の鎧を思わせる意匠は、俺達の世代からすればある種の“ロボット”を思い起こさせる造作だ。
全力で撤退する装甲トラックからは刻一刻とその姿は遠退き、周囲にはレイドに参加していたエクスプローラー達も粉塵を巻き上げながら退却している。恐らく全員退却は出来た筈だが……レイドメンバーへの攻撃を防いだイーグルスのリーダーは相当の重傷を負った筈だ。
「畜生……」
凡そ半年前……九階層を探検していたパーティが偶然発見したオリハルコンゴーレムは、発見された時点では、唯の石像だと思われていた。古代遺跡風のエリアに屹立する巨人は、ディティールこそ細緻だったが……その素材はどう見ても石だったからだ。
当初、発見したパーティも当然警戒はしていたのだが……それは調査対象である遺跡そのものに対してであり、石像など意識の外の存在だった。それが一変したのは立像の足元にある一枚の石版に手を触れた時だった。
石版に刻まれた紋様の意味は今尚不明だが、最初にこの石版に触れたエクスプローラーにはハッキリと九階層のフロアボス“オリハルコンゴーレム”の発動アナウンスが聞こえたという……
表面を覆っていた石の薄皮を砕いて中から現れた黄金の巨人は、その名の通り凄まじい硬度を誇り、一部のタワー産武器以外では殆ど傷すらつかない。しかも、その巨体が振るう怪力は2tトラックを片手で持ち上げ、軽々と振り回してくるほどだ。しかも発動したが最後、石版に触れたエクスプローラーを九階層全域に渡って追跡し続けるという徹底ぶりだった。
唯一の欠点である鈍足のおかげで、多数の負傷者を出す一方、死人が出てないのは奇跡と言っていいだろう。石版を発動させたエクスプローラーがフロアから撤退するとその場で活動を停止、元の場所に戻るので出現位置は常に捕捉されているが、ボスモンスターの性質上、討伐を避けて先に進む事は出来なかった。
「奴は一体何なんだよ。動く前は“無敵”だし、動き出して“無敵モード”が解除されても殆ど傷もつかねぇ。俺のデュランダルなら多少傷は付くけど、あの硬度の装甲じゃあ、とても破壊出来るとは思えないよ……本当に“鑑定”結果に間違いは無いのか? アイツって動き出したら無敵じゃ無いんだよな?」
トラックの荷台に設えられた移動陣地の中で、俺は隣に立つ青年に問いただした。
「硬いのは元々分かっていた事だが……戦力設定における素材サンプルは、今迄ドロップしたオリハルコンのアイテムを元に計算したものだ。だが、明らかにヤツの装甲は硬度・強度共にこちらの計算を上回っている」
「だから、なんでだよ? 与太でも予測でもいいからなんかないのか??」
俺の言葉に顔を顰めた青年は、しぶしぶといった様子で話しだした。
「……ある学者が提唱した論文に『タワー産のオリハルコンアイテムは、ほぼ単一の元素で構成されている』というものがある。これは地球で運用される実用金属の常識からは考えられない事なんだ。その論文を正しいと仮定すると……あのゴーレムは《合金化オリハルコン》製の可能性がある」
俺は長年の相棒であるセイバーズ⊿の副長嘉弥真慎太郎に視線で続きを促した。
「言っておくが根拠などないぞ。強いて言うなら“そうでなければおかしい”ってのが根拠だ。恐らくあのゴーレムは俺達にとって未知の金属……または元素と合金化されているんだ。でなければ同じオリハルコン製の武器から繰り出された攻撃や、オリハルコンでさえ耐えられない攻撃スキルにあれ程耐える説明がつかない……」
――――――――――
「A級エクスプローラーの鼎さんが撤退? “ゴーレム”ってそんなに強いんすか?! しかも佐渡ヶ島の9階層に居るのは“オリハルコンゴーレム”なんすよね?!」
ゴーレムの生の感想を聞いた莉子ちゃんが軽い悲鳴を上げた。
「ええ……ただ、ゴーレムの場合は素材の差がイコール戦力の差とは限らないのよね。実際オリハルコンゴーレムは世界中見渡しても“佐渡ヶ島タワー”でしか発見されてない希少種なんだけど、ミスリルゴーレムや他の素材のゴーレムは幾つかのタワーで存在が確認されてるわ……で、公開されている情報から判断すると、ゴーレムの種類の違いは戦力と言うよりは“特徴”の違いと考えられるのよ」
莉子ちゃんと環奈はベテランエクスプローラーの涼子の話を熱心に聞き入っている。
「まあ、異種のゴーレム同士で戦わせる事も出来ないから、当然直接比較は出来ないんだけど……大きさ一つとってみてもミスリルゴーレムの全高は約2.5M、これはオリハルコンゴーレムの約半分。他のスペックについてもミスリルゴーレムはオリハルコンゴーレムより低いものが殆どよ」
「それじゃぁオリハルコンゴーレムなんてどうやって倒せば……」
「でもね……オリハルコンゴーレムのスペックの中でミスリルゴーレムに敵わないところも沢山あるのよ……その最たるものが重量と敏捷性よ。観測データからすればオリハルコンゴーレムのパワーウェイトレシオはミスリルゴーレムに勝るけど……実際にはミスリルゴーレムのスピードと敏捷性なら、オリハルコンゴーレムは全く触れる事すら出来ないでしょうね」
そこで環奈が疑問を口にした。
「えっと……パワーウェイトレシオって確か単位重量あたりに使用可能な力の事ですよね? その理屈ならオリハルコンゴーレムの方が素早いんじゃ??」
「確かに、直線で加速するだけならね……でも戦闘は単純な加速の比べっこではないでしよ? 例えば加速した後には必ず減速が必要でしょ? その時、慣性の法則はどう働くと思う?」
「あっ、そうか……ごめんなさい私、体育会系の頭なんで……」
不意に始まった物理の講座に、ついこの前まで現役の高校生だった環奈がタジタジになっている。一方莉子ちゃんはこれでも現役の理系大学の学生なのでそれほど混乱はしてない様だ。
「まあ、だからと言ってミスリルゴーレムがオリハルコンゴーレムを破壊出来るかと言えばそれもね……オリハルコンゴーレムの耐久性は当然知ってるんでしょ? 滝沢さん」
「あっ……ゴボゴホゴホ……ああ、勿論だ」
俺は涼子の話を横耳に聞きつつ、明日の段取りを考えていたので、突然話を振られてタバコに噎せてしまった。それを見ていた涼子は心配そうに、
「ねぇ……本当に大丈夫? オリハルコンの硬さと強靭さは鋼鉄の粘りを保つ劣化ウランに例えられるのよ?」
くそ……油断してた。考え事の最中に話し掛けるのは勘弁してくれよ……と、言いたい所だが涼子は不安を隠そうともせずに俺の方を見ている……
「大丈夫だよ……そもそも最初からゴーレムと戦うつもりなんかねぇからな」
もし続きが気になるようでしたら………是非☆☆☆☆☆とか貰えたら嬉しいですm(_ _)m




