ヒロインの後ろ
「おはよう」
最近は杏里に遠慮し一人で歩いて登校している天音。冬でも汗をかいて教室に到着する。
「おはよう 天音」
「おはよう」
「あれっ最近ちょっと天音ちゃん一回り小さくなったんじゃない?!」吉高玲司の茶化しが入る。
「そう?じゃますますがんばるわーっ」
「天音ちゃんが痩せたら、惚れちゃうかも!覚悟だよ〜」
そうだ。きっと天音が前ほどに痩せたら一番に言い寄るであろうイケメン吉高玲司である。
昼休み
幸太郎はさっと立ち上がり消えた。きっと杏里と弁当食べながら話の続きがあるのだろう。
天音はひとり机で今日もまた小さな弁当箱を開く。
と、そこへ勝太郎がやって来た。
勝太郎が弁当箱を二つ取り出す。ざわつく女子達。
「あれ?こーちゃんなら弁当いらないでしょ。屋上だろし」
「おまえにだっ」
「え?おばさんが?」
「違うっ。」
興味本位で覗いたその弁当は、まさに彩り豊かかつヘルシーな女子弁当。
「え 私あるよ 弁当」
「そっちのは俺が食べる」
「は?しょーたろ二個食べるの?」
「ん」
何がなんだか分からないが、ちゃらんぽらん特製ヘルシー弁当を頂く天音であった。
「まじで?これ作った?あんたセンスあるね。調理師学校とかどうよ」
ゴリ ゴリゴリ ゴリ
「おいっ天音 この人参なに?」
「なにって、ただの人参」
「かたっ。生でもないなんで?」
「チンした 十秒くらい」
「はあ そんなんじゃ嫁に行けないぞ」
「嫁には行かないし」
「え?!」
高二女子のお嫁に行かない宣言はなかなか突き刺さるものである。わずか17年ほどで何を悟ったのかと。
天音は朝から弁当手作りする男子の気持ちなど分からぬのかそれを食べた責任をとれと、幸太郎に対して言ったのは天音である。
ペロリと食べたのであった。
「うましっ。ありがとう!」
ツヤツヤぷにぷにほっぺを笑顔でピンとさせ、満面の笑みであった。
「どういたしまして」
放課後
「天音ーっ来て」
ツインテールをルンルンさせた杏里に廊下に呼び出された天音はきっと良い報告を貰うのだとズシッと構える。
「こうたろう君と付き合うことになった」
「…………」
「天音?」
分かりきっていた報告に何を思ったのだろうか。
「あ おめでとう」
「ありがとう。天音のおかげだよ。だから今日からは二人で帰るね」
「うん」
杏里はキラキラしていた。青春の恋を掴んだヒロインのようだ。
教室でかばんを取り、「よいっしょ帰るか」
天音は失敗した。
帰り道わずか数メートル先をちんたら歩くその新生カップルに追いつきそうであった。
無駄に脂肪燃焼ウォーキングを身に付けていたのだ。
右往左往しながら、急にテンポを落とし歩く天音の動きは、軽く尾行に近いのである。
前を歩くカップル、彼氏の方はボーッとただ歩くも彼女の方はその彼氏の手をポケットから引っこ抜き自分の手とつなぎ寄り添う。
尾行犯は、そっと違う道へ曲がる。そっちに曲がっても家には帰れない、駅にもたどり着かないのである。
見知らぬ住宅街に迷い込んだ尾行犯は
しっかりとした背を冬の早くなった夕日に向け「何やってんだっ私は」と呟いた。