Tower on the 理不尽……①
【日本 N県 某山中】
「マジかよ……」
突然すぎて想像し辛いかもしれないが……
どんな人間でも“人生が根こそぎひっくり返される時”ってのはこんなモンなんだろうか??
――――――――――
その日……俺は実家が管理しているN県の山中に居た。と、言っても俺の実家は富豪って訳じゃない。平地や水場もロクにありゃしない植林用の山なんぞ、今の時代じゃ全くと言っていいほど使い道がない。実際俺の一族も随分前にこの地を離れ県庁所在地に住んでいた。
俺には既に両親や親類もなく、この山もたまに管理道路の点検を兼ねてキャンプに入る程度で既に資産価値などゼロに等しい。たぶん……今日までは……
何故って?
俺の目の前には建てた覚えの無い円筒形の物体が鎮座していたからだよ。
「コレ……“タワー”だよな?」
目の前の建造物……おそらくこの10年のうちに全世界に次々と現れたダンジョン……通称“タワー”と呼ばれる存在なのはほぼ間違いないだろう。
「おいおい……マジかよ。こいつは死んだばぁちゃんの導きか? コイツを政府に売りとばしゃあ……」
俺は植林用管理道路の突き当りに現れた謎の建物を前に俗な想像を巡らせる。何しろ「タワー」ってヤツの内部には……『別の次元が拡がり物理法則は捻じ曲げられ地球ではあり得ない品物が発見される』って話だ。俺の頭が黄金色に染まっちまうのも仕方ないってもんだろう?
「……これ“タワー”だよな?」
目の前にある建造物(?)は確かに世間に知られている特徴があった。
見た目は岩石なのかコンクリートなのか分からないが灰色一色。今迄何もなかった筈の場所に突然現れ、入口は扉の無いアーチ型のゲートが有るのだが何故か内部は全く見通せない。普通入口から入り込む光で少しくらい中を見通せそうなものだがゲートで区切られた所から内部は漆黒の闇が見えるのみだった。
「だけどこれ……小さ過ぎないか?」
俺が感じた違和感……国策で問答無用に国に管理される“タワー”がどうして今迄発見されなかったのか……小さいのだ。各国で発見されたタワーはある日こつ然とその場に現れ、人類の度肝を抜いたものだが“見つからない”という事はなかった。
何故ならタワーは基本的に巨大だからだ。何故かあらゆる測定方法が無効化されるせいで詳細なサイズは今なお不明のままだが、現在発見されている全てのタワーの頂上は雲を突き抜ける程の高さと広大な専有面積を誇るのが目視だけで容易に確認出来る。
「………」
俺は眼の前のシロモノを改めて見てみる。確かに特徴として“タワー”そのものだ。だがそのスケールはどう見てもコンクリ打ちっぱなしの個人家屋にしか見えない。
「入ってみるか……」
とりあえず中に入れば分かる筈だ。初めてのタワーが世界で発見されてから10年程……既にタワーの中についての情報はかなり開示されている。その中の一つが“ファーストフロアは安全地帯”というのがある。情報が開示されているタワーの全てにある特徴としてゲートから侵入すると最初に現れる“エントランス”と呼ばれるフロアでそのフロアには中央にある階段以外何一つ存在しないらしい。
「よし……行ってみっか」
一応言い訳しておくが、本来の俺は実に小市民な男だ。基本的に慎重な性格で夜中の赤信号も守るしエスカレーターをドタドタ登ったりもしない。電車の列に横入りする事もないし、役場じゃあ出来る限り笑顔を振りまいてる。たまたまお釣りを多く渡されてもキチンと返却する様にしている。何が言いたいかと言うと……つまり俺はこの時随分と普段とは違う行動を取った事になる。
中の事を知っていたってのもあるが、やっぱり25年も生きてきて初めて“未知の事象”に遭遇した事に興奮していたんだろう。
「……いやその前に」
自分の行動を再確認する様に一人言を呟いた後、俺は自分の軽トラに一旦戻り、今日のキャンプの為に用意していた装備から重荷にならない程度に選別した物を改めてリュックに詰めなおした。
最後に伐採作業用のヘルメットと藪漕ぎ用に持ってきた爺ちゃんの形見のナガサをベルトに止める。
「まあ用心するに越したこたぁないよな」
俺は今度こそ真っ暗なゲートの前に来た。それでとりあえず……拾った小石をそっと投げ入れてみる。小石は何の抵抗も受けずに黒い壁に吸い込まれて音一つたてなかった。
「ふむ……じゃあコイツはどうだ?」
次に俺は軽トラから持ってきた竹箒を黒い壁に差し込む。
「感触なし……いや」
今度も黒い壁に音もなく吸い込まれたが、今度は竹箒を手元で動かしてみる。すると竹箒は壁の向こうから地面の感触を伝えて来た!
