佐渡ヶ島支部最高責任者 ―ギルドマスター―
「あなたは“スキル持ちのC級エクスプローラー”がどういう存在なのかの認識が全く足りていません。勿論、一口にスキル持ちやC級と言っても能力にバラつきはあります。だが……少なくともそこに居る二人は、外の人間から見たら十分なバケモノなんですよ」
俺は金子さんの語る内容に何と答えれば良いか分からず、曖昧な表情で頷く事しか出来ない。その表情を見た金子さんは小さく溜め息を吐いて更に言葉を続けた。
「いいですか滝沢さん? 彼等の持っていた“剣術”と“フレア”のスキルは、一般人が突然達人クラスの剣術を身につけたり、魔法と見誤る超自然現象を起こせたりする様な危険極まりない代物です。当然タワーの外でのスキルの行使は、緊急避難を除いて明確な犯罪ですし、ギルド側も独自に重い罰則を設けています」
「はい……それについては探検者講習でも重ねて注意を促されましたね」
「ならば理解出来る筈です。そんな“超危険人物”の二人掛かりでの襲撃を、私が見るかぎり貴方はなんら危なげなく……しかも襲撃相手すら無傷で取り押さえた」
そこまで言うと……金子さんは一旦話を区切り、胸ポケットからチーフを取りだして汚れた眼鏡を拭いた。これは多分……俺に“言いたい事があるなら今の内だ”って促してんだろうなぁ。なんせそんなバカモノ共……いやバケモノ共を無傷で取り押さえた俺も、彼から見たら同様の……いや、得体が知れない分もっと危険な人間かも知れないからなぁ……
「無傷って訳じゃありませんよ。今も体中筋肉痛ですし、頭痛も半端ないです。それに……ギルド規約には『自分の持つ技能については必ずしも報告の義務を負わない』とありましたが?」
「よく勉強されておられます。だが、その条文の一つ前には『ダンジョン内で取得した情報の内、探検者全体の利益を左右すると判断され得る物は可能な限りギルドを通じて共有する義務を負う』という一文もあった筈です」
これは……まぁ仕方ないな。どちらにしろ、ある程度の“タワー”の情報は近い内に発表する予定だったし……
「まぁ、確かに俺はギルドが知らない事をある程度掴んでますよ……」
金子さん……“やっと白状したか”みたいな目で見るのは勘弁してくれ……
「それについては……まぁ明日にでも探検者協会に伺ってお話ししますよ……」
そこまで言った時、丁度“一攫千金”の敷地に、パトカーとギルドの応援車両が大量に雪崩込んで来た。オーソドックスなパトカーと世紀末なデコレーション盛り盛りの車両がつるんで走ってくる光景は何とも形容し難いものがあるな……
「ここではこの位にしておきましょう。ただ……私が一存で情報を止めておけるのは長く見積もっても明日一日程度ですので……よろしくお願いしますよ?」
――――――――――
警察とギルドの応援は、諸々の後始末(俺の愛車は“フロスト”のスキルを持っているというギルド職員が一瞬で消火?して、ギルドのレッカーが運びさってしまった)を済ませた後“佐渡ヶ島ゴールディズ”の二人を連行していった。
とりあえず一段落した俺は、奴等の狙いが自分にあった事を本間親子に改めて謝罪した。正直、追い出されても仕方ないと思ってたんだが……こんな大騒ぎになったのに、親父さんも環奈もまったく気にせず、それどころか逆に愛車の件を慰められる始末だ。
「すいません……娘さんに“タワー”関連の助言をお願いしてしまったせいで……」
「気にせんで下さいよ。滝沢さんに落ち度はねぇし、ウチの被害は窓ガラス程度だ。それにウチのバカ娘に改めて問い質したら、滝沢さんはウチの娘の命の恩人だって言うじゃないか!」
俺は親父さんの言葉に恐縮しつつ、食べそこねていた夕食に箸を巡らせている。ちなみに親父さんの隣に居る環奈はそっぽを向いて知らんぷりだった。一応口止めはしておいたんだが……まあこの大騒ぎでは話さざるを得ないか。
