一攫千金 ―ゴールドラッシュ―
「さぁ、せいぜいコイツを高値で売りつけてやろう」
改めて並んだ査定カウンターはさっきよりも更に混雑していた。本間さんいわく週末のこの時間はかなり混雑するものらしい。
「お待たせしました、こちらにどうぞ」
やっと俺達の番になったので二人でカウンターへ行き、まずは探検者証を提示する。受付の女性は、今日だけでもかなり色んな所で見かけたセンサーを二人のタグにかざした。
「はい、確認いたしました。滝沢秋人様と本間環奈様ですね。査定をご希望の品は何になりますか?」
俺は無言のまま背負ってきたズタ袋をカウンターの上に置いて中身を取り出した。中から出てきた紫色に輝く一対のツノを見た査定員の顔色が一瞬で驚きの表情に変わる。
「これは……見事なアーマーバッファローの角ですね。サイズは共に80cmを越えていますし……状態も採取してさほど時間が経っていない様に見えますが?」
へぇ、サイズはともかく採取してからの時間なんて分かるのか……
「採取の時間は今日の午後三時過ぎって所だが、そんな事まで分かるんだな?」
「アーマーバッファローの角は切り離された時から徐々に組成が変化します。その経過時間によって表面の色合いも変化しますので、新鮮な物ならある程度は判断出来ます。それにしても、このサイズをお二人で? 2ndフロアの中でもアーマーバッファローは狩猟ランクB-を誇る高難易度モンスターですよ?」
またしても関係者から向きじゃない認定をされてしまった。まあいい、今更だ。
「ああ、仕留めるのに苦労したよ。で、幾らくらいになる?」
「この角は宝飾品としても珍重されますが、取れてから三日迄は一部の医薬品の素材として高額で取引されています。詳細は重量に依存しますが……今の状態なら一本200万円、合わせて400万円は下らないでしょうね」
勿論、佐渡ヶ島に来る前にネットで検索していたのでおおよその相場は知っていたが……なるほど、一攫千金を狙うエクスプローラーが後を絶たない訳だ。
俺は努めて表情に出さない様にしたのだが隣で聞いていた本間さんは驚きのあまり固まってしまっている。
「その査定ならこちらには不服はないな。ただ、このままギルドに売却する前に“自由販売掲示版”への掲載を申請したいんだが?」
“自由販売掲示板”とは探検者協会独特のシステムでギルドの会員同士や事前にギルドに登録されている企業等がタワーで採取された物品を直接取引する為の掲示板だ。
ここに掲載出来る品物はギルドの査定済証明が添付されるので品質はお墨付き、更に通常の流通経路とは違い直接取引が主体となるので売り主は通常の相場より高く、買い主は安価に入手出来るメリットがある。売買が成立すれば決められた割合でギルドへの手数料が徴収される。
「了解いたしました。では専用端末をご用意しますので必要事項の入力をお願いします。画像や動画も一定数掲載可能ですが撮影はご自身でお願いいたします」
そう言って、受付嬢はスマホより少し大きいサイズの専用端末を貸してくれた。
俺は必要な事項を入力し、画像と動画を受付嬢のアドバイスに従って撮影した。暫くすると必要な事項の入力は全て終わり、画面に表示されている【送信】をタップすれば終了になる状態まで来た。
最後にもう一度視線で本間さんに確認する。彼女が頷いたのを確認した俺は【送信】をタップし、そのままタブレットを受付嬢に手渡した。
「よしOKだ。確認してくれ」
「かしこまりました」
既に受付嬢の手元のデスクトップには入力した内容が表示されているのだろう、俺が返却したタブレットはそのまま充電スポットに置かれ、ベテランらしい受付嬢は軽快なタイピングで内容を確認している。
「……商品はギルドの保管庫を使用せずに本間環奈様が個人保管するという事でよろしいでしょうか? 万一紛失・盗難等の被害に遭われても補償は行われませんが?」
「構いません」
「……かしこまりました。それでは自由販売掲示板にEクラスEXP本間環奈様が採取されたアーマーバッファローの角を出品させて頂きます。期限は明日の17:00迄で買い手が無しが確定した場合はギルド買取対応。以上で宜しいでしょうか?」
先程とは逆に本間さんが俺に視線で確認してくる。俺が頷くと、
「よろしくお願いします」
「承りました。明日までよろしくお願い致します」
俺達は軽く受付嬢に会釈し、順番を待っている後ろのエクスプローラー達に席を譲ってその場を離れた。
ギルドでしなければいけない事は全て終わったので、俺達は予定通り軽トラで本間さんの実家がある市街へ向かった。
「一応、京子ちゃんにはラインしておきましたけど……今日の買取査定の内容を金子さんに報告してもらえばいいんですよね?」
「ああ、それで良い。まぁどう転ぶかは分からないがね。それより、親父さんの返事は?」
「ええ、そっちは大丈夫です。相変わらず暇みたいで……私がエクスプローラーのお客さんを連れて帰るってラインを送ったら随分張り切っているみたいです」
「そいつは楽しみだ。急な宿泊希望で申し訳ねぇが……」
「いえ、こちらこそ命を助けて頂いたのに碌なお返しも出来ずに……これからは滝沢さんなら何時でも大歓迎ですよ……いつまでおもてなしで出来るかは分かりませんけど……」
あんまり考え過ぎるのも良くねぇぞ……
彼女の実家は、島外から来るエクスプローラー達が最初に訪れる界隈らしく、宿泊施設と飲み屋等が軒を連ねる隅でポツンと営業していた。店頭に煌々と輝く発光看板には、
【呑み何処・宿泊 一攫千金】
と、筆文字が大きく躍っていた。
「すいません悪趣味で……お父さん、あんまり人の意見を聞かないタイプの人で……」
「……まぁ、いいんじゃないか。親父さん正直な人柄なんだろう」
「うう……恥ずかしい……」
――――――――――
「まったく……ついてねぇ。あの幼体が親から離れた時はチャンスだと思ったのに……」
「いつまでグチグチ言ってるのよ? あんな数の群れに逃げ込まれたらどうしようも無いじゃない」
「そうだけどよ……」
「まぁまぁ、姐さんも兄貴も一旦落ち着きやしょう」
まったく……手間かけさせるんじゃねえよ脳筋男と銭ゲバ女が。俺達のパーティが今しなきゃいけねぇのはそんな言い争いじゃねぇだろ。
「とにかく……アイツラから依頼を受けちまった以上、アーマーバッファローの角を用意出来なきゃ俺達は終わりですぜ。今から単独行動してる幼体を探すのはどう考えても現実的じゃねえっすよ。リスクは多少上がりやすが単独行動中の成体を狙うしか……」
「馬鹿ヤロウ、そんな事してたら仕留めた所で、結局間に合わねぇよ」
そんな事は分かってるが他に何か手があんのかよ……コイツの脳筋は本当に文句だけは一人前だが事態を解決するような意見はついぞ吐き出したことがない。もうそろそろこのパーティも潮時かも……そんな事を考え始めた時、微かにだが妙な音が聞こえた。
「ん? 何の音でがしょ?」
断続的に響く強い擦過音と連続するエンジンの響き……誰かが何かしらの工具を使っている? この紫草平原で?
「兄貴、姐さん、行きましょう。もしかしたら……なんとかなるかもしれやせんよ」
もし続きが気になるようでしたら☆☆☆☆☆とか貰えたら嬉しいですm(_ _)m