「ふう、とりあえず真っ逆さまって事はないか……」
俺は意を決して黒いゲートに少しだけ指先を触れる。何一つ感触を残さず手は向こう側にすり抜けた。それから向こう側に右足だけを踏み入れ、足元がある事を再度確かめた後で恐る恐るゲートの向こう側に顔を入れた。
「………大丈夫そうだな」
思い切って中の様子を見た俺は若干がっかりした。他のタワーの様子を伝え聞いた話と同様、ゲートの中には何も無かったからだ。大きさも外見なりで床はタイル張り、壁は外壁の質感そのまま。上は吹き抜けになった空間の上に若干発光している天井があるだけ。他のタワーにはフロア中央に階段が在ると聞いていたがそれすら無い。俺はそのままゲートの中へ入り、改めて周りを見渡した。
「これは……ハズレか?」
人生で初めてと言っていいほど緊張しながら未知の体験に踏み込んだというのにこれはないんじゃないか?
「いや、まだ分からん。とりあえずゲートはあったんだ。ここが“タワー”なのは間違いないだろう。手の混んだイタズラにしては大掛かり過ぎるしな」
改めて入ったゲートから離れ、とりあえずフロアの中央あたりまで来た。ほんの5〜6メートル歩いたらもう目的地に到着してしまった。
「やっぱり何も無いか……これじゃあ政府も買ってくれねぇかも知んねぇなぁ」
せっかく一攫千金を引き当てたと思ったのにがっかりだ。こんな倉庫にしか使い道のなさそうな建物どうしろってんだよ。俺はどうにも落胆を抑えられずにうつむいて溜息をついた。
「ん?」
自分の足元に視線を向けた時、そこには他のタイルとは違う模様が入ったタイルが一つだけあった。
「これは……」
俺はそのまま地面に膝を着けてそのタイルに触れた。今迄の行動を考えれば迂闊に過ぎたが、何も無い空間のせいで若干油断してた事は否めない。触れたタイルは硬質の質感とひんやりとした温度を指先に返してきたが形が違う以外は周りのタイルと変らない様に見えた。
「うーん……なんだこれ? 模様が違うだけか??」
そのタイルだけがこの空間で意味ありげな造形を持っていた事もあり色々と触ってみると、タイル中央にある丸い部分に指先が触れた。すると……
― Qun…… ―
『コアユニットをオープンします』
突然何かの作動音が響き、タイルの周囲に円形のスジが浮き上がったと思うと……そのスジに沿って円柱型の“何か”がゆっくりせり上がって来たのだ。
突然の事にビビった俺は、即座にその場からバックステップで距離をとった。俺があたふたしてる間にも円柱はせり上がり続け、最終的におよそ1.5メートルくらいで止まった。上がってきた円柱型の物体は側面が透明で、ともすれば何かを展示するケースみたいに見える。
俺は恐る恐るせり上がってきた展示台の様な物に改めて近づいていった。あと少しで手を伸ばせば触れられる位置まで来た時、いきなり電子音声が“せり上がって来た物”の紹介をし始めた。
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