その後……何とも心苦しいが俺はそのまま“一攫千金”に宿泊し、翌日の午前中に環奈を伴ってギルドに向かった。来た時と違って小さなボストンバッグとズタ袋には採取した角、あとはケース入りのバットが二本という良く分からないスタイルで……
ギルドに到着した俺は、環奈に角の処理を頼み、受付で来訪の趣旨を告げる。既に受付カウンターには俺の事が周知されていたらしく、俺は昨日知り合った中川京子に案内されて一人で別室に通された。
俺の職場とまるで違う手際の良さに関心しながら、案内の京子に続いて入室する。と、そこには既に金子さんが居た。そしてその隣には髪をアップに纏めたスーツ姿の女性……
俺は見慣れ無い女性の登場に金子さんへ視線を向けた。金子さんは落ち着かない様子で俺から女性へ視線を移し、無言のまま頷く。と、女性はソファから立ち上がり、滑らかな手付きで懐から名刺を取り出し、流れる様な仕草で俺に手渡して……
「はじめまして。当、佐渡ヶ島探検者協会の最高責任者を務めております、神山奈緒子と申します」
と名乗った。えっと、金子さん? 情報が全く止まってないんだが……
――――――――――
予定外の大物に対応されて驚いたが、俺もこれで社会人の端くれだ。使う機会は想定していなかったが一応持ってきていた名刺を取り出し、改めて失礼のない様に差し出した。
「……これはご丁寧に。私、N県N市の市民課に勤務しております滝沢秋人と申します。金子さんには先日より大変お世話になっております」
俺は出来る限り丁寧に対応したつもりだが……何故かギルドマスターを名乗る女性は金子さんに視線をむけて訝しげな表情をしている。その様子を見た金子さんは、いつもの冷静な表情にほんの少し苦笑を浮かべてギルドマスターに告げた。
「マスター申し訳ありません。伝え忘れていましたが、滝沢さんは専業のエクスプローラーでは無く、本業は市役所の職員です。一応申し添えておきますが“探検者”は公務員服務規程における副業規制の対象外となっておりますので……」
「ああ!! これは失礼、エクスプローラーは兼業されている方が少ないものですから……今回は当ギルド管轄のエクスプローラーがご迷惑をおかけしました」
「……いえ、ギルドはあくまでもタワーの管轄が主業務だと理解しておりますので……お気遣いは無用に願います」
俺はとりあえず無難な対応をしながら相手の出方を伺う。勿論、今後のエクスプローラーとしての活動を考えればギルドと敵対するのは得策ではないが……それも相手次第だ。
「ありがとうございます。それでは時間を浪費するのも申し訳無いので進めて参りましょう。先日に起こった事件の顛末は既に金子マネージャーから報告を受けております。その中で私どもの疑問は一点のみです。つまり滝沢さんは昨日が初めての探検の筈なのに、どうして“スキル”を持っているのか? という事です。勿論、我々も初アタックで早々にスキルを入手される事が“あり得ない事では無い”と承知してはいます。ですが実際問題として、滝沢さんは入塔後真っ直ぐに紫草平原に向かっておられます。これは我々からすれば、入塔前からスキルを所持していたとしか思えない行動です」
ギルドマスターの神山さんは若干早口になりつつ一気にギルド側の疑問をぶつけてきた。まあ、こうなる事はある程度想定の範囲内なので、俺は二人の反応を見ながらゆっくりと返答を始めた。
「まぁ、いわゆる“タワー内でドロップするスキル”と若干認識は違いますが……確かに私は佐渡ヶ島タワーへ入る前から能力を持っていました。むしろその能力の習熟が今回の入塔の目的とも言えますが……」
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