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幸太郎にチャンス到来か

「こーちゃん、なんか用?」

 隣を人、半人入れるくらい空けて歩く天音の質問にまたそっけない感を感じる。

 手か肩がぶつかるぐらい寄りたいものだ。


「なんか用って、それは……天音と二人で帰りたいだけ」

「…………」

 ふと、黙り込んだ天音を見ると少し照れくさそうに頬を赤らめている。それに少しばかり心が浮かれるのである。


「こーちゃんとこ、決まった?文化祭の出し物」

「うん。船越学級委員の独断」

 やっぱりである。一組は独裁者がいるのだ。


「なに?何するのっ?」

「歌ヘタ選手権」

「ははははっやっぱり船越学級委員は有能だね。」


「天音達は文化祭何するって?」

「ゾンビ」

「ゾンビになるのか?天音が?」

「うん。やりますって言わなかったんだけど、村上先生の無差別チョイスに当たっちゃった」

「無差別……」

 苦笑いする幸太郎は何やら心配している。


「か 噛みついたりする?」

「それは来てのお楽しみっ」

「ふっ 俺の歌もな」

「えっこーちゃんヘタ選手権出るの?」

「強制」

「ははははっ」


 久しぶりの二人だけの談笑にいつの間にか人半人分くらいの隙間が拳一つ程になっていた。


「天音、俺がさもし……」


「にーちゃん、なに睨んでんだよっ感じわりぃな」

「…………」

 見てもいないし、睨んでもいないはずである。どっからか湧いて出たヤカラな若者が前に立つ。金髪のマシュルームカットである。

 明らかに視線は天音を見ている。

 さらに、あと二人近づいてきた。身構える幸太郎は小さな声で呟いた。


「天音、走れ。コンビニ いけ」


 天音は幸太郎が心配で動けない。

 と、一人が天音の手を掴む。

「やめろ 触るな」と幸太郎が叫ぶ


 辺りは誰もいない道であった。

「なんだよ テメエ 彼氏とかじゃねーよな ぜったい」


「あんた達、ボコボコにされるぞっ」と天音が叫ぶ

「ひゃー怒ってるよ。可愛いね〜おっぱいデカ」


 その言葉に幸太郎はキレたようだ。

「うるせーっ俺の大事な女だ!!!!」


 俺の大事な女という、ヤンキーものかはたまた任侠ものの見過ぎか、悪そうなイケメンから出そうなセリフを叫んだ途端あまりの似合わなさに静寂と化す一帯。


 しかし、幸太郎はキレたまんまだ。

「離せ、そして消えろ」

「はあ?」


 ボコスカッ ボコスコッ ドーンッ


 一瞬で圧勝である。すぐに天音の手を引き走る幸太郎。

 こんな状況でもパッとしない寝たみたいな目で走り続ける彼を見ながら走る天音。


 現場からかなり離れ息切れする二人。天音の息切れも普通の息切れである。もう豚鼻など聞こえてこない。


「こ こーちゃんっ」


 ぎゅっとされる天音


 今回ばかりは幸太郎独占である。むぎゅむぎゅあたるその感触に少しハッとしたのは仕方がない。

「大丈夫か 天音……怖くなかったか」

「……うん ビックリした」

「俺が弱そうに見えたんだな」

「こーちゃん、俺の女だって ふははは」

「あ 変だった?」


 一番始め、幸太郎は男の娘状態の天音を『大事な幼馴染だ』と言った。

 今回の一言に感動した様子の天音は幸太郎の胸の中で呟く。


「変な男前だった……ありがと」


 この調子であれば幸太郎の自我の開放は上手く行くかもしれない。あとはニセ彼氏をどう引き離すかである。だが万が一天音がニセ彼氏を好めば、幸太郎はきっとショックで立ち直れないかもしれない。


 今彼は幸せをいっぱい噛み締めたように、天音を抱きしめポッとし続けている。


「こーちゃん……長いっ」

「あっ失礼」

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